ベジタリアン、ヴィーガンと多様性➁菜食とセクシャルマイノリティ
前回の記事では、プラントベース=菜食の生活を送る理由はとても多様であること、西洋社会から生まれた定義が国際的に広まっていること、けれど菜食を多面的に捉えるのも大切であること、などを述べました。
今回は、菜食と、菜食をする人々についての、新しい捉え方を提案してみたいと思います。
1.「指向」と捉える
プラントベースの生活実践を、食べ物の好き嫌いや、外見の好みといった「嗜好」ではなく、その人に深く根付いた「指向」として捉える考え方があります[6]。この見方によって、ヘテロセクシャル=異性愛、ホモセクシャル=同性愛といった「性向指向」と同じく、ベジタリアンやヴィーガンはたとえ少数派であっても尊重されるべきものという価値観が促されます。それは一時的な選択ではなく、欠くことのできないアイデンティティとみなされるのです。
性的マイノリティとベジタリアンやヴィーガンが共通して抱えがちな悩みとして
①本人が意識的に自分のことを伝える=「カミングアウト」するまで、自分の指向が相手にわからない
②家族や友人など周囲の人が受け容れてくれるか分からないので、「相手との関係を危うくするか、自分の指向を裏切るか」という二者択一を迫られる
③マジョリティのふり(ヘテロセクシュアル、肉を食べる)をして、自分を包み隠さざるを得ない場面がある
④自分の指向を安心して話せる場所など、日常で生じうるストレスからの避難所を探さなければならない
などが考えられます[7]。
①の「カミングアウト」については「いつ、どこで、どのような方法で」するか、自分で考えなくてはいけないというコストが伴います。
伝えることで相手を不快にさせるかもしれない、と想像してしまうのはもちろん、実際に伝えた際に戸惑われたり悲しまれたりした経験があると、カミングアウトに葛藤や罪悪感がついてまわります。
相手が受け止めるのに大変な苦労をするに違いないと思い、カミングアウトができない場合もあります[8]。
④については、性的マイノリティやヴィーガンが安心して自分を表現できる場所がまだまだ少なく、特にコミュニティの少ない地方に住む人には大きな困難になっていると考えられます。
もちろん、性的指向とプラントベースの指向は異なる点も多く
⑤同性愛者は異性愛者に同性愛を求めないが、ベジタリアンやヴィーガンには他の人にもそうなってほしいと思う人がいる
➅同性愛者やトランスジェンダーの権利運動は自分たち自身が暴力の対象になりうるが、ベジタリアンやヴィーガンを広める運動ではそうなりにくい
などの違いを挙げることができます。
(続く)
<参考文献>
[6]Wright, Laura(2021)“Framing vegan studies: vegetarianism, veganism, animal studies, ecofeminism”. The Routledge Handbook of Vegan Studies, edited by Laura Wright, Taylor & Francis Group, pp. 3–14.
[7]コープ, シェリー・ F(2017)『菜食への疑問に答える』井上太一訳 新評論
[8]砂川秀樹(2018)『カミングアウト』朝日新聞出版
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