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『 ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「さっさと歩け……!」
「お、押すな……!」
 
 俺はリーダー格の男に文句を言う。『縛りプレイ』という言葉があるが、実際に縛られるとは……。先を歩くアヤカが振り返る。
 
「貴様、もっと抵抗するかと思ったが……」
「無駄なことはしない」
「格好に似合わず賢明だな」
 
 アヤカは再び前を向いて歩き出す。実際、抵抗する気は無かった。恐らくは勝てるとは思うが、アヤカたちはこの国の正規軍隊のようだ。そんな連中を倒してしまったら、一国を敵に回すことになりかねない。そんなリスクを背負う必要はない。この世界で自由に生きようとは決めたが、いたずらにかき回すようなことは避けたい……あくまでも今のところはだが。とりあえずは流れに身を任せよう。
 
 ……というのは建前で、本音は、縛られた状況で、美人に見下され気味で『貴様』とか言われるシチュエーションにかつてないほどの興奮を覚えている。前世ではまずありえないことだ。こんな体験が出来るとは……転生した甲斐がある。もっとも俺を縛ったのは男だが、気にしないこととする。
 
「ふふふ……」
「な、何を笑っている?」
 
 アヤカが再び振り返る。俺は笑みを浮かべながら告げる。
 
「楽しんでいるんだ、この状況を……大胆不敵だろう?」
「大概な変態だということはよく理解した……」
「酷い言い草だな」
「いいからもっと早く歩け!」
「だから押すな!」
 
 俺は男に文句を言う。アヤカが男に声をかける。
 
「……確認だが、逃げた囚人は全員確保したか?」
「ええ」
「周辺に逃げてはいないか?」
「念のため、捜索をさせています。とはいえ、仮に逃げていたとしても、この小島ならすぐ見つかりますよ」
「取り逃がすようなことがあっては困るぞ」
「そうですね。重大な責任問題になってしまいますからね……部隊長の」
「! あ、ああ……」
「ひとつご提案があるのですが……」
「なんだ? ……ん?」
 
 俺たちの目の前に傷を負った者が現れる。服装からしてアヤカの部下か。
 
「ぶ、部隊長! 囚人どもが武装蜂起を!」
「ど、どういうことだ⁉」
「単に逃げ遅れただけかと思っていたのですが、隠していた武器を持って暴れ出し……」
「第一小隊は⁉」
「奇襲を受け、苦戦中です……」
「くっ……!」
「部隊長、ご提案の続きですが……」
「なんだ! ⁉」
 
 振り返ったアヤカが驚く。男がアヤカに拳銃を向けていたからだ。
 
「勇敢なる部隊長殿にはこの島で名誉ある戦死を遂げてもらおうかと……」
「そ、そんなことをしたらどうなるか……」
「武勇一辺倒の貴女よりも立ち回りには長けております。貴女に責任を押し付け、私が部隊長の後釜に座ります。軍の要職に近づけば、計画も成就させやすい……」
「ジャックと繋がっていたのか⁉」
「さすがに気付きますか……ですが少し遅かったですね……」
「むう……」
「ジャックにこの島を襲撃させれば、貴女がいち早く鎮圧へと動く……軍のエリートを多数輩出する名家に生まれながら、今までこれといった手柄を上げられていない貴女は焦っておられましたからね……」
「くっ……」
 
 アヤカが顔をしかめる。男が周囲に対し声をかける。
 
「おい、そろそろ動けるだろう?」
「ああ……」
 
 囚人たちが自ら縄を解く。他の軍人たちもアヤカに対して銃を向ける。アヤカが驚く。
 
「なっ……!」
「お、おい、噂以上の別嬪じゃねえか、このまま殺っちまうのはもったいねえ、みんなで犯っちまおうぜ?」
 
 囚人の一人が下卑た笑みを浮かべながら、男に提案する。男が苦笑する。
 
「下劣だな……」
「監獄暮らしでご無沙汰なんだよ!」
「まあ、それくらいの褒美は先にくれてやっても良いか。これから私の尖兵として働いてもらうわけだからな……おい、アヤカ、着物を脱げ」
「な⁉ そ、そんなこと出来るか!」
「こいつを殺すぞ?」
 
 男が傷を負っている男に銃口を向ける。アヤカが悔しそうに唇を嚙む。
 
「ぐっ……」
 
 アヤカが着物を脱ごうと手をかける。男が笑いながら告げる。
 
「ははっ、どうせならいやらしく脱げ……ギャラリーを楽しませろ」
「ぐへへっ……」
「き、貴様ら……」
 
 アヤカが震えながら片方の肩を出す。絹のような柔肌が覗く。囚人たちがどよめく。
 
「おおっ!」
「ビュル!」
「のあっ⁉ め、目が……」
 
 男が顔を抑える。
 
【特殊スキル:顔……
言わせねえよ! ってか、どんなスキルだ!
 
 俺は若干前屈みになりながら大声で叫ぶ。
 
【補足:こちらは(オートホーミング機能)になります】
「やかましいわ!」
 
 俺はさらに大声を出す。なんだその無駄な機能……。
 
「き、貴様の仕業か⁉」
 
 男が目を拭いながら、銃口を俺に向ける。俺は頷く。
 
「……認めたくないが、そうだ。しかし、情けない。ちょっと肩を見せられたくらいで……。だが無理もない。そんな薄い本みたいなことをリアルでやられたら……
「何を言っている!」
「お前ら全員ぶっ倒す……!」
 
 俺は低い声色で告げる。
 
「はははっ! やれるもんならやってみろ!」
「……」
 
 男が高らかに笑う横で、囚人たちが一斉に黙り込む。男が首を傾げる。
 
「……どうした?」
「い、いや、こいつはやべえよ……」
「そういえば、こいつがいた……」
「忘れていたぜ……」
 
 囚人たちが皆、俺に対し怯えた様子を見せる。男が声を上げる。
 
「お、お前ら! 何を怖気づいている!」
「……ついさっき、全員こいつにやられたんだよ……ジャックの兄貴も……」
「ば、馬鹿な⁉ ただの全裸男だぞ!」
「全裸じゃねえ、海藻を巻いているだろう」
「なんだ、そんなもの!」
「そ、そんなもの……海藻に謝れ!
「何を言っているのだ、貴様は! お前ら、こいつを殺せ! どうやったのか、不浄なものを顔にかけおって……」
「だ、だけどよ……」
「両腕はきつく縛ってある! 何を恐れることがある!」
「! そ、それもそうか!」
「さっきの借りを返すぜ!」
 
 囚人たちが勢いよく俺に向かってくる。
 
「やれやれ……」
「あ、危ない!」
 
 アヤカが慌てて俺に声をかける。俺は体をくるりと半回転させ、頭を地面に着け、逆立ちのような体勢をとる。
 
「はあっ!」
「!」
 
 俺は頭を軸に回転し、両足を振り回す。向かってきた囚人たちが俺のキックを食らって吹き飛ばされる。
 
【特殊スキル:ブレイクダンスを発動しました】
 
 試しにやってみたら出来た。今の俺ならどんなフロアだって湧かせられるぜ。
 
「なっ……⁉」
「両足も縛っておくべきだったな……」
 
 俺は笑みを浮かべる。男が銃を構える部下たちに声をかける。
 
「う、撃て!」
「は、はっ!」
「おっと!」
「‼」
 
 俺は地面を強く踏み、転がる小石をいくつも宙に浮かせて、飛んでくる銃弾を防ぐ。
 
【特殊スキル:四股踏みを発動しました】
 
 やってみたら出来たぜ(数秒ぶり二回目)。今の俺はどんなちゃんこだって食えるぜ。
 
「な……⁉ 銃弾を防いだ⁉」
「ははっ、だから両足も縛っておけって……」
 
 俺は笑いながら告げる。男が唇を嚙む。
 
「くっ……」
「こっちから行くぜ?」
「そ、そんな状態で何が出来る!」
「出来るんだな、これが!」
「⁉」
 
 俺は体を真っ直ぐにして、ねじりを加えて、水平に飛ぶ。自分でも驚く勢いで飛んだ俺は、頭突きを男の腹に食らわせる。男はその場に崩れ落ちた。
 
【特殊スキル:人間弾丸を発動しました】
 
 やってみたら出来たぜ(数秒ぶり三度目)。今の俺はさながら、さまようことのない青臭い弾丸だ。何を言っているのかは俺も分からん。
 
「……続けるか? 降参した方が良いぜ?」
「わ、分かった……!」
 
 残った部下たちが銃を捨てて、両手を挙げる。俺はアヤカに声をかける。
 
「アヤカさんよ……指示を出しな」
「そ、そうだな……お、お前ら、囚人たちの身柄を確保し、監獄へ連れていけ! 残っている連中にも投降を呼びかけろ! 抵抗は無駄だ!」
「は、はい!」
 
 アヤカの指示に従い、部下たちは囚人たちを再び縛り上げ、監獄へと移送した。監獄に残っていた連中は投降の呼びかけになかなか応じなかったが、アヤカの振るった剣が監獄の分厚い壁の一部を切断する様を見て、ようやく投降した。サムライすげえ。
 
 その後、駆け付けた部隊の手伝いもあり、囚人たちと反乱分子たちは捕らえられた。死者が出なかったことにアヤカは安堵した。
 
「我らの勝利だ!」
「アヤカ部隊長、万歳!」
 
 夜になり、引き継ぎなどを終えた部下たちが船室内で騒ぐ。俺は両手を縛られたまま座っていた。そこにアヤカが酒を持って隣に座る。
 
「貴様、いえ、貴方様のお陰です……誠にありがとうございました」
「いや、大したことはしていない」
「……これからどうされるおつもりで?」
「う~ん、特に決めていない……」
「拙者の部隊に加わってはもらえないでしょうか?」
断る
「そ、即答⁉」
「軍隊なんて息が詰まる。俺は自由に生きる
「自由……なるほど、その破廉恥な恰好にも意味があったのですね」
「いや、この恰好はたまたまだが……」
「つまらぬことを申しました。ささ、どうぞ、お呑みになってください……」
「あ、ああ……」
 
 俺はアヤカのお酌で酒を呑む。日本酒っぽい味……ってか、久々にアルコールを摂取したな……たった一口で眠くなってきた……。
 
「あらあら……これは拙者の部屋に運ばないといけませんね……」
「……はっ⁉」
 
 翌朝、俺は両腕を縛られたまま目が覚める。アヤカが隣で呟く。
 
拙者、職を辞し、キョウ殿についていくことに決めました……
「ええっ⁉ ど、どうして……?」
まるで竜が如く……
 
 アヤカが俺の股間を見て、顔を赤らめながら呟く。意味が分かるようで分からないぞ。ナニかあったんだろうが、意識がない時にはやめてくれよ。なんか損した気分だ……ってか、縄解いてくれても……あっ、力入れたら、あっさりちぎれた……。

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