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相続放棄_その6                (相続人の範囲と相続財産精算人)

相続放棄の最終回です。
相続放棄にまつわる問題点の続きを書きます。
今回は相続人の範囲と相続財産精算人についてです。


|相続人の範囲

まず法定相続人について考えてみましょう・・・・。
相続人としては、死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。

なお、前回記事に書いたように、相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます。
そして・・・、内縁関係の場合には、法定相続人に含まれません。

➤ 第1順位
死亡した人の子供
その子供が既に死亡しているときは、その子供の直系卑属(子供や孫など)が相続人となります。
子供も孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子供の方を優先します。

➤ 第2順位
死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)が相続人になります。
父母も祖父母もいるときは、死亡した人により近い世代である父母の方を優先します。

第2順位の人は、第1順位の人がいないときに相続人になります。

➤ 第3順位
死亡した人の兄弟姉妹
その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。

第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になります。

下図を参考にして下さい。相続の順位別に色分けしています。

相関図イージ:筆者作成

|養子の場合

養子も実子と同様の扱いとなるため、相続人となります。
相続順位は第1順位で、法定相続分も実子と同じです。
ただし、養子の子は、産まれたタイミングで代襲相続人となることができるかに違いがあります。

養子縁組前に養子の子が生まれている場合は、代襲相続人とはならず、養子縁組後に養子の子が生まれた場合代襲相続人となり相続権を引き継ぐこととなります。

なお、普通養子は実親との相続関係が継続されるため、養親・実親どちらの相続人にもなります。

しかし特別養子の場合、特別養子縁組がなされた時点で実親との親子関係はなくなります。
そのため、実親の推定相続人にはならず、特別養子の実親に相続が発生したとしても、その特別養子に相続権はありませんが、養親の相続人になり得ます。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

※ 特別養子縁組とは、こどもの福祉の増進を図るために、養子となるこどもと実親との間の法的な親子関係を解消し、養子と養親との間に(実の親子と同様の)親子関係を成立させる制度です。

|法定相続分

民法では、相続人が2人以上いる場合の各人の相続割合を定めています。
そして相続人の順位によって法定相続分が異なり、同順位の法定相続人が複数いる場合はその人数で均等に分配されます。

また、民法に定める法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の持分であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。

<配偶者と子供が相続人である場合>
配偶者2分の1 子供(2人以上のときは全員で)2分の1

<配偶者と直系尊属が相続人である場合>
配偶者3分の2 直系尊属(2人以上のときは全員で)3分の1

<配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合>
配偶者4分の3 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)4分の1

(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(代襲相続人の相続分)
第九百一条 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

|相続人不存在

法定相続人がいない場合、全員が相続放棄した場合、遺言もないなど相続人がいない場合には、民法の「相続人不存在」の規定が適用されることになります。

相続人不存在における相続人捜索の手続きと相続財産の清算手続きは公告を通して行われます。
さらに特別縁故者もいない場合、その人の財産は最終的に国庫に帰属することになります。

(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の清算人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
~以下省略~

(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

特別縁故者(とくべつえんこしゃ)とは、被相続人(亡くなった人)に法定相続人がいない場合に、特別に被相続人の財産を取得できる人のことです。

民法第958の3によれば、特別縁故者は「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者」と定められています。

相続財産法人は、被相続人が死亡した時点で法律上当然に成立し、法人となるための特別の手続(設立登記など)は不要です。

相続財産法人成立の要件は、①相続が開始したこと、②相続人のあることが明らかでないこと、③相続財産が存在すること です。

相続財産法人の代表者として事務処理を行う者を「相続財産精算人」といい、家庭裁判所は利害関係人や検察官の請求によって相続財産精算人を選任する必要があります。

つまり、相続放棄した相続人等(債権者などの利害関係人)が、裁判所に対して、「代わりに不動産や預貯金を処分し、借金があれば債権者に支払いをしてくれる人を決めてください」と依頼することになります。

そして、代わりに相続財産を処分したり、債務を清算してくれる人が「相続財産精算人」ということになります。

相続財産精算人が選任され、預貯金通帳や空き家などの不動産を引渡した時点で、相続人は管理義務から解放されます。

|相続人の管理義務

ちょっと前後しますが、相続人の管理義務について記します。
「相続放棄で、一切の権利義務から解放される。」と思われている方が非常に多いのではないでしょうか・・・?

しかし、相続放棄したからといって、直ちに何もしなくてもよくなるということにはなりません。

法律では、「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(民法940条)とされています。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

法定相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなる場合は、相続財産精算人(代わりに相続財産を管理することになる人)が実際に管理を始められるまで、相続放棄をした相続人に管理義務が課されるというとになります。

|「自己の財産におけるのと同一の注意義務」

「自己の財産におけるのと同一の注意義務」とは、自分の財産と同じように管理すべきであるという義務で、このまま放置すると第三者に損害が生じる危険性があると分かっているような場合には何かしらの必要な措置を行わなければならない、というものです。

例えば、家屋が老朽化して倒壊する危険がある場合には補強工事をする、雑草が生い茂って害虫が発生しているなら除草や害虫駆除をしなければならなりません。

求められる注意義務の程度については、行為者自身の注意能力に応じて注意をしていれば足ります。
もし、この注意義務に反して第三者に損害を生じさせてしまった場合は損害に応じて弁償をしなければなりません。

|その他注意すべき事項
相続放棄をしても、適正な管理を行うべき義務がある訳ですが、他にも注意を要する事項が多少あるので記載しておきます。
相続放棄するような事態になった際にはもう一度調べてみて下さい。

① 家庭裁判所への予納金
相続財産から相続財産精算人に対する報酬額を捻出できないと見込まれる場合に限り、家庭裁判所から予め予納金を払うように指示されることがあります。
事案にもよるが、相続財産精算人の報酬は30~100万円ほどかかるようです。

② 申立人
相続財産精算人の選任の申立てができるのは、利害関係人又は検察官に限られており、利害関係人には、相続放棄をした相続人、債権者特別縁故者、債権者などが該当します。

③ 所要期間
相続財産精算に要する目安としては、申立てから清算手続きの終了まで最低でも13か月程度です。

|おわりに

相続放棄と簡単にいいますが、つい忘れがちなのは、遺産の管理です。
上記記載のように一定期間は適正な保管管理を行わなければなりません。
この問題を書いたのは、私自自身.の問題で相続放棄を念頭に置いていたからですが、調べていくと記載したように実に奥が深い。

特に地方では、相続放棄もせず荒れ放題の放置家屋があったり、雑草だらけの水田などが存在します。
また、都市部でも同様の状態が見受けられることがあります。
今後増えてくるものと思います。

国庫への帰属にはちょっと手間がかかることがわかりました。
さて・・・もう少しいろいろ調査してみますね。


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