菜食と動物倫理③日本史と動物
・日本と動物倫理
前回までは、世界(特に欧米)の動物をめぐる展開を述べてきました。それでは、日本の場合はどうだったのでしょうか?今、どうなっているのでしょうか?
日本では19世紀後半に西洋諸国の文化がもたらされるまで、肉食は一般的ではありませんでした※2。明治・大正期になっても食肉需要は大きくなく、動物の飼育や屠殺は家庭の中で行われていたようです。また、役牛など農作業の助けとして飼われる家畜が多かったため、食用の家畜動物は人々に馴染まれていませんでした[21]。
戦後に入って、状況が大きく変わってきます。アメリカの影響のもと1950年からは学校給食が開始され、子供がパンや乳製品を食べるようになります。1970年代には畜産業の工業化、集約化が進み、同様にアメリカの介入でケージ飼育の採卵鶏やブロイラー(肉用鶏の一種)が導入されます。
肉用鶏の平均飼養頭数(=一つの農家が飼う動物の数)は1946年の3600羽から57000羽(2014年)に、養豚農家では1965年の4頭から1810頭(2015年)にまで膨れ上がっています。
加えて魚の消費量も戦後の漁業推進により急速に増え続け、2001年には一人当たりの消費量40.2kg/年でピークに達しました[22]。
[図2]食肉、魚介消費の推移
現在日本で生きている家畜動物の数をみてみると、乳用の牛が133万頭、豚が845万頭、肉にされる鶏は1億3800万頭、卵用の鶏(採卵鶏)が1億8500万頭となっています[23]。
生まれてから食用になるまでのサイクルがとても短い考えると、豚や鶏の年あたりの屠殺数はこれよりさらに大きな数になります。国内だけで年間およそ8億3000万の家畜動物が屠殺されています。117万頭の牛、1650万頭の豚[24]、8億1300万羽の鶏[25]が、たった一年で消費されているのです。一日あたりでは、毎日3200頭の牛、4万5100頭の豚、222万羽の鶏が殺されていることになります。
国内での生産とともに、2019年には食肉の48%、飼料の75%が輸入されていて、海外で生産されたものも多く消費されています[26]。
<注>
※2動物が全く食べられていなかったのではなく、正確には政府や社会から不道徳で穢れたものとして長い間避けられていた、ということになります。これが明治四年(1871年)の宮中の肉食解禁や、明治五年の「肉食妻帯勝手たるべし」という太政官布告をはじめとして、かえって肉食が奨励されるようになってゆきます。
さらに詳しくは、例えば中村生雄『肉食妻帯考』などをご参照ください。
<参考>
[21] 板垣貴志(2013)『牛と農村の近代史 家畜預託慣行の研究』思文閣出版[22] 生田武志(2019)『いのちへの礼儀―国家・資本・家族の変容と動物たち』筑摩書房 前編第四章
[23]農林水産省「平成三十一年畜産統計」
[24]「日本で食用に殺される家畜数まとめ(豚・牛編)」TheVeganism 2021
[25]農林水産省「令和2年食鳥流通統計調査結果」2021
[26]農林水産省「食料需給表」2019