『祓っていいとも!』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
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あらためてわたしの名前は最寄田静香。16歳。この春から高校二年生だ。
さて、つい昨日、『新宿オルタナティブ学園』の二年生に晴れて進級した記念すべき日だったのだが……なんとも驚くべきことがあった。学園名変更? 残念ながら違う。
……白髪でイケメンの陰陽師と会ったのだ。いや、何を言っているのだと思われるのも分かる。わたし自身も同じような気持ちだからだ。最初はその恰好から、どこかの神主さんかと思った。神主さんにナンパされるとはまったく予想だにしていない。戸惑いつつも話を聞くと、その白髪イケメンの男性は、明石家天馬さんと名乗り、自分のことは陰陽師だと言った。馬鹿馬鹿しいと思ってしまった。陰陽師なんて映画や漫画、とにかくフィクションの中の話だと思っていたからだ。過去に――平安時代? 千年前?――そういう役職の方たちが本当に存在していたことくらいは知っていたが。何故現代の新宿に?
天馬さんは整った顔立ちで柔和な笑みを浮かべた。人によっては、それだけで警戒心を解く人もいるだろうし、むしろ警戒心や猜疑心を強める場合もある。わたしの場合は後者だった。ごく普通に生きてきたつもりなのに、陰陽師さんに話しかけられるとは思えない。そりゃあ、高校に入学してからは不幸な体質に改善?――この場合は改悪か――したように感じていたが、それが現代日本に今何人いるのかも分からない陰陽師さんの知るところになるだなんて、本当に想像もしていない。
しかし、天馬さんが言うには、わたしは妖を引き寄せやすい状態――ベタに言うと霊感が強い。言い換えれば妖力アンテナがビンビンに張っているとか……ダサいので、前者を採用――に突発的になっているという。実際昨日、三つ目小僧に遭遇してしまったのだから、信じるしかない。まさか一般人のわたしにドッキリを仕掛ける意味もない。この学園は人に悪戯するような妖たちの通り道だという。わたしは天馬さんとともに『祓い屋』として、妖撃退にあたることとなった。そんな……わたしは唖然とするしかなかった。
……まあ、嘆いてばかりもいられない。天馬さんの話では、妖の出現頻度というのは週に一度か二度らしい。ボランティアだと思えば良い。履歴書にはあまり詳しくは書けなさそうだけれど。前向きに捉えることにしよう。……うん?
「……」
何やら校舎前がざわついているな……。平和に過ごしたいところだが……む?
「ああ、グッドモーニング! いや、おはようか。とうとう出会えたね……」
アメコミ映画から飛び出してきたヒーローのような恰好をした、栗毛色の髪の男性がわたしに向かってにこやかに挨拶をしてきた。
「ど、どなたさまでしょうか……?」
わたしは困惑気味に応える。新年度二日目、またもや予想外の幕開けだ。
「最寄田静香さんだね?」
「は、はい……」
わたしは頷く。
「新年度二日目か、思ったよりは早く出会うことが出来て良かったよ……」
栗毛色の髪をした青年は胸に手を当てて、にっこりと微笑む。かなりハンサムな顔立ちをしている。髪型も短すぎず長すぎず、整っているし、清潔感を感じさせる。まさにお手本のようなイケメンだ。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付き、首を傾げる。
「うん? どうかしたのかな?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒しているのかい?」
「ま、まあ、そうですね……」
昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。
「ははっ、私は決して怪しい者などではないよ」
「そ、そうですかね⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。高校生が集まっている中で、アメコミ映画の登場人物のような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うのだが。コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。
「そうだよ。だからそんなに警戒しないでもらいたいな」
「……何故、わたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、君に用があるからだよ」
わたしの問いに対し、青年は頷いて、わたしを指し示す。
「……趣味は人それぞれだと思いますけど、いきなりコスプレというのはちょっと……なかなかハードルが高いというか……」
「! わっはっはっは……!」
青年は高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いえ、失礼……私はコスプレイヤーではないよ。こういうものだ」
「え? め、名刺……? ええっと、浜松……こうとさん?」
「エリートだ。浜松功人(はままつエリート)……単なるスーパーヒーローさ」
「ス、スーパーヒーロー⁉」
わたしは思いもかけないフレーズに驚く。
「そうだよ、ごくごく普通の」
功人と名乗った青年は整った髪をかき上げる。
「スーパーヒーローはごくごく普通ではありませんよ!」
「そうかい?」
「そうですよ! 初めて見ました!」
「初めて?」
功人さんは驚いて目を丸くする。
「ええ、初めてです! 激レア!」
「こんなに大都市のトキオで?」
功人さんは両手を広げて、周囲を見回す。トキオって言い方なんだか腹立つな。
「はい」
「近くの新宿ステーションは世界一の乗降客数だと聞くよ?」
「そ、そうらしいですね……」
「それなら中にはいるだろう、スーパーヒーローの一人や二人」
「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりはしませんから……日本のヒーローは正体を隠すんじゃないですか、知らないですけど」
「ふむ……日本のスーパーヒーローというのは奥ゆかしいのかな……」
功人さんは顎に手を当てて呟く。
「お、奥ゆかしいかはどうかは知りませんが……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待ってくれないか……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返る。
「………」
功人さんは左腕に巻いた腕時計のような機器を操作しながら、周囲を伺う。
「あ、あの……?」
「……うん、とりあえずは大丈夫のようだね」
功人さんは頷く。
「は、はあ……」
「……そうだな……放課後、またお話出来るかな?」
「ええ……」
わたしは露骨に困惑する。
「おや、困惑しているね。どうしてだい?」
「いや、どうしてだいって言われても……」
「コーヒーをご馳走するよ?」
「……コーヒーって、学食のでしょ?」
「学外がご希望ならそれでも別に構わないのだけれど……」
「いや、いいです。失礼します」
「待っているよ」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この怪しげなイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。功人さんが何故かそこにいたからだ。
「やあ♪」
「……なんでここに?」
「いや、学外でお茶するならこちらの方が良いお店が近いのでね」
「……そういえば、もしかしてなんですけど……」
「ああ、私は転入生だよ」
「せ、制服を着てなくても良いんですか?」
「特例で認めてもらったよ」
「そんなことが……」
「出来るのさ。スーパーヒーローだからね」
功人さんがウインクしてくる。わたしは思ったことを口にしてしまう。
「……そんなスーツを着ていて恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしい? どこかだい?」
功人さんが両手を広げる。
「いや、結構ピチピチだし、周りから浮いているし……」
「周囲と違うのは恥ずかしいことじゃないさ。ステイツで個性の大切さを学んだからね」
「ス、ステイツ?」
「ああ、合衆国のことさ。あちらで過ごすことが多かったからね」
「……アメリカ帰りのスーパーヒーローさんが何の御用ですか?」
わたしの若干イラついた視線に功人さんは苦笑交じりで応じる。
「何かトゲを感じるが……あ、出てきたな、ヴィランだ。さあ、共に戦おうじゃないか」
「はいいっ⁉」
功人さんの提案にわたしは驚く。
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