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菜食と健康

 近ごろ日本では、健康のためにベジタリアンやヴィーガンになる人が増えているように感じます。その背景には、科学が植物性食品のメリットを示してきたことがあるのではないでしょうか。

・肉食と病気

 WHO 国際ガン研究機関の「発ガン性リスク一覧」によると、グループ 1〔発ガン性がある〕に加工肉が、グループ 2A〔おそらく発ガン性がある〕にレッドミート(=牛豚など哺乳類の肉)が含まれています[1]。日本では大腸ガンによる死亡率が 1950 年代と比べて大幅に高まっていますが、これは肉の消費量が当時から現在までに 5 倍以上に増えたからだとも言われています[2]。また中国では、従来の菜食中心の生活から欧米型の動物性中心の食生活に転換する中で、がん、糖尿病、心疾患などの慢性疾患が急増しています[3]。

 卵や乳も含めた動物性食品全体を考える場合、その摂取が健康を害すると単純に言い切ることはできませんが、植物性食品のメリットは科学的に調べられています。日本人を対象とした研究によると、植物性タンパクの摂取が多いほど、人々の死亡率、特に心疾患による死亡率は低くなっていることが分かっています[4]。

・菜食は平気?

 2009 年の米国栄養食料アカデミーの発表によると
適切に献立されたベジタリアン食、ヴィーガン食は
・健康であり栄養学的に適切
・ある種の病気の予防や治療に有益
・妊娠・授乳中、乳幼児~老齢期、アスリートなど、全てのライフサイクルにおいて適切

とされていて、動物性食を摂取しないヴィーガンでも健康な生活を送れることがわかります[5]。
 タンパク質の不足を心配する方が多いと思いますが、上の研究で「アスリートで菜食は適切」とされているように、少数の食材に偏らなければ、植物性食品だけで十分かつ良質なタンパク質をとることができます。特に、日本食には欠かせない大豆は、全ての必須アミノ酸を含む完全タンパク質食品で、骨の健康にも役立つと言われています[6]。

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 2015 年に出版され大ベストセラーとなった『How Not to Die』の著者、グレガー博士はこの本の中で「多くの慢性疾患の予防と治療に役立つと分かった食事法」として、「精製されていない植物性食品を多く摂り、肉、乳製品、卵、加工食品を避ける」ことを勧めています。
 しかし彼は続けて「本書は、ベジタリアンやヴィーガンを推奨するものではない。…私が推奨するのは、科学的根拠に基づいた食事法である。」と述べています[7]。植物性食であっても、精製された穀物、炭酸飲料、スナック菓子などの加工食品ばかりだと、健康な食生活とは言えないのです
 また、一人あたりの動物性食品の消費量がもともと小さい低所得国においては、植物性食に置き換えても健康状態はあまり変わらないという調査もあります[8]。

 菜食と一口に言っても、地域や経済条件によって多様な食生活が想定できるので、菜食=健康、あるいは菜食=不健康と断じてしまうのは、どちらも偏った見方ということになりそうです。

<参考>

[1] "Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–127". WHO
[2] Kono S. "Secular trend of colon cancer incidence and mortality in relation to fat and meat intake in Japan". Eur J Cancer Prev. 2004;13(2):127–32.
[3] Zhai F, Wang H, Du S, et al. "Prospective study on nutrition transition in China". Nutr Rev. 2009;67 Suppl 1:S56–61.
[4] Sanjeev Budhathoki, Norie Sawada, et al. "Association of Animal and Plant Protein Intake With All-Cause and Cause-Specific Mortality in a Japanese Cohort". JAMA Intern Med. 2019 Nov 1;179(11):1509-1518
[5] Winston J Craig & Ann Reed Mangels. "Position of the American Dietetic Association: vegetarian diets". J Am Diet Assoc. 2009 Jul;109(7):1266-82.
[6] Aaron J Michelfelder. "Soy: a complete source of protein Am Fam Physician". 2009 Jan1;79(1):43-7.
[7]Greger, Michael(2015)How Not to Die. Flatiron Books. 邦題『食事のせいで、死なないために』神崎朗子訳 引用は訳書[病気別編]p35
[8] Marco Springmann, Keith Wiebe, et al. "Health and nutritional aspects of sustainable diet strategies and their association with environmental impacts: a global modelling analysis with country-level detail". Lancet Planet Health. 2018 Oct;2(10):e451-e461.

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