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『 ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「到着しました!」
「ふむ……」
 
 着物を羽織った、綺麗な黒髪ポニーテールの女性が、船から降り立つ。ポニーテールが揺れるとともに、腰に提げた刀が音を鳴らす。
 
「報告します! 目付役らは避難! 軽傷者多数!」
「……死者は?」
 
 女性が切れ長の細い目を報告者に向けて問う。
 
「はっ! 死者、重傷者は今のところ確認されておりません!」
「それは結構……直ちに治療班を向かわせろ」
「はっ!」
「……戦闘よりも脱獄することを優先したのか……?」
 
 女性が顎に手を当てながら呟く。別の者が駆け寄ってくる。
 
「報告します! 脱獄を手引きしたのは、ジャックの一味の模様!」
「『野蛮』のジャック……本国でも派手に暴れ回っているやつか……」
「はい! 目撃情報などを照らし合わせても間違いないかと!」
「ここの囚人どもに目を付けるとは……野蛮なやつら同士は引き寄せ合うのか……」
 
 女性が呟く。さらに別の者が駆け寄ってくる。
 
「報告します! 脱獄囚たちはこちらとは反対の砂浜に逃亡した模様!」
「なるほど、ジャックはそちらからこの島に上陸したか……」
「不審船を確認したという情報もあります!」
「第一小隊は監獄を確認! 第二小隊は島の反対側に船を回せ! 拙者は陸路で向かう!」
「お、お一人で大丈夫ですか⁉」
「一人の方が速い!」
「し、しかし、お嬢様にもしものことがあれば……」
「お嬢様ではない! 拙者はアヤカだ! 各員、戦闘準備を怠るなよ!」
 
 アヤカと名乗った女性は颯爽と駆け出す。
 
「は、速い!」
「並の男では相手にならん健脚よ……」
「しかし……少々気負い過ぎでは?」
「とにかく、命令通りに動くぞ」
 
 配下の者たちがテキパキと動く。
 
「……ジャックめ、神出鬼没な奴だ。なかなか捕まらんとは思っていたが、海路……海賊も傘下におさめたのか……凶暴な囚人どもを連れて、本国の海岸沿いを狙われてはマズいな……」
 
 アヤカがぶつぶつと呟きながら、砂浜へ向かう。足取りは素早い。島の地図は上陸前に頭に入れてある為、迷うことなく、砂浜へと向かう。
 
「お、おい、一体どうなってやがる⁉ なんで戻ってきたんだ⁉」
「砂浜にやべえ奴がいるらしい!」
「やべえ奴ってなんだ⁉」
「知らねえよ! 俺らも見てねえし!」
「知らねえのかよ!」
「とにかくこっちから逃げた方が良い! 船もあるだろう!」
「た、確かに、今なら見張りは手薄か! あっ⁉」
 
 三人の囚人とアヤカが鉢合わせする。アヤカが刀の鞘に手をかける。
 
「……大人しく監獄に戻れ……」
「……はっはっは!」
「……何がおかしい?」
「いや、もう追っ手が来たのかと思ったら、か弱い姉ちゃん一人かよ……よっぽど人手不足みてえだな……」
「……貴様ら如き一人で十分だ……刀を使わなくてもな……」
 
 アヤカが刀から手を離す。
 
「な、舐めやがって!」
 三人の囚人の内の一人、小柄な男がアヤカに襲いかかる。
 
「はっ!」
「だあっ⁉」
 
 小柄な男がアヤカに足をかけられて転ばされる。小柄な男は顔を打ち、動かなくなる。
 
「素早い動きだが、直線的過ぎるな……」
「ちいっ!」
「ふっ!」
「づあっ⁉」
 
 大柄な男がアヤカに迫り、細い腕を掴もうとするが、アヤカがあっさりと投げ飛ばす。大柄な男は宙を舞い、地面に叩きつけられ、動かなくなる。アヤカが両手をパンパンと払いながら呟く。
 
「『柔よく剛を制す』という言葉を知らんか……」
「く、くそっ!」
「ほっ!」
「どあっ⁉」
 
 残った中肉中背の男が剣を振るうが、アヤカはその剣を素早くかわし、すれ違いざまに鋭い手刀を叩き込む。中肉中背の男はその場に崩れ落ちる。
 
「その程度では相手にならん……」
 
 アヤカは三人の囚人を手早く縛り上げると、砂浜に急ぐ。
 
(何故、あやつらは引き返してきた……? やべえ奴とか言っていたが……モンスターか? この島にそれほど危険なモンスターはいなかったはずだが……!)
 
「……ん?」
や、やべえ奴だ⁉
 
 ほぼ全裸状態で砂浜に立つキョウに出くわして、アヤカは声を上げる。
 
「な、なんだ⁉」
「いや、貴様がなんだ⁉」
 
 目の前に現れた黒髪ポニーテールの女性が俺のことを指差してくる。切れ長の細い目をより細くしている。綺麗なお姉さん……いや、違う、そうじゃない。身なりから判断するにまともそうな女性だ。わりと早く、話が通じそうな人と出会えた。のんびりひなたぼっこをしている場合じゃない。ここは冷静に対応しよう。
 
「……俺は決して怪しいものではない!」
「どう見ても怪しいだろうが!」
 
 女性が鞘から刀を抜く。日本刀だ――この世界に日本はないから、名称は『サムライソード』か――それは別にいい。それにしてもいきなり抜刀するなんて気が短いのか? それともパニック状態なのか? 俺は両手を挙げる。
 
「……まずは少し落ち着け」
「これが落ち着けるか!」
「貴女はやや錯乱しているようだ」
「錯乱しているのは貴様だろうが!」
 
 はい、論破……されたのは俺か。確かに、腰にやや大きめの海藻を巻き付けただけの男の方が、どこからどう見ても錯乱している。しかし、ここで退くわけにはいかない。
 
「……一体どこが錯乱していると?」
「そ、その破廉恥な恰好だ!」
「それは貴女の感想だよな?」
「え……?」
「ごらんよ、とても美しい砂浜じゃないか。泳ぎや日光浴を楽しむには絶好の場所だ。むしろ貴女のその恰好の方がよっぽど不適切なんじゃないか?」
「……第一に、薄着になるにも限度というものがある。第二に、この砂浜は確かに美しいが、ここは海水浴場ではないし、この島自体もリゾート地というわけではない」
「……」
 
 どうしよう、冷静に反論されたら、凄い恥ずかしくなってきたんだけど……。なんで俺こんな格好なの……? 女性が刀を向けてくる。
 
「黙るな。一体何者だ?」
「……人に尋ねるなら、まず自分が名乗るのが礼儀というものじゃないか?」
「れ、礼儀だと……?」
 
 女性がややたじろぐ。ふむ、どうやらそういうものに弱そうなタイプのようだ。ここは押しの一手。俺はわざとらしく両手を広げる。
 
「やれやれ……礼儀を知らんお嬢さんだ……」
「しょ、初対面の女の前でそんな恰好の奴が礼儀云々言うな!」
「うっ……」
 
 押しの一手をあっさりと返される。やはり、この恰好ではどうしても説得力に欠けるな……。どうする? ……と思っていたら女性が口を開く。
 
「お嬢さんではない……! 拙者にはアヤカという名がある……!」
 
 『アヤカ』か……良い名前だ。しかし、一人称が『拙者』の女性か。初めて会ったキャラがなかなかマニアックだな――ジャック? 誰それ?――とはいえ、世界の東端に位置する小島ならばそんなものかもな……俺は顎に手を当てながら考える。
 
「ふむ……」
「ふむ……じゃない。貴様の名は?」
「ああ、俺はキョウだ……」
「キョウ……そのような名前の者は島の役人名簿にもないし、監獄に収監されている囚人リストにもなかったと記憶している……本当に何者だ?」
「何者だと言われてもな……」
 
 俺は腕を組む。『ブラック企業の元社畜です』などと言っても、余計な混乱を招くだけだろう。この場合どう答えたら良いものか……などと考えていたら、アヤカから次の質問がきた。
 
「どこから来た?」
「……気が付いたら、ここに倒れていたんだよ」
「……そんな話を信じるとでも?」
「……他に説明のしようがない……」
 
異世界から転生してきたんだよね』と言っても、何言ってんだこいつ……的な反応されるのがオチだ。こう言うしかない。
 
「……ジャックの一味ではないのか?」
「……なんでそうなる」
「囚人を解放する為、島に奴らが上陸したという情報は掴んでいる。他に考えにくい」
「……この恰好は?」
「……大方、仲間割れでもして、身ぐるみ剝がされたのだろう」
「ふっ、随分と野蛮な考え方だな……」
「判断材料がそれだからな……どうしてもそういう結論になる」
 
 アヤカが刀で俺の体全体を指し示す。な、なんだ、この羞恥プレイは……。
 
「むう……」
「大人しくしろ、貴様を連行する……」
「れ、連行?」
「ああ、ちょうど監獄があるからな……」
「ま、待て、俺はジャックを追い払ったんだぞ?」
「なに?」
「それに囚人はほとんど叩きのめした……周りを見ろ」
「!」
 
 アヤカはようやく自分の周りに倒れている多くの囚人に気付く。俺の見事な裸体に釘付けだったのだから無理もない。俺は笑みを浮かべる。
 
「……疑いは晴れたか?」
「……貴様一人で倒したというのか?」
「そうだ」
 
 俺は両手を腰に当てて、自慢気に頷く。

「……信じがたい。その恰好でどうやって?」
「拳で」
 
 俺は右拳を握って掲げる。アヤカが呆れる。
 
「ふざけているのか?」
「至って真面目だ」
「ジャックは銃の名手と聞くぞ? どうやったのだ?」
「デ、デコピンで……」
「何を言っている?」
「い、いや、こうやって……ピン!とやって銃弾を跳ね返したんだ……」
 
 俺はデコピンを実演する。アヤカが本格的に呆れる。
 
「ふざけるな」
「大真面目だ」
「お嬢……アヤカ部隊長!」
 
 海の方から男が声をかけてくる。アヤカの部下か。アヤカが声を上げる。
 
「ジャックの船は見つけたか⁉」
「遠くに離れていくのを確認しました! 今から追いつくのは難しいかと!」
「ふむ……では小隊を二つに分けろ! 半分は船を元の場所に戻せ! もう半分は上陸し、ここに倒れている囚人どもを監獄に連れ戻せ!」
「はっ!」
 
 アヤカの指示を受けた部下たちがテキパキと行動する。部下の内のリーダー格のような男が俺を怪訝そうに見つめながら、アヤカに尋ねる。
 
「こ、この者はどうしますか?」
「連行する。きつく縛り上げろ」
「は、はあっ⁉ 俺はジャックとは関係ないって!」
「この島はれっきとした我が国の領土……不法侵入だ」
「そ、そんな……」

第3話↓


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