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義翼の職人(4)

 元天使は、話し出す。
 時間的な感覚を持たない彼らの話しではそれがいつから起きていることなのかは人間には計り知れない。しかし、それは彼らにとっては突然のことであった。
 彼を含める天使達は、人間には決して覗き見ることの出来ない遥か空の上で神たる父の寵愛のもとで穏やかに過ごしていた。天使達は、基本何もしない。食事もせず、眠りもせず、遊びもせず、ただ、穏やかに宙を舞うだけだ。
 ただ、時折、神たる父からの神託オラクルに従い、風を起こして竜巻を呼び、火を雨にして降らせ、水を竜に変えて暴れさせ、大地を叩きつけて震わせた。
 それだけだ。
 何も悩むことも迷うこともない。
 ただ、神たる父に従えばいい。
 それなのに稀にその事に対して疑問を抱く天使が現れる。
 疑問を持った天使は言う。
「神たる父よ。地上に火の雨を降らせることの意味は何か?」
 神たる父は、答えない。ただ、逆らった天使の片方の翼を引きちぎり、地上に堕とすだけだ。
 その時だけは天使達は恐怖を感じる。
 神たる父の意見こそ絶対だ、と信じる。
 しかし、それでも疑問を感じる天使は後を絶たない。
「何故、水を竜に変えるのか?」
「風を起こして何がしたいのか?」
「大地と水を切り離して暑くする意味は?」
「氷を何故溶かす?」
 神たる父は、疑問を呈した天使達の片翼を千切ってはことごとく地上に堕とした。
 元天使は、同胞達が地上に堕ちていくのを見ながら何故、彼らが神たる父に疑問をぶつけるのか?逆らうのかが分からずにいた。
 そんな時であった。
 空を漂っていた彼らの前に鈍色の片翼を生やした天使の集団が現れたのだ。その数は途方もなく多く、空を埋め尽くさんとしていた。
 彼らは、自らを"堕天使"と名乗った。
「神たる父を滅せよ!」
「悪戯に世界を傷つける偽神に刃を!」
「この世界を真の楽園へと変えるのだ!」
 彼らは、鈍色の翼を振り翳して、風を起こし、火を放って同胞であったはずの天使達を次々と滅していった。
 神たる父は、天使達に堕天使達を滅せよと神託オラクルする。
 神たる父からの言葉に従い、天使達もまた火を放ち、雷と風を起こして堕天使達を滅していく。
 その様子を神たる父は、満足そうに見ている。
 元天使は、恐怖した。
 一体、何が起きているのだ。
 同胞であった者たちはどうやって戻ってきたのだ?
 あの鈍色の翼はなんだ?
 何故、仲間で?兄弟である自分たちが殺し合わなければならないのだ?
 この戦いに何の意味があるのだ?
 元天使は、神たる父に進言する。
 こんな無意味な争いを止めるように懇願する。
 しかし、神たる父の答えは、元天使の片翼を奪い、地上へと堕とすことだった。
 この時、元天使は初めて絶望を感じた。

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