見出し画像

『 もっともな戦隊はごもっともな変態!?』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「まったく……」
「だ、誰?」
「おやおや、わたしのことを知らないとは……」
 眼鏡をかけた青年が呆れたような視線を美蘭に対して向けながら生徒会室の中へスタスタと入ってくる。
「し、知らないわよ、転入生なんだからしょうがないでしょう?」
「……これまでも」
「は?」
「そうやって知らないで済ませてきたのですか?」
「え?」
情報弱者は淘汰されていくのがこれからの世ですよ?
 青年は生徒会室の中央辺りで美蘭の方に振り返り、眼鏡をクイっと上げる。
「じゃ、弱者って私のこと……?」
 美蘭が自らを指差す。
「貴女以外に誰がいるのですか?」
「! い、言ってくれるじゃないの!」
 美蘭がムッとする。
「……」
「大体、あなたこそ私のこと……」
「亜久野美蘭……2年V組の転入生……」
「!」
「……存じ上げていますが?」
「わ、私がさっき転入生って言ったからでしょう⁉ たまたま目にした情報を覚えていただけのこと……!」
「好きな食べ物はサバの水煮……」
「‼」
「……いかがですか?」
「なっ……そんな情報は自己紹介でも言っていないはず……」
 美蘭は困惑する。
「貴女のことは一応ですが、リサーチ済みですよ」
「そ、そんな……」
「この学院の学生や教職員のデータについてはすべて把握していますから……」
「! す、すべてですって……?」
「ええ」
「あ、ありえないわ……!」
 美蘭が愕然とする。
「それがありえるのですよ」
「ば、馬鹿な……」
「この生徒会の頂点に立つ者ならば当然です」
「ちょ、頂点?」
「ええ、そうです」
「あ、あなたは一体……」
「この最上学院の『最高』の生徒会副会長、青港正高(あおみなとまさたか)です……」
「え……?」
「以後、お見知りおきを……」
 正高と名乗った青年は軽く頭を下げる。
「ふ、副会長と言いました?」
「ええ、言いましたね」
「そ、それでは、頂点ではないのでは?」
「はあ……」
 正高は露骨なため息をつく。美蘭が戸惑う。
「ええ?」
「貴女も所詮はその程度ですか……」
「そ、その程度って……」
「人を肩書でしか評価出来ないとは……」
「い、いや、副会長は副会長でしょう?」
組織というものは大なり小なり、ナンバー2が支えているものです
 正高が右手でピースサインを作る。
「そ、そうでしょうか?」
「そうなのです。例えば、新撰組の土方歳三などはご存知ありませんか?」
「お、『鬼の副長』の……」
「そう。彼が新撰組の組織というものを作り上げた……」
「はあ……」
「故に……」
「故に?」
「ナンバー2が実質頂点なのです」
 正高がピースサインから、中指を折り、人指し指をビシっと立てる。
「そ、そうでしょうか⁉」
「そうなのですよ」
「……さっきから黙っていれば、聞き捨てならねえな……」
「あ……」
 強平が土下座した状態のまま、正高を睨む。
「おや、聞こえていましたか……」
「嫌でも聞こえる! 誰が頂点だ⁉ 会長は俺だ!」
「お飾りに過ぎません」
「なんだと⁉」
「貴方には知性というものがまるで感じられない。野生味は多少あるようですが……」
「カ、カリスマ性だってあるぜ!」
「自分で言いますか、それを……」
 正高が呆れる。
「う、うるせえな!」
「仮にカリスマ性というものが備わっていたとしても、簡単に土下座するような人間には無用の長物でしかありませんね……」
「! こ、これは……!」
「プライドというものがないのですか?」
「い、いや……」
「まあ、貴方はそれくらいの方が良いですよ」
「な、なに?」
「『頭が高い』という言葉があるでしょう? 貴方は本来、それくらいわたしに下手に出るべきなのです。もっとも、元々わたしより背が低いですが……」
「! なっ……」
「ちょっと!」
「うおっ⁉」
 美蘭が正高の足を払う。不意を突かれた正高は膝をつく。美蘭が声を上げる。
「あなた何様よ! そうやって人を見下すような奴が人の上に立つべきではないわ!」
「⁉」
 驚く正高の視線を受けて、美蘭がハッとする。
「……あ、い、いや、これは……!」
 室内にブザーが鳴る。強平が舌打ちする。
「悪の組織が侵入⁉ 現在出動出来るのは……」
 正高がすっと立ち上がる。
「……わたしが行きましょう……『セイバーチェンジ』!」
「えっ⁉」
 正高が左腕に着けた腕時計を操作すると、青い眩い光に包まれ、ヒーローの姿になる。
「少しお待ちください。悪の組織を片付けて参ります」
「ブ、ブルーセイバー⁉」
 窓から飛び出していった正高の背中を美蘭は驚きの目で見つめる。
「コウモリ怪人さま!」
 全身黒タイツの者が蝙蝠の顔をした怪人に近寄り、敬礼する。
「……首尾はどうだ?」
「はっ! 各地点に散らばりました!」
「うむ……」
「それでは実行に移します!」
「ま、待て!」
「えっ⁉」
「えっ⁉じゃない! なにを実行に移すつもりだ⁉」
「……さあ?」
「さあ?じゃないだろう!」
 コウモリ怪人が呆れる。
「ええっと……」
「指示を仰がないで行動するつもりだったのか?」
「ま、まあ……」
「なんということだ……」
「考えるよりもまずは動いた方が良いかと……」
「それはそうだが……」
「どうすればよろしいのでしょうか?」
「事前に話したはずだが……まあいい、今一度確認だ。私が校舎の屋上に向かう」
 コウモリ怪人が屋上を指差す。戦闘員が首を傾げる。
「屋上に……ですか?」
「ああ」
「なるほど、なんとかと煙は高い所が好きということですか?」
「違う! この広い敷地内を見渡すにはちょうどいい場所だろうが!」
「あ、ああ……」
「……貴様、ひょっとしてケンカを売っているのか?」
「と、とんでもありません……」
 戦闘員が慌てて手を左右に振る。
「……まあいい、私が屋上から指示を送るから各自その通りに動け」
「……飛べるんだから、最初からあそこに向かえば良かったのでは?」
「なにか言ったか?」
「い、いえ、なんでもありません!」
「よし、それでは屋上に向かう……!」
「待て!」
「!」
 青いスーツを着た男がその場に駆け付ける。
「貴様らの悪事もそこまでだ……!」
「ブ、ブルーセイバー⁉ どうしてこんな場所に⁉」
 コウモリ怪人が驚く。
「言う必要などないでしょう」
「ちっ……」
「聞けば素直に答えると思いましたか? 貴方はアホですか?」
「むっ……」
 コウモリ怪人がムッとする。ブルーセイバーが呆れ気味に両手を広げる。
「まったく……」
「む……」
 コウモリ怪人が周囲を見回す。
「……」
「貴様一人か? 他の連中はどうした?」
「今日は私一人です」
「なにっ⁉ な、舐めているのか?」
「いいえ……情報をもとに冷静に判断したまでです」
「冷静に判断しただと?」
「ええ、それくらいの数ならば、私一人でも十分だと……」
「な、なにを……!」
 コウモリ怪人たちが色めき立つ。ブルーセイバーがため息交じりに呟く。
「はあ……事実を指摘したまでなのですが……」
「ふ、ふん! どこまでその余裕を保てるかな? おい、かかれ!」
「はっ! 行くぞ! お前たち!」
 コウモリ怪人の指示を受け、戦闘員たちがブルーセイバーを包囲する。
「戦闘員ですか……雑魚が何人群がろうと一緒ですよ?」
「我々は戦闘員の中でも選抜された面々だぞ! 最上戦隊ベストセイバーズのメンバーであるお前にだって勝てるぞ!」
「選抜ですか……低いレベルから選んでも大して意味はないと思うのですが……」
「な、舐めるなよ! 行け!」
「おおっ!」
「……!」
「がはっ⁉」
 向かってきた一人の戦闘員をブルーセイバーが銃撃で倒す。
「ああっ⁉ じゅ、銃撃だと⁉」
「素手で戦うなど……それはあくまでも最後の手段です……」
「な、ならば! この部隊でも随一の俊足のお前が行け!」
「うおおっ!」
「はあ……」
「うおりゃあ!」
「………!」
「ぐはっ⁉」
 ブルーセイバーが向かってきた戦闘員の突進を見極め、銃撃一発で倒す。
「ああっ⁉ この部隊でも随一の俊足を一撃で……な、なんてことだ……!」
「……貴方たち、数の優位性というものを活かしたらどうですか?」
「はっ、そ、そうか! よし! お前ら、一斉にかかれ! どおりゃあ!」
「ふん……」
「げはっ⁉」
 ブルーセイバーの反撃で、戦闘員たちはあっという間に全員倒される。
「馬鹿正直に突っ込んでくれば、それだけ当てやすいというもの……むっ⁉」
「はははっ! 上に逃げれば、銃弾も届くまい! ブルーセイバー!」
 コウモリ怪人が翼を広げて空に舞う。
「射程距離というものはどうしてもありますからね……」
「制空権をとってしまえば、どうとでもなる!」
「……はっ!」
 ブルーセイバーがコウモリ怪人より上に飛んで見せる。
「‼」
「『最高』の私の前では無駄なことです……それっ!」
「ごはあっ⁉」
 ブルーセイバーの銃撃を食らい、翼を射抜かれたコウモリ怪人は遠くへ墜落していく。
「終わりましたね。戦闘員たちの確保は警察にでも任せましょうか……さて……」
 ブルーセイバーは生徒会室に窓から戻り、変身を解いて、正高に戻る。美蘭が問う。
「……私の前で変身しても良かったの?」
「まあ、知られても構いません。貴女には尋ねたいことがあるからな……」
「! 尋ねたいこと?」
 美蘭が身構える。潜入がバレたのかと考えていると、正高が近寄ってくる。
「いや、お願いしたいことと言った方が良いでしょうか……」
「お願いしたいこと? !」
「お願いします! さきほどみたいに私を上から目線で罵倒してください! 私が最高すぎるあまり、誰も私を見下してはくれないのです! しかし、貴女なら、私の望みは叶う!」
「⁉ へ、変態⁉
 目の前で土下座する正高を見て、美蘭は困惑する。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,764件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?