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【小説】年上彼女の嘘-もう1人の彼女-

第4章 もう1人の彼女

僕の目の前には刑事と名乗る男がいる。
この刑事の言った言葉で僕の周りだけ時が止まるような感覚に陥った。
「・・・どうゆうこと?」
言っている意味がわからない。僕の青ざめた表情を見てか、刑事が切り出した。
「・・・一ツ木愛菜さんの遺体が1週間前、とある民家の地下室で発見されました。」
「・・・地下室?」
「はい。そこで遺体の身元を確認したところ、一ツ木愛菜さんご本人だと分かりました。そこで付き合っていたとされるあなたまでたどり着いたため事情を聞きにきた次第です。」
そう言う男を遮るように僕は言った。
「ちょっと待ってください、さっきも言いましたけど彼女とは今朝まで一緒に居ました。」
僕には到底信じられない。なぜなら本当に今朝仕事に行く彼女を見送ったのだから。
「それは本当の話ですか?何かの間違いでは?」
刑事と名乗る男も僕の話を信じようとはしない。
僕は必死で朝起きてから出勤の見送りをするまでの経緯を話した。だが刑事は疑うような顔で僕を見つめている。
「わかりました。それではもし今日その女が仕事から戻って来れば私に連絡ください。どのみちその女は彼女の事を何か知っているはずです。」
そう言いながら胸ポケットから名刺を取り出しその男は去っていった。
僕はその場から動けなくっていた。足がすくむ。
もし刑事の言う通り愛菜さんの遺体が発見されたのなら今朝まで一緒に居たのは誰だ。
幽霊?生き霊?そんな考えしか考えれない自分にはらがたった。
「・・・愛菜さん」
僕は急いで彼女に電話をかける。だが彼女は仕事中に電話をとらない。真面目な彼女だから仕事中は必ず電源を切っている。僕は彼女から聞いていた職場の名前を思い出した。スマホでその会社を検索し、電話をかける。安否確認だけできればそれでいい、頼む生きててくれ。僕はその事だけを思って電話をかけた。
「もしもし、〇〇商事です。」
「お仕事中に申し訳ありません。そちらで受付嬢をしている一ツ木愛菜の身内のものですが、緊急なので彼女に電話を繋げてもらえますか?」
「一ツ木さんですね?少々お待ちください。」
頼む、無事でいてくれ。そう思いながら流れてくる保留音を聞いている。保留を聞き出して5分くらいだっただろうか。何をしてるんだ、電話を繋ぐだけでいい。僕は苛立ち始めていた。
「もしもしお電話変わりました。受付の加藤ですが、」
「すいませんそちらで働いている一ツ木愛菜に変わっていただけますか?」
なぜ知らないお前が出るんだ。僕の怒りはピークに達そうとしていた。
「申し訳ございませんが、当ビルの受付で一ツ木と言う女性は働いておりません。」
「・・・は?」
「ですから一ツ木という方は・・・」
僕の怒りはピークに達した。
「そんなわけないでしょ、今朝も見送りましたしこの一年ずっと働いているはずです。いい加減にしてください、なんの冗談なんですか。」
「私はここで働き出して5年になりますが一ツ木とゆう方をお見かけしたことはございません。何かの間違いではないですか?」
僕の体から全身の力が抜け落ちてその場にしゃがみ込んだ。スマホからはお客様?お客様?と声が聞こえてくるのだがもう話す気力もない。
僕は嘘をつかれていた?それじゃあ彼女の仕事は?1年間ずっと?
僕の頭の中はぐちゃぐちゃにかき乱される感覚になっていた。
       ❇︎
18時30分。普段なら彼女が帰ってくる時間だがまだ帰ってきていない。僕は2人掛けソファーに座り、真っ暗な中電気もつけずに彼女の帰りを待っている。今朝は見送った、だから帰ってくるはず。きっとあの刑事も受付の女の人も愛菜さんの知り合いか何かで僕をからかっているんだ。
そんな自分にとって都合の良いことを考えながら帰りを待つ。
ガチャガチャと鍵を開ける音がした。誰かが入ってくる。そして一瞬にして部屋中が明るくなった。
「うわっ」
そこに居たのは紛れもなく愛菜さんだった。
僕は驚く彼女を見て涙が溢れ出そうになった。
「どうしたの?電気もつけずに、驚かさないでよー」
そう言う彼女をぎゅっと抱きしめた。
「・・・どうしたの?」
彼女は優しく言いながら背中をさすってくる。
すると自然と僕の抱き締める力も強くなる。何も言わずに抱きしめてた。
どれくらいの時間が過ぎただろう。ソファに彼女を座らせ僕は話し出した。
「愛菜さん、今日どこに行ってたの?」
真剣な僕の目を見て一瞬驚いた様な表情をしたが、からかうように彼女は言った。
「どこって仕事に決まってるじゃん」
「今日聞いてた職場に電話したんだよ」
「えっ」
明らかに動揺する彼女を見て彼女が嘘をついているのが分かった。
「・・・仕事しているのは嘘?」
僕は彼女に聞いた。目を合わせられない。嘘をつかれていると彼女の表情を見て悟った。それでも僕は信じたかった。恐る恐る彼女を見た僕は絶望へと叩きつけられた。
今まで見たこともない彼女の表情がそこにはあった。
無表情の様な、目の奥では怒っているのか何かを僕に訴えかけている様に見えた。
「・・・もう・・終わり。」
そう言いながら彼女は僕の前で立ち上がった。
「もう恋人ごっこは終わり。まぁまぁ楽しめたし・・・ちょっと早い気もするけどバレたならしょうがないかな。」
意味がわからなかった。
「何を・・・言って・・・」
「あんたとの付き合いはこれで終わりって言ってんの。・・・もう面倒だから死んでくれる?」
そう言って彼女はカバンから長いロープを取り出して僕に見せた。
その表情は・・・嫌、そこに立っている人は僕の知っている優しい彼女なんかではなかった。


第5章に続く

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