現代長歌「未来1月号」、読み下し文。

  川渡り
山背風が、宿る湖に、歌うこと、諦めし琵琶、一つひた、ひたと寄る。
白波に、狂気のあまり、耳を落とす、画家の生涯を、重ねる鉛、筆かじりの、人独り。
どだい描けない、魚の香に、華族遊戯の、果ての果て、インキも押せぬ。
「舟を一つ、出してはくれないか」、泡銭を、からから鳴らし、「銭はある」。
一隻は、霧らした川に、まざりゆく。
返らぬ声を、響かせて、琵琶と銭貨と、腹三つ、魚の跳ねる、活け作り。
ーー鐘が鳴る。西へ流れて、暁が、魚腹を破って、昇りゆく。
「あんた何者だい?」、船乗りは、初めて光を見たように、顔を歪ませた、「桑原、くわばら」。
反歌
天怒り祭りの挽歌の声低く褌祝なる弟への憎悪

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