マガジンのカバー画像

現代長歌

270
「現代長歌」
運営しているクリエイター

2020年12月の記事一覧

現代長歌「未来1月号」、読み下し文。

  川渡り
山背風が、宿る湖に、歌うこと、諦めし琵琶、一つひた、ひたと寄る。
白波に、狂気のあまり、耳を落とす、画家の生涯を、重ねる鉛、筆かじりの、人独り。
どだい描けない、魚の香に、華族遊戯の、果ての果て、インキも押せぬ。
「舟を一つ、出してはくれないか」、泡銭を、からから鳴らし、「銭はある」。
一隻は、霧らした川に、まざりゆく。
返らぬ声を、響かせて、琵琶と銭貨と、腹三つ、魚の跳ねる、活け作り

もっとみる

川渡り

山背風が宿る湖に歌うこと諦めし琵琶一つひたひたと寄る
白波に狂気のあまり耳を落とす画家の生涯を重ねる鉛筆かじりの人独り
どだい描けない魚の香に華族遊戯の果ての果てインキも押せぬ
「舟を一つ出してはくれないか」泡銭をからから鳴らし「銭はある」
一隻は霧らした川にまざりゆく
返らぬ声を響かせて琵琶と銭貨と腹三つ魚の跳ねる活け作り
ーー鐘が鳴る。西へ流れて暁が魚腹を破って昇りゆく
「あんた何者だい?」船

もっとみる