川渡り

山背風が宿る湖に歌うこと諦めし琵琶一つひたひたと寄る
白波に狂気のあまり耳を落とす画家の生涯を重ねる鉛筆かじりの人独り
どだい描けない魚の香に華族遊戯の果ての果てインキも押せぬ
「舟を一つ出してはくれないか」泡銭をからから鳴らし「銭はある」
一隻は霧らした川にまざりゆく
返らぬ声を響かせて琵琶と銭貨と腹三つ魚の跳ねる活け作り
ーー鐘が鳴る。西へ流れて暁が魚腹を破って昇りゆく
「あんた何者だい?」船乗りは初めて光を見たように顔を歪ませた「桑原、くわばら」
反歌
天怒り祭りの挽歌の声低く褌祝なる弟への憎悪

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,225件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?