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冷たい男 第5話 親友悪友(6)

目が痛くなる青々とした濃い光の中を小さなクラゲが泳ぐ。小さな水槽はランタンの代わりとなり、照明の消えた室内を六等星の光のように弱々しく映す。
 
 見えるのは無脊椎動物のように裸で絡み合う男女の姿。

 聞こえるのは錆びた固いベッドのスプリングと耳の奥に絡みつくような嬌声。

 ハンターは、ロングの子の首筋に顔を埋め、乳房を触り、互いを濡らす。
 ロングの子は、喘ぎ声を上げながらハンターの髪を掻き上げ、骨ばった背中に爪を立てる。
 ヤスリのように尖った爪の先がハンターの背中を傷つけ、薄く赤い線を引く。
 しかし、ハンターは気づかずに行為に及び続ける。
 ロングの子は、汗に濡れる唇をに血のついた爪を当てる。

 ロングの子は、恍惚とした表情を浮かべる、
 それは行為にではない。
 口に含んだ甘く濃い味に。

 ロングの子の瞳が縦長に赤く染まる。

 亀裂のように割れた唇から性欲とは異なる欲が唾液となって溢れ出る。

 その欲の名は・・・食欲。

 縦長の赤い瞳が己が首筋に顔を埋めるハンターの首筋を見る。嫌、正確には首筋に浮かぶ青い筋の中を流れるこの世で最も濃く赤いものを。

 腹が鳴る。

 身体中を絞り込むような激しい音が恥ずかしげもなく惨めに鳴り響く。

 ハンターの耳にもその音は届いたことだろう。
 貪り動かしていた口と手の動きを止める。

 しかし、遅い。

 ロングの子は細い両腕でハンターの身体を抱きしめる。

 強く、骨が軋むほどに強く。

 ハンターの口から苦鳴が漏れる。

 両腕が殺虫剤を浴びた虫のように暴れ出す。

 しかし、逃がさない。

 ロングの子は、亀裂のように開いた口を大きく開き、その中から覗く大きな2本の牙をハンターの首筋へと突き立てた。

「・・・さすがにそのプレイにゃ興味ないわ」

 ロングの子の美しい顔が醜く歪む。
 暴れ回っていたハンターの右腕が蛇のようにロングの子の細い首を取られ、締め上げる。
 ロングの子の口から風船が萎むような呻き声が漏れる。
 ロングの子は、白い足でハンターの腹を蹴り上げる。
 ハンターの手がロングの子の首から離れる。
 その反動でロングの子の身体ばベッドから落ちる。
 ハンターは、蹴られた腹を抑え、口から唾液を吐く。
「・・・しんど」
 ハンターの口から溢れた唾液には薄く血が混じっていた。
「アバラ折れたわ」
 ロングの子は、身体を起こし、縦長の赤い瞳をハンターに向ける。
 ハンターは、蒼く変色した腹を摩りながら笑う。
「フィニッシュまでいきたかったんやけどな」
 そう言って固いベッドの上に立つ。
「貴様は・・・」
 ロングの子は、鋭い牙を剥き出し、剣のように尖った五指の爪をハンターに向ける。
 ハンターは、指を鳴らす。
 ハンターの左側の闇が巻物のように捲れ上がり、ぽっかりと穴が開く。
 そこから顔を出したのは1匹の茶トラだった。
「待たせすぎにゃ」
「悪かったな」
 ハンターは、茶トラに向かってにっと微笑むと穴の中に手を突っ込む。
 ロングの子が身構える。
 縦長の赤い瞳が震える。
 それは強者に向かって威嚇する獣のようであり、未知の恐怖に怯える子どものようであった。
「お前は、直ぐあいつのとこに向かってくれるか?」
「大丈夫にゃ?」
「蚊トンボ1匹わけあらへんわ」
 そう言って穴から手を出してゆっくりと引き抜く。
 穴から抜き出たその手には細く、長い海色の棒状の物が握られていた。
 それはゆっくりゆっくり引き抜かれる。
 海色の長い棒の先は、円状に広がり、網が縫い付けられていた。
 その形状はまさに・・・。
「虫網?」
 ロングの子は、思わず呟く。
「ビンゴ」
 ハンターは、笑う。
 捲れ上がった穴は消え去り、元の闇に戻る。
「蚊トンボ捕まれるのにピッタリやろ」
 そう言って虫網を左肩に乗せる。
「貴様・・・狩人ハンターか⁉︎」
「そや」
 ロングの子は、唇を噛み締め、歯軋りする。
「私を退治ハントしに来たのか・・⁉︎」
 しかし、ハンターは、右手の人差し指を立てて横に振る。
退治ハントやないで」
 虫網を持ち上げ、水平に構える。
捕獲ハントや」
 虫網が音を上げて空を切り裂く。

#短編小説
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