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『 上杉山御剣は躊躇しない』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
 新潟県は長岡市に住む青年、鬼ヶ島勇次はとある理由から妖を絶やす為の組織、『妖絶講』への入隊を志願する。
 人の言葉を自由に操る不思議な黒猫に導かれるまま、山の中を進んでいく勇次。そこで黒猫から勇次に告げられたのはあまりにも衝撃的な事実だった!
 勇次は凄腕の女剣士であり妖絶士である上杉山御剣ら個性の塊でしかない仲間たちとともに、妖退治の任務に臨む。
 無双かつ爽快で華麗な息もつかせぬ剣戟アクション活劇、ここに開幕!

本編

鬼ヶ島勇次(おにがしまゆうじ)くん、大変かにゃしいお知らせになるんにゃが……」
 目の前にいる黒猫が鳴き声訛りで人の言葉を話しているという異常事態に際しても、鬼ヶ島勇次と呼ばれた短髪で赤茶髪の少年はツッコミを入れるでもなく、驚くでもなく、ただただ茫然と耳を傾けるしかなかった。
「『妖絶講(ようぜつこう)』に入り、世を乱す悪い妖(あやかし)を絶やしたいという、君の固く強い決意、実に見事にゃものにゃ。ただ……」
 黒猫がわざとらしく咳払いをして、間を取る。
「……ただ?」
 間に耐えかねた勇次が訝しげに尋ねる。黒猫は目をつむり、首を左右に振ってから、呟く。
「君は我々のおこにゃった測定の結果……霊力ではにゃく、高い妖力を秘めた『半妖(はんよう)』ということが分かったのにゃ。つまり……」
「つまり?」
 黒猫が少年の青い希望を粉々に打ち砕く残酷な事実を淡々と告げる。
「君の妖絶講への入講は取り消し。更に、たった今から君は『根絶対象』とにゃる」
「『根絶対象』だぁ? 一体そりゃどういうこった、よ⁉」
 人語を操る不可思議な黒猫を問い詰めようとしたが、何かに気付き、勇次はその場に素早くしゃがみ込む。次の瞬間、勇次の頭部を刀が僅かに掠め、勇次のすぐ後ろに生えていた太い木がスパッと斬れる。根を失った幹が一瞬空中を漂い、地面に落ちて鈍い音を立てる。
「な……⁉」
 自身の後方を確認した勇次は信じられないといった表情を浮かべる。
「ほう、今の一撃を躱すとはどうしてにゃかにゃか……」
 黒猫の感心したような声にハッと我に返った勇次は黒猫の方を見る。黒猫の近くには白髪のミディアムボブでストレートの女性が立っている。黒地に金のボタンが映える軍服のような服に身を包んでいるその女性は勇次よりはやや小柄であるが、女性にしては長身の部類である。
「女……⁉」
 若い男である勇次としては黒のプリーツミニスカートから覗く黒色のストッキングを穿いた長くしなやかな脚、細すぎず、太すぎずといったボディライン、ふくよかなバストにも視線を奪われかけたが、何よりも目を引いたのは女性の右手に握られた日本刀である。
「……」
 女性は無言のまま刀を構え直し、静かに勇次の方に向き直る。
「! ま、待て!」
 勇次の言葉を無視して女性が斬りかかる。
「ちっ!」
「!」
 勇次は再び女性の繰り出す攻撃を躱すと、身を翻して、背中を向けてその場から逃げ出す。
(い、痛え! 躱したと思ったら頬をかすったのか⁉ とにかくここは逃げるしかねえ!)
 勇次は心の中で叫ぶと、一目散に駆け出す。ここは新潟県長岡市のとある山の中である。生い茂った木々に身を隠す、又は反撃を試みるということも考えたが、先程太い木を一刀両断してみせた相手である。丸腰という自分の状態を踏まえても、ここは恥も外聞も無く、逃げるのが正解かと思われた。
(俺の足なら撒ける!)
相手から少しでも距離を取ろうと、一直線ではなく、わざとジグザグに走る勇次。世界記録を狙えるとまでは言わないが、足の速さにはそれなりに自信があった。しかし、後方の気配は消えない。勇次は走りながら顔だけ振り返ってみると驚愕する。女性がすぐ側にまで迫ってきていたのだ。その手に持つ刀を振れば届く距離である。
「マジかよ⁉」
 驚く勇次と女性の目が初めて合った。整った目鼻立ちの美しい女性である。
(び、美人だな……)
 心のほんの片隅ではあるが、この切羽詰まった状況において、勇次は呑気過ぎる感想を抱いてしまう。一方、勇次の顔を見た女性の目には若干戸惑ったような感情の動きが見られた。だが、女性は大きく振りかざした刀を振り下ろすことは止めない。
「くっ! どわっ⁉」
 よそ見をしていた勇次は何かに躓き、派手にすっ転ぶ。結果として、三度女性の繰り出す斬撃を躱すことが出来た。しかし、急な下り坂をそのまま転がり落ちる形となってしまう。
「うおおおおっ⁉」
 下り坂の終わりはやや高さのある段差となっていた。地面に叩き付けられる恰好となった勇次だったが、咄嗟に受身を取った為、生じる痛みは最小限に抑えることが出来た。着ている服は上下ともにボロボロである。もっとも、のんびり痛みを感じている場合ではない。勇次はすぐさま身を起こし、状況の把握に努める。どうやらやや広い山道に出たようである。
「! あれは!」
 勇次の目の先には誰かが乗り捨てたのか、古びた車があった。勇次はすぐに駆け寄り、運転席に乗り込み、ハンドルの脇を確認する。運の良いことに、キーが差したままであった。勇次はそのキーを捻る。
「来い! 来い!」
 ベタなB級映画のようなセリフを叫びながら、勇次は何度かキーを回す。すると、エンジンが始動した。心の中で幸運に感謝しつつ、勇次はハンドルを掴む。彼には運転の経験は無い。だが、友人の家族によく車には乗せてもらっていた為、要領はなんとなくではあるが、分かっていた。サイドブレーキを外し、シフトレバーをドライブに入れて、車を発進させる。
「この先を行けば道路に出るだろう、多分! まず山から下りる!」
 少々おっかなびっくりの運転であったが、勇次は車で整備されていないデコボコの山道を進む。自分でも見通しが甘いかと思ったが、道路が見えてきて、勇次は喜びの声を上げる。
「よっしゃ! このまま道路を下って街に行って……⁉」
 車が揺れる。デコボコした道を通っているそれとは別の揺れである。車に何かが飛び乗ったのである。勇次がすぐにその何かを察する。
「はあ⁉ あの女、上に乗ったのか⁉」
 勇次が上を見上げたその瞬間、刀が車の屋根を貫き、刀の切っ先が勇次の頬を掠める。
「どわあっ⁉」
 文字通り血の気が引いた勇次はなんとか気を取り直し、女を振り落とそうと車を左右に蛇行させる。しかし、女の気配は相変わらず頭上にある。
「くそっ!」
 勇次はハンドルを叩いて悔しがる。間もなく道路に出るという所で、刀が引き抜かれる。再び突き刺されたら、今度は躱せない。間違いなく頭から串刺しだ。それは避けねばならない。ではどうするか、一瞬考え、すぐに答えを出した勇次だが、その答えを選ぶことに僅かに躊躇った。それでも、背に腹は代えられない。
「ええい! 恨んでくれるなよ!」
 勇次は車を真っ直ぐ走らせたまま、運転席のドアを開けて、勢い良く外に飛び出し、コンクリートの道路に転がる。車はそのまま道路を横切ってガードレールを突き破り、崖から真っ逆さまに落ちるはず……だった。勇次は自分の目を疑った。
「なっ⁉ 車が……凍った⁉」
 ガードレールに衝突する手前で車が凍りついていたのである。氷の塊と化した車の上で白髪の女が振り下ろした刀をゆっくりと構え直す。
「あ、あいつがやったのか……?」
「そうにゃ、あ奴は氷の術者でもあるからにゃ~」
 呑気な声色で黒猫が勇次の近くに歩み寄ってくる。
「氷? 術者? 訳分かんねえ……そんなのアリかよ……」
 そう言って勇次は道路上で大の字になる。もはやこれ以上彼に抗う気力は残されていなかった。そこに刀を手にした女がゆっくりと近づいてくる。勇次は女に声を掛ける。
「……冥土の土産に教えてくれないか、アンタの名前は?」
「……」
「いや、無視かよ……」
 女は黙って刀を振り上げる。黒猫が口を開く。
「最期に教えてやるにゃ、こ奴……上杉山御剣(うえすぎやまみつるぎ)は躊躇しにゃい」


「はっ!」
 目覚めた勇次がガバっと飛び起きる。一呼吸置いて自らの状況を確かめる。
「ベッド? 俺は道路で寝ていたんじゃ……ひょっとして、ここがあの世ってやつか?」
「残念にゃがら、この世にゃ……あの世ではわざわざ病院服も病院食も用意されにゃい」
 黒猫が勇次のベッドにヒョイっと飛び乗る。
「まあ、ワシも死んだことにゃいから知らんけどにゃ」
「お、お前は……変な猫!」
「いや、直球な物言いだにゃ⁉」
 黒猫は驚いた様子で勇次の顔を見る。
「だって他に言い様が無いだろう……」
 勇次はベッドの脇のテーブルに置いてあったバナナの皮を剥き、頬張る。
「いくらでもあるにゃ! 『人の言葉を話す賢い猫ちゃん!』 とか!」
「賢いっつーか、正直不気味だ」
「『俺を幸せに導く運命の黒猫だ!』 とか!」
「今の所……不幸に巻き込もうとする化け猫だな」
「ば、化け猫⁉ 言うに事欠いて、このガキ……」
「お? やるか?」
 バナナを頬張りながら、勇次はファイティングポーズを取る。
「目が覚めたと思ったら、もう親睦を深めているのか、結構なことだ」
「「⁉」」
 ベッドの脇にいつの間にか白髪の女が立っている。刀は腰の鞘に納められたままで、空いた右手には紙袋が下がっている。
「あ、アンタには聞きたいことが山ほどあるんだ! 何で俺を問答無用で殺しに来たんだ? 半妖ってなんだよ? 根絶対象ってずっとそのままなのか⁉」
 ベッドから転がり落ちそうになるほどの勢いで迫る勇次を女は白手袋を付けた片手で制し、ゆっくりと話し始める。
「アンタでは無い、私には上杉山御剣という名がある」
「じゃ、じゃあ、上杉山さん? 御剣さん?」
「名前で呼ばれるのは私の立場上あまり好ましいものではないな……」
「ど、どうすれば……」
「隊長と呼べ」
「た、隊長……ぶほっ!」
 御剣は勇次の顔に紙袋を押し付ける。勇次の答えを待たずに、淡々と告げる。
「それに着替えて、十分後、第二作戦室に来い。分からないことはこの変な猫に聞け」
「変な猫って言うにゃ! ワシには又左(またざ)って名前があるんにゃ!」
「それは失礼。では又左隊員、新入りの指導をよろしく頼む」
 軽く敬礼をして御剣は部屋を出ていく。
「むう……にゃんだか面倒を押し付けられたような……と、とりあえず着替えるにゃ。詳しいはにゃしはそれからにゃ」
「いまいち状況が掴めねえんだけどな……」
 ぶつぶつと文句を言いながら、勇次は水色の病院服から黒い軍服調の制服へと手早く着替える。そして、自らの服を指先でつまみながら呟く。
「これは……?」
「妖絶講の男性用隊員服にゃ」
「えっ⁉ 俺、妖絶講に入れるのか⁉」
「……その辺りは廊下を歩きにゃがらはにゃすことにしよう。第二作戦室はここから意外と遠いからにゃ」
 自らの名前を又左と名乗った黒猫は部屋から出ていく。勇次も病院服をベッドの上に畳んで置き、又左の後に続く。
「ここは病院かなにかか?」
「妖絶講の北陸甲信越管区……通称『第五管区』の隊舎の一つ、拠点施設にゃ」
「妖絶講に拠点なんてあるのかよ?」
 勇次の質問に又左は露骨にため息を突いて、逆に質問する。
「そもそもとして……君は妖絶講についてどれ位知っているのにゃ?」
「妖を絶やすための組織だろう?」
「また随分とざっくりとした認識だにゃ……」
「しょうがねえだろう、つい最近までは都市伝説みたいなもんだと思っていたんだからな、大真面目に調べたことは無えよ」
「その信じるか信じにゃいかは貴方次第!の都市伝説をどうやって突き止めたのにゃ?」
「ある人に聞いたからだ……それが誰なのかはその人に迷惑が掛かるから言えねえけど」
「大方見当はつくけどにゃ」
 又左が鼻で笑う。勇次は驚く。
「マジかよ⁉」
「まあ、それは良いにゃ。改めて聞こうか、にゃぜに妖絶講に入りたいのにゃ?」
「……姉ちゃんが行方不明事件に巻き込まれた。俺はそれを妖の仕業だと踏んでいる」
「ふむ……」
「妖のことをよく知っているのは妖絶講だ。そこに入れば、姉ちゃんのことも何か分かるかも知れない……そう思って、お前らへの接触を試みた。正直半信半疑だったけどな」
「にゃるほどね……ただ結果として、君は根絶対象になってしまったと」
「それだ、その根絶対象ってどういうことなんだよ⁉」
「簡単なことにゃ、君が半妖と認定されたからだにゃ」
 又左が淡々と答える、
「半妖?」
「君は半分人間で半分妖ってことにゃ」
 衝撃の事実に勇次はしばし愕然とするが気を取り直して尋ねる。
「……で、でも俺の両親は人間だぜ⁉ 爺ちゃんも婆ちゃんも!」
「残念ながら血筋の問題では無い」
 勇次が声のした方を見ると、廊下の先に腕を組んだ御剣が立っていた。
「妖力の高い人間はよく生まれる。そう珍しいことでは無い」
「そ、そうなのか?」
「確率としては……そうだな、百人に一人位だな」
「え、多くね⁉ 百万人に一人とかじゃねえのか⁉」
「いいや、百人に一人だ」
「マジかよ……それじゃあそんなにレアじゃねえじゃん……」
「え⁉ そこにガッカリするのか⁉」
 肩を落とす勇次に又左が驚く。勇次がハッと顔を上げる。
「で、俺は何で生きているんだ?」
「お前はそう珍しくは無い半妖の中では結構珍しい種族の半妖だと判明したからだ」
「や、ややこしいな」
「他にも色々と理由はあるのだが……とにかくひとまずは生かしておけとの命が下った」
「ひ、ひとまずって……」
「立ち話もなんだ。作戦室に入れ」
 御剣は首を振り、勇次に部屋に入るように促す。勇次は視線を又左に落とす。
「どうした? 又左が気になるか?」
「いや、こいつもつまり半分猫で、半分妖怪ってことか?」
「なかなかどうして察しがいいにゃ、そう! ワシは妖猫(ようびょう)にゃ!」
「半妖一人と半妖一匹が妖絶講の施設内に……マズくないのか?」
「施設内の妖レーダーが反応し、侵入した妖に対し即座に対応出来るようになっている」
「そのレーダー、確実にポンコツじゃねえか! もしも俺らが暴れ出した、ら……!」
「その時は私が責任を持って始末する。余計な心配は無用だ」
 声を荒げる勇次の首先に御剣があっという間に刀を突き付ける。勇次は押し黙る。
「鬼ヶ島新隊員、作戦室に入れ……」
「り、了解……」
 勇次は御剣に続いて部屋に入っていく。
「揃っているな」
 部屋に入った御剣は三人の女性が席に着いていることを確認すると、彼女たちの正面に立って話を始める。
「紹介しよう、彼が新隊員だ。名前は……」
 御剣が促していることに気付いた勇次は慌てて自分の名を名乗る。
「お、鬼ヶ島勇次だ、い、いや、で、です。よ、宜しく」
「何か質問は?」
「……姐御よぉ」
 勇次たちからは向かって右側の席に座っていた金髪のウルフカットの女性が頬杖をつきながら手を上げる。御剣が指名する。
「なんだ、千景?」
 千景と呼ばれた女性が立ち上がる。勇次と同じ位の身長である。御剣と同じく黒い制服姿だが、胸元は大胆に開けており、白いサラシが見える。勇次はそのサラシにきつそうに巻かれた豊満な胸と、黒のショートパンツと二―ソックスの間に見える、これまた豊満な太ももに一瞬目を奪われたが、すぐに目を逸らす。
「この隊に男を入れるってのか?」
「……別に女だけの部隊にすると決めたつもりは無いぞ。諸君らも重々承知の通り、妖絶講は万年人手不足だ。それこそ猫の手も借りているような状態だからな」
 そう言って御剣はドアの近くに座る又左に目をやる。
「が、それでも不十分だ。男手も無いよりあった方がマシだろう」
「姉様、フィギ……異議ありですわ」
 勇次たちから向かって左側の席に腰掛けている黒髪ロングの女性がゆっくりと立ち上がる。キッチリと揃えた前髪とキチンと着た制服と長いスカートが印象的な彼女は何故か、口に咥えていた棒付きの飴を取り出して、改めて話を始める。
「……古来より妖を退治する妖絶士(ようぜつし)……。その職は女性が多数を占めているという事実はよくご存知のはずでしょう?」
「水準以上の霊力を秘めたものが妖絶士になる。何故かは分からんが、女の方が霊力の高いことが多いからな……何が言いたい、万夜?」
「そちらの殿方……どこの馬の骨かは存じませんが、ちょっとばかり腕っぷしが強い位ではかえってわたくしたちの足を引っ張ることになりますわ」
 万夜と呼ばれた女性はわざとらしく小首を傾げながら、大袈裟に両手を広げてみせる。勇次は思わずムッとする。
「う、馬の骨ってなんだよ⁉」
「てめえみてえな訳分かんねえ奴のことだよ、どうやって姐御に取り入った?」
 千景が勇次を睨み付ける。
「と、取り入ったって……」
「霊力も大して感じねえ、そこのパッツンが言うように、ただのバカ力なら要らねえよ」
「わたくしの名前は万夜です! 全く……いくら前髪が揃っているからと言って、パッツンという安易なあだ名で呼ぶ単細胞丸出しな思考回路と、その粗野で下品な振る舞い……もう少し何とかなりませんこと?」
「常に飴玉しゃぶっているお子ちゃまに言われたくねえんだよ」
「ですから、これはのど飴だと何度も申し上げているでしょう? わたくしは喉を大事にケアする必要性があるんですの」
「そのピーピー煩え無駄口を減らせば良いんじゃねえのか?」
「貴女こそその無駄な脂肪を少しでも脳味噌にまわせば宜しいのではなくて?」
「んだと、コラ……」
「何ですの?」
 部屋の中央で千景と彼女より頭一つ小柄な万夜が激しく睨み合う。それをしばらく眺めていた御剣は力強く頷いて、こう話す。
「うむ! 喧嘩するほど仲が良い! 我が隊は今日も順調だな!」
「「だから、どうしてそう思える(んですの)⁉」」
 的外れな御剣の言葉に、千景と万夜は揃って抗議の声を上げる。二人を一旦落ち着かせて、改めて御剣が話そうとしたその時、勇次たちの前に座っていたピンク髪の三つ編みで度の強そうな眼鏡を掛けた小柄なパンツスタイルの女の子が手を上げて立ち上がる。
「どうした億葉?」
「え、えっと、ですね……拙者の作った、この『霊力妖力測定器』なんですけど……」
「そ、それは⁉」
 勇次が驚いた声を上げるが、慌てて口を塞ぐ。
「その玩具がなんだって?」
「自由研究の発表ならよそでやってもらえるかしら?」
 御剣が茶々を入れる二人をたしなめる。
「待て、千景、万夜……億葉、話を続けろ」
「は、はい。この測定器なんですが、先日誰かに持ち出されてしまったようでして……」
「にゃんと⁉ それはにゃんともまた、悪いことをする奴がいるもんだにゃあ~」
 又左がわざとらしく大声を出す。御剣はそれを冷ややかな目で見ながら、億葉と呼ばれた女の子に話を続けるように促す。
「それで?」
「は、はい。それでこの測定器が無事に戻ってきたんです」
「そ、それは良かったにゃ~解決したわけだにゃ~」
「い、いえ本題はむしろここからでして……この測定器、直近の記録者、測定者がだれか分かるようになっているんです!」
「「‼」」
 驚く勇次と又左をよそに、御剣が結論を尋ねる。
「それで、測定の結果はどうなった?」
「こちらの鬼ヶ島勇次さん、霊力がほぼゼロに近い代わりに、妖力が極めて高い『半妖』だという事実が判明しました! つまりですよ、御剣氏……貴女は『半妖』という存在を、妖を絶やす為に戦う我が隊に迎え入れようとしている……これは一体全体……」
「「「どういうことなんでしょうか(なんだよ)(なんですの)⁉」」」
 三人同時に詰め寄られて御剣はやや気押された様だったが、すぐに答えを返す。
「最初に言う。問題は無い」
「し、しかし、半妖を部隊に加えるというのはいささかリスキーでは?」
「知っての通り、今まで前例が無い訳では無い。そして極めて珍しい種族の半妖だということだ、その力を上手く活用せよと上からの命令だ。それには従わざるを得ない」
「高い妖力を持っているということですが?」
「現在は不思議なことに妖力のコントロールが出来ているようだ。恐らく偶然だろうが。とにかくこのままならば特に心配は要らないだろう」
「妖力が暴走した場合はどうするんだよ」
「そうならないように指導するし、常に目を光らせる。それでも運悪く暴走してしまった場合は……私が責任を持って処断する……それで今日の所は納得してくれないか」
 御剣の言葉に三人は渋々ながらも引き下がった。御剣は力強く頷く。
「理解を得られて嬉しく思う。それじゃあ改めて三人も彼に名前を教えてやってくれ」
「アタシは樫崎千景(かしざきちかげ)だ。この上杉山隊の特攻隊長をやらせてもらっている。アタシの足引っ張るんじゃあねえぞ……!」
「わたくしは苦竹万夜(にがたけまや)です。以後お見知り置きを。この上杉山隊の副隊長を務めさせて頂いております。精々足手まといにはならないで下さいましね」
「拙者は赤目億葉(あかのめかずは)です。この隊の技術開発研究主任を請け負っております。武具のことなどお気楽に御相談下さい。半妖の力、非常に興味あります。ドゥフフフ……」
「あ、ああ、宜しく頼む」
「名前を覚えたり、呼ぶのが面倒だったら『億千万トリオ』とでも呼べば良い」
「だからその雑なくくり止めろよ!」
「適当な扱いに抗議致しますわ!」
「せ、拙者は結構気に入っていますけど、ドゥフフフ……!」
 次の瞬間、作戦室に警報が鳴り響いた。御剣が叫ぶ、
「出動だ!」


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