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もう逢えないと決めたけど…


あなたの優しさが怖かった。

あなたの夢が『わたし』に変わるのは悲しい、あなたが夢を捨てなくてもわたしはあなたの傍にいるのに。

今は、色々な奨学金もあるから進学を諦めなくてもいいんだよ、
貧しさを言い訳にしないで、楽な方に逃げないで。わたしのことは気にしなくていいからと少し責めるようにキツく言ってしまった。

そしてわたしは心のどこかで未だに『余命宣告メール』を気にしている。

今年5月、拒否設定の網をすり抜けて送られてきた突然の迷惑メール。
『おめでとうございますあなたの余命は1年です。』
こんなふざけたメールは信じない、でも何となく制限をかけて過ごしてきた数ヶ月。もしもメールの通りなら、わたしの余命は残り4ヶ月と少しだけ、蒼くんが高校を卒業して一緒に暮らしても、すぐに『さよなら』と消えてしまうかもしれない。
あの時、結ばれてはいけなかった。

互いに大切な人となり、初めて家に誘ったあの日
トラ柄の猫シマトラと戯れ合ううちに、互いの視線に目を合わせ、自然と唇を重ね合うふたり。その場に倒れこみ寝転ぶあなたは、わたしの髪に顔をうずめすーっと息を吸う、何も触れずにそのまま寝てしまいそうなほどに健やかなあなた。

そう言えば、職場のロッカールームで「男の人って経験を重ねないと上手うまく出来ないから、未経験の男子にはこちらからリードしなくちゃダメなのよ」と先輩は年下の彼氏の話を嬉しそうにしているのを聞いたことがある。


蒼くんはウブなの?それとも本気でこのまま眠ってしまうの?

意地悪なわたしが目を覚ます。腕枕してくれるあなたから身を起こし、少し冷めた目つきで、あなたの服のボタンを外していく。シマトラがニャーと言って部屋から出ていった。あなたはわたしを労るように温かくこの身を撫でてくれる。わたしは悪戯いたずらをしながら何故か身体をいしばる。

そして一筋涙が流れた。何であなたとたわむれようとしているのにわたしの身体は強張こわばるの、何で熱い吐息をつきながら徐々に心はてつくの、何でわたしは泣いているの。

汚れたわたしの心と身体をあなたのその手は優しくぬぐう。柔らかくゆっくりとあなたの腕は温かくわたしを被った。

涙は止めどなく流れ、ポタポタとあなたの身体を濡らしていく、わたしは涙を拭いながら「ごめんね、ごめんね」と子どものように泣き。泣きながあなたの心の中に入っていく。





わたしは、手紙が来ても、メールが来ても返事を出さずにいた、封も開けないままの手紙は部屋の隅でわたしを見つめている。わたしはゴミ箱に捨てることも出来ず、元のひとりぼっちの淋しさを重ねている。

携帯が鳴る、着信はあなたの番号、わたしは迷ったが、
「ごめん、もう逢えない」と電話で伝えようと、ためらいながらに携帯に出ると電話の向こうは女の人の声。

「もしもし、こずえさんの携帯で間違いないですか?」
わたしは、あなたの新しい彼女から電話がかって来たのかと戸惑っていると
「初めまして、わたしは蒼の姉です。突然電話してごめんなさい。こずえさん弟は本気です。」と訴える声と
「知っています。本気だから、蒼くんから離れようと思ったんです」とこもる声
お姉さんは困った声で
「もう一度弟に会ってあげて下さい、そして話を聞いてあげて欲しい。あなたの気持ちも弟に伝えておくから」と懇願された。
「一度だけです。それが蒼くんと会う最後にしたいと思います。」と告げ、伝言を頼んだ。
きっとあなたはお姉さんの隣にいたのだろう、けれど電話口に出なかった。

『もう一度だけ』また川崎に来て欲しいことと今度の土曜日いつものところで待っていることを伝えて、電話を切った。

川崎に来てと頼むのは、あなたが揺られて帰る電車の中で、きっと気持ちの整理が出来るだろうと思ってお願いしたこと。
あの夏、君と出会ったあの東海道線で泣きながら揺れる車窓を眺めていた横顔がそうだったように。











最後までお読みいただきありがとうございます。

一話つづ完結して楽しめる様に書いますが、連載になっております。
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タイトルのお写真は
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