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Adobe Premiere Proのユニークなファン体験をトリガーに!ブランドのコアな魅力を新規顧客獲得につなげるブランデッドダイレクト・クリエイティブとは

ブランデッドダイレクトとは、「認知」「獲得」の2方向のKPIを同時に追求することで、よりエンゲージメントの深いコンバージョンを目指すクリエイティブアプローチ。

今回は、「Adobe Premiere Pro」のブランデッドダイレクト・クリエイティブを手がけた電通 CXクリエーティブ・センター クリエーティブディレクター 川名宏昌、電通デジタル アドバンストクリエイティブセンター デジタルクリエイティブディレクター 那須野達也に、電通 CXクリエーティブ・センター センター長 並河進が話を聞きました。

ファン体験を再現したキャンペーン設計

— 「ブランデッドダイレクト」という単語を聞いて、「ブランディング」と「ダイレクト」という、ある意味で真逆なものが組み合わさっていることに興味を持ちました。「Adobe Premiere Pro」のキャンペーンにおいて、お二人の役割をブランディングとダイレクトで分担したのでしょうか。

川名:はい。お互いに連携しながらプロジェクトを進めました。アドバンストクリエイティブセンターでは、二人のクリエイティブディレクター(以下、CD)でフルファネルをカバーする「ダブルクリエイティブディレクター制(WCD)」を採用しています。今回は、私がブランディング、主にアッパーファネルを見て、那須野さんがパフォーマンスやダイレクトの部分にあたるローワーファネルを担当しました。

— 「Adobe Premiere Pro」のキャンペーンは、どのような形で進めたのでしょうか。

川名:動画編集ソフトのAdobe Premiere Proの認知獲得、新規会員獲得を目的に、昨年(2021年)1年に渡ってキャンペーンを展開しました。Adobe Premiere Proには、優れた特徴がたくさんあります。その中で未体験の人が思わず試したくなるトリガーは何かを考え、今回はファンの人たちが知っているAdobe Premiere Proならではの体験が持つ魅力に注目しました。通常は、製品が伝えたいことをトリガーにするところを、ファン体験を入り口に持ってきた形です。

— ファン体験とは、具体的にはどんな体験なのでしょうか。

川名:ちょうどAdobe Premiere Proを個人で使い始めた同僚から「やりたいことは、検索すれば大抵なんでもできてしまう」という話を聞きました。どういうことかというと、Adobe Premiere Proの使い方でわからないこと、やりたいことを検索してみると、関連するチュートリアルやTipsの動画がたくさん見つかるんです。

もちろんAdobe社が公式で公開しているものもありますが、ファンが自発的に動画を制作しているものが、本当に多いんです。これは、Adobe Premiere Proのファンの中に、自分が会得した使い方のコツを他のユーザーに共有していくというユニークな文化があるからなんです。

「検索すればすぐに、誰かが作ったチュートリアル動画が見つかる」というこのユニークな最初のファン体験をトリガーにして、「自分でもできそう」と感じてもらい、トライアルを促す仕組みを考えました。

— 面白いですね!キャンペーンのコミュニケーション設計についても伺いたいです。

川名:まず、複数のYouTuberを起用して、動画編集テクニックを紹介するTips動画を制作してもらいました。「そのTips動画を見て、自分でも動画編集をしてみたいと思う人」を、自身もYouTuberとして活躍する俳優の仲里依紗さんに演じてもらいました。「Adobe Premiere Proファンの立場でコンテンツを提供するYouTuber」と「それを見て動画編集にチャレンジして、新たにAdobe Premiere Proファンになる仲里依紗さん」というファン体験を再現する設計です。

那須野:1クォーターごとにテーマを設定して、YouTuberに動画を作ってもらい、仲里依紗さんが動画を見てチャレンジしていくというストーリーで、広告では短尺に切り出して流しました。その先の受け皿としてLPを制作して、それぞれのフルバージョンを公開し、ダウンロードページに誘導しています。LPは新しい動画ができるたびに追加して、何度訪れても楽しめるようにしました。

川名:キャンペーンでは新規ユーザーの入り口となるコミュニケーションを展開しましたが、それに加えて既存ユーザーにどんどん使ってもらうためのリテンション動画も展開してフォローアップしています。

意見がぶつかるとき、立ち戻ったのはファン体験

— 今回のキャンペーンでは、アプリダウンロードがダイレクトにあたります。その部分で大事にしたことはありますか。

那須野:いつものダイレクトキャンペーンだと、認知は動画で得て、静止画バナーや遷移したLPでユーザーの背中を押して獲得を目指す、というように、認知と獲得を分けた作り方をします。しかし今回は動画やLPなど、それぞれの領域にお互いに踏み込んで、世界観の統一やユーザーからどう見えるのかといった視点で議論を重ねて作り込んでいきました。これができるのもCDが二人いるメリットだと思います。

— ブランディングという観点でもお話を聞きたいです。CX(カスタマー・エクスペリエンス/顧客体験)全体のブランディングでは、どんなことを意識しましたか。

川名:Adobe Premiere Proには、ブランディングに活かせる要素がたくさんありますが、今回はファンならではのAdobe Premiere Proの楽しみ方、それこそがブランドの財産だと気づきました。コンバージョンだけを見据えずに、コンバージョンの先にあるAdobe Premiere Proの使われ方、ファンからの愛され方というユーザーの体験を還流させることで、ターゲットとなる人々にアピールできるようにコミュニケーション設計しました。ダウンロードしてもらうところで終わらず、その先までをコミュニケーションに含めた形です。アッパーファネル、ローワーファネルの2つの視点でCDがいることで、点ではなく、線で捉えたコミュニケーションができたのかなと思います。

— ファンを起点にしていることも、CXならではですね。

那須野:二人で見ているからコミュニケーションがぶつ切りにならずに、一つの線でつなげられたと思います。迷ったときは、二人ともファン体験に戻って考えを整理できました。大げさに表現しそうになったときも、ダウンロードへの誘導を強めようとしたときも「それは本当の体験なのか」「それでいいのか」と、原点に立ち戻って考えられる場所があったのがよかったです。

例えば、動画の下に「7日間無料!今すぐダウンロード」など、アプリダウンロードを伸ばすためにハードルを下げる文言を入れたくなることもありました。そのとき、「その要素が入ると、ユーザーは広告色を感じてしまい、動画で本当に伝えたいファン体験が伝わりにくくなるのではないか」と二人で話し合い、Adobe Premiere Proを面白いと思ってもらうほうを重視しようという結論になり、挿入は見送りました。

複数の視点を取り入れて生まれる新しい価値

— クリエイティブは専門職でもあり、自分の領域で最高のパフォーマンスを出すため、個別最適化してしまう例もありますよね。

川名:今回は、ブランディング、ダイレクトという異なる視点を持つ二人が、お互いを尊重しながら議論することで、広い視野で考えられたのではないかと思いました。私の場合、表現やモチーフが目新しいと広告として強いと考えてしまう傾向があります。それで目新しいものだけを追いかけると「実際にそれをやる人は少ないですよね」と指摘されました。ダイレクト側の視点は、「自分でもやってみたい」という自分ごと化できる新しさが重要になるので、お互いの重なり合う部分を探り合いましたね。

那須野:ブランディングは他社との違いを出すこと、ダイレクトは欲しいという本能に訴えることという違いがあります。欲しいと感じさせるには、ある程度パターン化されたセオリーがある一方で、ブランディングで違いを出すにはそのセオリー以外をやらないといけない、という矛盾があります。その矛盾を解決できたのは、ファンの中に答えがあったからじゃないかと思います。ファンを起点にしたことで、お互いが同じ方向を見ることができ、お互いの視点を重ねていくような取り組みができました。

* * *

ブランドのファンになったユーザーが、別のユーザーにその魅力をシェアする「カルチャー」。この素晴らしい、Adobe Premiere Proならではのブランド資産を、二人のCDの持ち味を活かしながらキャンペーンに落とし込みました。

CX Creative Studioには、得意領域の異なる500名規模のメンバーがいます。今回のキャンペーンのように異なる領域のメンバーが組むことで、新しく生まれる価値があるはずです。今後もWCD制によって様々なユニークな仕掛けが期待できそうですね。

プロフィール

電通 : 川名 宏昌(かわな・ひろまさ)

CXクリエーティブセンター クリエーティブディレクター
電通入社以来クリエイティブに所属し、ブランディング、マスキャンペーンを多数手がけてきた。2018年、電通デジタル アドバンストクリエイティブセンターに出向。オンオフ統合、フルファネル、インフルエンサー/トライブマーケティング、リテンション施策、プラットフォーマーとのコラボレーションなど広告クリエイティブの領域拡張をリード。2021年12月より電通に帰任し、CX領域全般のクリエイティブディレクションを担当。

※所属・役職は取材当時のものです。


電通デジタル:那須野 達也(なすの・たつや)

アドバンストクリエイティブセンター
デジタルクリエイティブディレクター
採用コンサルタントとして企業の採用成功にコミットした後、コピーライターとして採用HP、パンフレット、企業スローガンなど人に関するクリエイティブを制作。2017年に電通デジタルに入社。認知率向上施策からCPA重視の獲得施策まで、さまざまなデジタルクリエイティブ制作を行う。現在はデジタルクリエイティブディレクターとして、認知と獲得を同時に追求するブランデッドダイレクト・クリエイティブ制作に従事している。

※所属・役職は取材当時のものです。


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