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『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 陸地

 先日、FBで安西さんが読書会をすると話していて、それも題材は欧州の文化に関する本フェルナン・ブローデルの『地中海世界』だと知り、合流することにしました。その最初の一章を1000文字制限でお送りします。

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「節制」を運命付けられた土地

 地中海というと何を思う浮かべるだろうか?アマルフィのアッズーリ色に染まる空、海はブル・カプリ。イタリアには青緑色を語り色に地名が多く使われている。それらに彩られた豊穣の光景を浮かべるのではないか。

 しかし、ブローデルはいう、「ここにあるのは困難で、しばしば不安定な生活」であった。『地中海世界』がもたらすものは、人間の果てしない欲望を満たすためには不十分であり、そのため「人間はいつも簡素に徹するしかない」のだ、と。つまり、ここは「節制」を運命付けられた土地だった。

アフリカの砂漠と大西洋の雨とイタリア

 イタリアは、東のオリエントと、西欧の境界であり、地中海の中心軸に位置する。そのため、その存在自体が無限の夢を広げる。一方、地形を見てみると、日本と同様火山の噴火と地震に曝されている。春から夏には南は砂漠の熱風、秋になると西からは湿気を帯びた風がアルプスにぶつかり大雨をもたらす。年間を通して暑く乾燥している時期と、寒く大量の雨に悩まされるているのだ。

 カラカラの時期の『栄光の空』と褐色の大地は、粋なイタリア男のアズーロ・エ・マローネそのもの。その美しさを見せかけではなく、地に根付かせるための工夫、灌漑はアラブ人によってもたらされた。この土地は、最初から豊かであったわけではなく、「征服すべき土地」として運命付けられていたのだ。

資本主義のもたらした変容

 この土地で生きる抜くために人々によって征服され、山の斜面まで広がったオリーブや葡萄の樹木は、資本主義の犠牲となり近年姿を消し始めた。大量生産、効率性を重んじる傾向は、そこに住んでいた人々を平野に呼び寄せ、相棒を失った樹木たちは枯れていく。「古風な生活様式」を保っていた土地から、少数の栄える都市へ人は流れていった。

過去がもたらす未来の情景

 イタリアを旅すると、どの街も褐色、黄土色、白色、石の建物のグレーと、空の色が目に入る。教会の中には青や緑、赤、金色が散りばめられ、街を彩る。しかし、大部分は、そこに住む人の服装も含め、その土地そのものに馴染む彩。その色の「節制」が、イタリアをより美しく見せている。考えてみると、「節制」とは、最高の贅沢なのではないか。

 現在コロナの状況を議論する中で、今後は開疎へ向かうということを聞く。また、「節制」とは、日本人にも流れている風土である。それは、海を渡ってSpark joyとしてブームを呼び起こした。この本のまだ一章しか読んでいないが、豊かに生きるためには、自分の風土、基本に帰れと言われている気がした。

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