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内水面制度改革の各議論ポイント:目標増殖量という考え自体の見直し(案)

前回の記事以降は、各ポイントに絞った案の検討をしてます。
本記事も、前回に引き続き、内水面漁協の運営に関連して。

目標増殖量とその問題点

川や湖の魚を獲ったら当然減ります。
ただ、日本の川や湖は海より明らかに生息環境が小さく、人間の量に比べるとすぐに獲りつくされてしまいます。(霞ヶ浦、北浦、琵琶湖は海面扱いです)。
そのため、内水面漁協には、その許可された区域で対象魚種を獲る権利を得ると同時に、獲るならきちんと増やすこともしてください=「増殖義務」 が課されています。
以下、漁業法内の増殖義務に関する文言です。

第八章 内水面漁業
(内水面における第五種共同漁業の免許)
第百六十八条
 内水面における第五種共同漁業(第六十条第五項第五号に掲げる第五種共同漁業をいう。次条第一項及び第百七十条第一項において同じ。)は、当該内水面が水産動植物の増殖に適しており、かつ、当該漁業の免許を受けた者が当該内水面において水産動植物の増殖をする場合でなければ、免許してはならない。

第百六十九条 都道府県知事は、内水面における第五種共同漁業の免許を受けた者が当該内水面における水産動植物の増殖を怠つていると認めるときは、内水面漁場管理委員会(第百七十一条第一項ただし書の規定により内水面漁場管理委員会を置かない都道府県にあつては、同条第四項ただし書の規定により当該都道府県の知事が指定する海区漁業調整委員会。次条第四項及び第六項において同じ。)の意見を聴いて増殖計画を定め、その者に対し当該計画に従つて水産動植物を増殖すべきことを命ずることができる。
 前項の規定による命令を受けた者がその命令に従わないときは、都道府県知事は、当該漁業権を取り消さなければならない。
(以下略)

漁業法 参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000267

これを根拠に、都道府県が目標増殖量を決めてます。
例:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sf2/cnt/f6255/p18015.html
  https://www.pref.mie.lg.jp/KAIKUI/HP/06529002049.htm
https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk16/documents/r4_1_18_naisui338_shiryou_sankou1.pdf

ただ、この目標増殖量、問題として以下があげられます。
①増殖カウント出来る内容が「積極的増殖」(放流、産卵床造成、くみ上げ放流)しか認められていない。
②支出必須内容(増殖目標量違反だと免許取り消されるかもしれないので実質強制)であり、内水面漁協の赤字要因

増殖カウント出来る内容は「積極的増殖」のみに伴う問題

①の場合、
①-1.禁漁区・C&R区間・引数制限の設定と監視、魚道作り、といった生息場環境自体の保全・整備は増殖と認められない。
 ←特にマス科や鮎は河川の連続性が重要なので、魚道作りやそれらのメンテナンス等に係る費用も増殖費用、または増殖不要となり目標量減少の要因にされてもいいはずですし、制限系も設定や監視手間がかかるのに、これらは増殖と認められていない=漁協の支出に余分な負荷がかかる。
①-2.くみ上げ放流でない放流は、養殖魚の放流となるが、養殖魚は A)天然魚の固有遺伝子が残っている場所で放流されると遺伝子攪乱が起こりその地域のみの特殊性が失われる B)養殖魚放流により、逆に魚資源が減っている可能性がある。

(積極的増殖に関しては、令和4年4月の技術的助言(水産庁が法解釈や研究成果等によってこれぐらいまでは踏み込むのがいいよ、という助言。取り入れるかは都道府県次第) https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/20220414.html  に今までよりは踏み込んだ内容で記載あります。)

①-2-B)は問題については、
サクラマスの放流河川で逆に資源量が減っているという研究結果の報告
https://web.tsuribito.co.jp/enviroment/sakuramasu-summit2206-01#a02

同じく、サクラマスの継代養殖で世代減ると水流や振動を感じる感覚器が鈍る可能性の研究報告 https://www.fra.affrc.go.jp/pressrelease/pr2022/20221101_2/20221101press_2.pdf?fbclid=IwAR1ILqXvFcKSutOA6XY99WhvPfA6aTG-WJVY1aT7wpI8ZSDC8Ezi5xjd5kU

パタゴニア社が制作した「アーティフィシャル」という映画でも、養殖魚の放流が天然魚を減らしている問題について言及があります。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/20220414.html


この「積極的増殖」と「目標増殖量」によって、「放流」が主体の「管理釣り場」的増殖になっているところが多く、上記のように漁協の赤字要因、遺伝子攪乱リスク、自然再生産減少の可能性に繋がっています。(遺伝子攪乱、自然再生産減少は無根拠に放流を受け入れている意欲のない漁協の課題の方が大きいかもしれませんが)

人によっては、養殖放流は無しにして自然増殖のみに!!という人もいます。
気持ちはわかりますが、釣り人は α)食べる楽しみも含めて魚を釣る(漁業に近い釣り) β)釣りで魚に楽しませてもらっている(スポーツフィッシング) の2タイプがいて、そこは思想が根本的に異なり混ざりあわないため、実際的には私はゾーニングと組み合わせて、放流ありのエリアと、放流無しのエリアに分けて対応するしかないと考えています。(ブラックバス等外来魚は過去文化経緯の一部湖以外はそもそも対象魚種にはならないので一旦考えから外しています)。

目標増殖量で内水面漁協の赤字要因?

②支出必須内容(増殖目標量違反だと免許取り消されるかもしれないので実質強制)であり、内水面漁協の赤字要因

と書きましたが、過去漁協に各種課題点に関するアンケートをとったところ(このアンケート内容はまた別記事で詳細述べます)、以下のような回答がありました。

設問2 5 :そもそも、増殖目標量・義務放流量は漁協にとって必要だと思いますか。
設問「2 6 :上記「必要」「不要」それぞれ回答頂いた理由をお教えください。

必要派回答
不要派回答

増殖必要派は主に、資源維持・確保のため。
不要派は、状況によって必要量が異なるため一律設定意味なし、そもそも増殖目標数を上回って放流している、赤字でそもそも無理、という3点。

逆に言えば、資源維持・確保が出来れば、増殖目標数自体は不要でもあると言えます。
また、不要派主意見の1つ目は、拡大解釈をすれば必要な分以上の放流を強いられている=不要な支出をさせられている、という意味合いにもなります。

以下は研究データでは出ていないですが、多くの漁協を回って聞いてきた点と色々総会資料を拝見させて頂いた感触だと、

〇うまく運営出来ているところは遊漁者状況を見て増殖目標数以上に放流している=管理釣り堀的運営がうまく出来ている
×うまく運営出来ていないところは、増殖目標を設定されていることで遊漁者を呼び込めていない=収入得れていないのに、支出=放流だけ義務としてやっている
△そこそこ運営出来ているところも、環境状況によって必要以上の増殖を強いられることがあり、苦しくなってくる

という感じです。
感覚的には、7~8割の漁協は上記の△~×漁協で、増殖目標が重い状況です。

増殖目標に関する提言

[提言]
A)増殖を認める範囲を増やす(魚道作りや匹数制限、禁漁区や C&R 区間の設定等)
B)増殖目標自体を無くす
C)B)+資源量確保できているかの結果検証に変える
(計算式のみの見直しは、必要性・意味性の根本原因の変更にはならないため、A )とのセットでのみ要検討)

というのが、我々の増殖目標に関する提言です。

A)に関しては、そもそも禁漁区やC&R等制限系は、監視も合わせた運用でない限り意味がありません(監視が無い漁協は遊漁券購入しない釣り人が増える+魚がいるところが特に狙われる)。そして、監視や各管理区の設定等は手間・コストがかかるため、これも一つの攻めの設定です。

また、魚道作りに関しては無い時と比べ十分かつ長期的な増殖効果が期待できます。魚道はほおっておくと流下物で詰まるので、定期的なメンテナンスも必要です。これらが認められ漁協が積極的に取り組むと、様々な生物に明らかに良い影響が出ます(増殖数カウントではなく、その川の天然資源量計算の増産に含まれているのかもしれませんが。そこは不明)

B)に関しては、無くしてもうまく運用出来ているところは元々の増殖目標以上に魚を追加しており、うまく運用出来ていないところは自分達が必要な資源量を調整するようになり、獲れなくなれば漁協がある意味もないので解散するのでは、と思います。
ただ、後者は川の利権として確保しておくために残す可能性はありますが。

Bの最後の懸念があり増殖目標自体を無くせない、という話であれば、C)のように増殖目標のインプットでの管理でなく、アウトプットを監査する、という形に移行したらいいのではないか、と思っています。
上場企業の監査法人や、マル査、労基署のように。
抜き打ち資源量調査を行い、きちんと資源量を担保出来ているかのチェックを行う。

そもそも現状の放流で増殖目標の大部分対応する体制は、自然河川利用した管理釣り堀と何ら変わらないわけで。養殖魚が資源量を減少させるリスクも報告されている中で、インプットを指示された量やったから後はいいでしょう、という結果責任を負わない制度自体が手続き主義、仕事量の増大、工夫余地のなさ、やらされ感による組合の魅力減少、に繋がっていると思います。

都道府県知事による免許+法での増殖義務→都道府県で増殖の基準を示さなければいけない→計算式による増殖目標数の算出(ただし毎年見直しは手間がかかりすぎてやっていないし、あくまで前年度以前を参考にしているのみ)→本記事記載の問題 という流れなので、公共領域の資源を担保し続ける方法を地域自主性+行政フォロー、という形に変えなければならないと思っています。

また他提言も記載していきたいと思います。
(最近記事更新が遅くなってきていますが。。)


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