見出し画像

内水面制度改革の基本骨子(案)

前の記事までで内水面の釣り(≒川釣り)の現状やその背景等追っていきました。

結論としては、「このまま根本変えなければ既存内水面漁業・川釣りは衰退するしかない」です。
全部内水面漁協(以下漁協)が無くなるかと言えば、たぶんそうではなくダム補償や大手漁協でうまく管理出来ているところは残りますが、それ以外はほとんど漁協がなくなるだろう、と。でも中途半端に漁協残ることで逆に現状制度が根本変わらず引きずられていくのではないか、と考えます。その場合、実質管理されていない河川が広域に残ることに。

正直、釣り具メーカーの人や土木業者等、「川の漁協なくなった方がいいでしょ」と言われることもしばしばあります。
ただ、様々なことを知る中で、漁協であるかどうかは別として、「資源管理主体」は必須だと考えています。最近は海でさえ資源減少と言われ資源管理必要と言われている中で、それよりもっと小さい内水面環境においては言うまでもなく、です。
魚のいない環境で釣りは出来ません。

内水面の制度問題とは?? で見たように、欧米では国が内水面魚類の管理を行う形態が一般的です。
日本では、漁業法制定時(1949年)に国営増殖方式が反対され現状の漁協主体漁場管理方式になった経緯あり(地域住民の増殖主体性、監視保護等の人的リソースの問題、管理主体の歴史的経緯、明治期の魚類乱獲等※)。

国営増殖方式が反対された懸念は現状でもほとんど変わらず。かつ国家での新たな管理事業予算がつく可能性は限りなく低いです。(市場可能性・経済規模・合意形成難度の観点より。例えば完全行政管理になった時に、地域のレンジャー的立場、問い合わせ窓口、遊漁者管理等、都道府県行政ではきっと人員を現状の10倍以上に増加させる必要あるでしょう)。
そう考えると、国・行政主体での資源管理への移行は日本では非現実的です。たぶん内水面漁協無くなっても、形だけ行政主体の資源管理に移行し、予算がないので何もしない、という形になるでしょう。

提言:漁協+民間組織、という資源管理主体パターン

既存の、現在の内水面漁協による管理は問題だらけで落ち続けている。国管理は現実的になさそう。では、どのような資源管理枠がいいのか。

私たちは、以下のように漁協+民間組織による管理が一つの可能性のある枠組みと考えています。

現状でも漁協に民間NPOや団体が協力する、という形はありますが、もう少し踏み込んで、内水面漁協の増殖義務と遊漁料徴収権を切り離し、企業やNPOが増殖義務と遊漁料徴収を請け負えるようにする形。
行政分野ではPFI(Private Finance Initiative ※2)と呼ばれる形で民間活力を使う形式と同じような形です。
地域の川の一番身近に接するのは地域住民であり、そこの優先権やゴミ・駐車場の問題に対しての調整等地域調整機能としての組合はあった方が良いと思います。その調整機能としての組合が認めれば、漁場管理を大部分民間企業・NPO等に任せられる、という形です。

現行法制度の建前は、内水面漁協は「漁場管理出来る」から漁業権を知事より付与されています。そのため、管轄河川の一部だけであればどこか別組織に委託は可能だが、大部分となると不可、というのが基本になっています。

でも、実態は大部分の漁協では、すでに積極的な「漁場管理」が出来ていません。
都道府県に決められた「増殖目標数」を満たすために(釣り人が来るところはそれ以上に)、漁協が自分達の漁場のためという建前の元、大部分の人が自分たちが釣る以上の魚を、ボランティア=地域の善意による無給や仕事として見合わない額で、大部分「放流」によって形としては魚を増やしているけど、実態は自然増殖に繋がらない釣り切り河川になっており、とはいっても労力に見合う遊漁料収入設定も行政制限で出来ず、遊漁をレジャー資源の中心として活用する意欲を持てずリスクテイクも出来る体制になく、活用工夫が出来ないまま衰退を止められない状態、です。

建前が実態と合わないのに、言葉のロジックだけ見るとそれっぽいのでそのまま実態に合わせず進めている、という状態。
上記提言は、一つの案としてではありますが、建前はもう一旦おいておいて、0ベースで現在の実態に合わせつつ、何が担保されると良い制度なのか、という点で考えています。

地域・漁協>
 ・地域の暮らしが守られる(騒音やゴミ問題を可能な限り減らす、自分たちの土地が荒らされない等)
 ・地域資源を優先して(ただし排除せず)使えるようにする
 ・地域活性に繋がる
釣り人>
 ・ニーズに合った魚がきちんと生息している(天然魚か、放流魚でも釣って持って帰れるか)
 ・複数の河川で釣りを楽しめる
水産行政>
 ・管理コストを下げる
 ・外来種増加や遺伝子攪乱等生物面のマイナスが起こらないようにする
 ・地域活性に繋がる

こういった点が満たせる制度は何か、を0ベースで考え直す必要があると考えます。

漁協以外が資源管理に関わる、委託出来る、という点では、例えばの事例で私たちが立ち上げから関わってきた愛知県名倉川漁協で、段戸川C&R区間での「釣り人組織との連携による漁場管理」があります。

漁協管轄の一定区間の河川を、釣り人が監視する形から始めた釣り人連携事例

釣り人による監視、発眼卵放流からの稚魚育成、入川口整備、放流後の生息密度調査、週末釣り講習会、クラウドファンディングによる放流資金調達、林道整備、ごみ拾い、SNSでのPR 等々により、その漁協の渓流釣りの人数は10倍以上来るようになりました。

以下は、その段戸川C&R区間で釣れたアマゴの2種類。何が違うでしょう。


まったく同じ河川区間で釣った魚ですが、1枚目は成魚の放流後そんなに日にち経っていないアマゴ。
2枚目は、同じ購入元で購入した発眼卵を発眼卵BOXで育て放流したアマゴで、卵から川で育った多分3年目。
ヒレの大きさ、きれいさ、保護色、等、別種のようです。

魚がいる、天然魚、地域外の釣り人ながら自分たちが育てた場所での愛着による環境整備。こういった特徴で注目されていってそれだけ多くの釣り人が来るようになったのだと考えています。

渓流魚に関しては、河川の一部を管理釣り場として貸出しているところも多くあったり(新規では結構大変で、過去の経緯からのところが多いと思いますが)、似たような形は実現されていますが、あくまで一定区間を漁協が貸出している扱いで、漁協への収益以外は、増殖量等への換算等漁協経営に組み込まれているところはほとんどありません。

鮎だと、一部区間だけ貸出しても色々移動するので、現在の「管轄河川の一部だけであればどこか別組織に委託は可能だが、大部分となると不可。漁協が漁場管理出来ないと言っているのと一緒だから」という建前に阻まれている可能性も高いですが、事例としても見当たりませんでしたが、増殖義務と遊漁料の工夫範囲が大きくなるなら、他事業も組み合わせて十分工夫して事業と河川環境改良に繋げることは可能だと考えています。

基本的な構想のベースには、内水面の制度問題とは?? で記載したように、今の環境状態で、漁協という組合制度に、増殖と遊漁料徴収、という経営が必要な事を実施させるのが非常に難易度高い状態で、良い組合長による長期政権か、優秀な職員が長期間実運営しているか、という条件でしかそれなりにうまくいかせられない、という点を問題意識として持っているため、この提案のような話になっています。(当然民間活力使う、みたいなイメージになるので、ダメな事業者、人達は当然いるんですが、割合としてうまくいかせられる確率の方が高くなる、ということがポイントです。)

次の記事では、それ以外でも具体的に法・解釈・制度面で足を引っ張っていると考えるポイントを記載していきたいと思います。
(「漁業」法なので「遊漁」に関しての法観点が無い、遊漁料設定自由度ない、増殖義務が負担、組合に任せすぎ、例規集等解釈事例で足引っ張ってる、等)


※1 内水面漁業制度の確立過程と流域環境・魚類資源問題 -1949年衆議院水産委員会での議論を中心に- 2000-08-30 大森正之
※2 Private Finance Initiative 参照:https://www.mlit.go.jp/common/001003171.pdf
https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/pfi_gaiyou/pdf/ppppfi_jirei.pdf




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?