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日記ふうエッセイ【ひび】

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#音楽

【日々】秋の風、お月見|二〇二三年九月

二〇二三年九月二十四日  朝、ふと振り向いたひょうしに首から肩にかけての痛みが久方ぶりに再発した。買いもののために駅前へ出てゆく。陽射しはあるけれど風は爽やか。Tシャツを通りぬけてゆく風に乗って洗剤の芳香がたち、髪がゆれてシャンプーのにおいが鼻先をかすめる。首の不調が気になって買いものはあまりできず、おまけに引き取るつもりでいたクリーニングものはそっくり忘れて帰ってきた。  朝はホットコーヒーをいれた。午後は、アイスコーヒーになった。くちびるがかわいて、ちょっとひび割れか

【日々】あのポジフィルムがほしい|二〇二三年八月

二〇二三年八月十八日  青空とまっしろな雲、洗濯物。夏三点セット。おおきくうつくしいアゲハ蝶が、ひらひら舞い降りてくる。すこしだけ、並んであるく。となりにいるのがうれしくて、目線を送ったらその途端にどこかへいってしまう。立派なあの子は、過酷な芋虫時代を生き残って今ようやく、さいごの煌めきを全身で放っているんだ。わたしはさいごに、輝けるだろうか。  いつもの電車に間に合った。汗だく。でも、落ち着いている。これでいい。きょうはいつもより人がすくなくて、ロングシートのとなりにか

【日々】夏雲にしがみつく|二〇二三年八月

二〇二三年八月一日  寝つくのにずいぶん難儀したせいで、なかなかベッドから起き上がるための気合いが出ない。窓の外はいつもより暗い。八月は精力的に手を動かす月にしたいとおもうけれど、さっそくきょうは朝の時間がつくれない。とりあえずSNSで今月はやるぞ! と宣言しておく。何の意味があるのかは、わからない。  職場の最寄駅につくころには、ゴロゴロと低くおなかに響く音が鳴りはじめている。時折ピシャリピシャリと世界が光る。遠くに少しだけ青空ものぞいているけれど、そこからさすわずかな

【日々】夏にほろ酔う|二〇二三年七月

二〇二三年七月一日  遅刻寸前になってしまったので駅までバスに乗る。途中から山のように中高生が乗ってきてギョッとする。土曜日、午前で終わりだもんなあと、あまりに遠くなった学校生活を思いかえす。みんなiPhoneを持ち、ワイヤレスイヤホンをし、ショート動画やアプリゲームを絶えず触っている。親御さんは大変だろうなあとおもう。車窓から、近所の大学生らしきカップルが、にこにこハイタッチしながら別れてゆくのがみえる。  土曜日のオフィスは人も少なめで、のんびりしている。わたしだけが

【日々】青春コンプレックス|二〇二三年六月

二〇二三年六月十九日  いつもより三十分早く出かける。前からゆっさゆっさとからだを揺らしてあるいてくるおじさんの左肩に、オカメインコが載っている。きれいな薄黄色に、朱いほっぺ。すまして肩の上におさまっている。おじさんの右手には鳥かご。顔と体格は石井一久に似ている。 二〇二三年六月二十日  なんとなくものさびしいきもちが続いている。きょうは指輪をつけ忘れたまま出かけてしまった。無意識にカラの薬指をなぞる。 二〇二三年六月二十三日  生きのびるための希望だった週末のコン

【日々】平成の余韻を噛む|二〇二三年六月

二〇二三年六月三日  猛烈にぐずる男の子。それを若く気の強そうなお母さんが叱る。さらなる絶叫が返ってくる。暴言で応酬する母親。苦しくなった。帰りたいと思った。心臓のあたりに嫌な感じがある。駅へ急ぐ。足を早めても、叫び声はなかなか離れていかない。 二〇二三年六月七日  よく寝た。でも寝過ぎるので、色々ぜんぜん片付かない。ヘンな夢をみた。会社の上司が出てきたのは、たぶんはじめて。なぜか便座に座って小便しながら小言をきいていた。  ちかくの学校で運動会をやっている。得点発表

【日々】明日を知らない|二〇二三年四月

二〇二三年四月十五日  荒川のほとりへ。たっぷりと雨が降る。ほんとうだったら昼ごろにはここにいて、青空のもとひとりビールでもやって、屋台メシをつまみながらのんびりするつもりだったのだけど。できればスカートのステージも見たかったからなあ。まあでも、水溜まりを踏み抜くたびにふだん気にしていることが次々どうでもよくなっていく感じも案外悪くなかったし、たまにはずぶ濡れになるのもいいかもしれない。良い音楽はどこでどんなふうに聴いたって幸せになれる。でもちょっと寒いなあ。  なかなか