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三日月

 その日の三日月はどことなく満月よりも寂しげで頼りなかった。「三日月が出たら闇に堕ちる合図」闇の中で三日月が隠れた。真っ暗闇の中一歩また一歩と歩を進めた。震えながら。怖がりながら。なけなしの勇気を振り絞り。どの程度歩いたか分からなくなった頃、何処からかコウモリが飛び交った。コウモリの姿に驚き飛び上がると幼女のすすり泣く声が聞こえた。「この声は・・・」幼女の泣き声の方向に進むとそこには心が傷だらけの過去の自分とそっくりな幼女がうずくまっていた。幼女を慰めたいのに慰められない。言葉も声も出ない。空っぽの慰めの言葉はいらない。幼女と過去の自分。心の傷つき具合。重なる。泣く幼女の背中を擦りながら「身体の傷は治る。だけど心の傷は治らない。一生消えない。背負わされるもの。」何処かで読んだ言葉を誰に聞かせるでもなく優しく紡ぐ。紅き瞳のコウモリは黙って見、蒼く光る三日月は再び現れ歪にニタリと笑っていた。 

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