『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第一回 なぜ、今ダイバーシティ経営なのか?
法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 特任研究員
ウィズコンサルティングラボ
中小企業診断士 榎本典嗣
本コラムは、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と同じく中小企業診断士でもあり、社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援されてこられた瑞慶覧先生と連載していきます。
コラムは今後約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。
昨今、グローバル規模でダイバーシティ経営の重要性が叫ばれています。日本においても大企業を中心に少しずつ進み始めているものの、女性の管理職登用の人数を増やすことがダイバーシティ経営の推進であると、少し偏った見方をされている傾向があります。
中堅・中小企業においてもダイバーシティ経営は重要です。人手不足に悩みに悩んでいる中小企業こそ、多様性を受け入れるダイバーシティ経営を推進することが持続的な成長に不可欠であるといえます。
ではなぜ、ダイバーシティ経営がこれほどまでに注目を浴びているのでしょうか。また、そもそもダイバーシティとは何なのか。このことに関して少し深堀をしてこうと思います。
ダイバーシティは、1990年代にアメリカにおいてマイノリティーや女性の積極的な活用を実現するために広がりはじめました。企業においては市場の要求の多様化に応じて、人種・性別・信仰・年齢にこだわることなく多様な人材を活かすために浸透してきています。ただし、日本においては、人種や宗教より、性別や障害等の面に注目した多様性として捉えられている傾向にあります。
企業だけでなく、国のレベルにおいても注目がされており、経済産業省ではダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限に発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
具体的な活動として、ダイバーシティ推進を経営の成果に結びつけている企業の取組みを、広く伝えるために「新・ダイバーシティ経営企業100選」として経済産業大臣表彰を行っています。また、「ダイバーシティ2.0」に取り組む企業を「100選プライム」として選定しています。これら経済産業省の取組みのように、ダイバーシティという言葉が日本においても少しずつ浸透してきており、改めてダイバーシティ経営は注目を浴びているといえます。
注目を浴びるもう一つの理由として、様々な研究機関や企業から出ている各種レポートにあります。例えば、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、グローバル市場において人種・民族・性別の多様性を確保できている企業と、そうではない企業ではパフォーマンスに差がある、という資料を出しています。
また、ハーバードビジネスレビューにおいても同様のレポートを出しています。レポートの中を少し紐解くと、ダイバーシティ経営への取り組みの差は、特にROIの指標において同様の差が顕著に出ているといわれています。
しかしながら、グローバルにおいても全ての企業において多様性が確保できているわけではありません。特に女性の経営への関与比率は低調となっており、女性の管理職や取締役への登用は世界的な課題となっています。
さて、改めて日本に視点を戻してみます。
日本のビジネス環境を俯瞰してみると、今後さらに厳しい状況が待ち受けていることはご存じの通りです。特に少子高齢化はこのコロナ過において加速しており、今後さらに企業は多様性を受け入れた上で業績を向上させることが求められます。そのためには、大企業、中小企業問わずして、多様性を積極的に取り入れるダイバーシティ経営はまさにすぐにでも取組むべき課題であるといえます。
しかしながら、ダイバーシティ経営は喫緊に取組むべき課題であると認識されていながらも、遅々として進んでいない現状があります。
ではどう進めればよいのでしょうか。
まずは、経営側、そして雇われる側の双方がダイバーシティ推進のための取組み、土台作りを行うことが必要です。また、雇われる側のスキルアップは勿論のこと、特に経営側のマインドチェンジが重要となります。例えば、単に女性1人を取締役に登用しただけでは何も解決になっていないことに気がつかなくてはなりません。詳細に関しては次回以降のコラムで展開していく予定です。
第一回では、なぜ、今ダイバーシティ経営なのか、というテーマについて書いてきました。ダイバーシティ経営を推進していくことは国や企業、誰もが必要性を感じています。しかしながら、特に日本においては進められていないのが現状です。その中でも、人材不足・後継者不足といった多くの問題点を抱える、中小企業を中心としたファミリービジネスこそが、率先して取り組むべき課題であると考えます。
本コラムでは、ダイバーシティ経営に取組む大切さへの気づきや、進めていく上で必要となる様々なファクターを2人の目線で取り上げていきます。