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010.変わる「ものづくりの国」

正解は「アメリカ」です。
この問題を私が好んで使っていたのは、どんなに答えを要求しても、アメリカという正解はほぼでてこないという秀逸さにあります。そして、解題を聞けば皆さん深く納得してくれる外れのない必中さ。この問題には、アイスブレークの要件、興味深いテーマ、わかりやすいストーリー展開、意表を突く解、あっと驚くどんでん返しの妙の4要素がもれなく含まれています。
後から受講生に聞くと、その後のセミナーの内容よりも、このアイスブレークの方が圧倒的に記憶に残っていて、「セミナーでは、あのはなし面白かったです!」と嬉しそうに語り、講師をがっかりさせてくれます。
なかには、「あの話、ウチでもしてください」と講演依頼を受けることもあるのですが、「その後の私のセミナー内容は、記憶にないのかい?」といいたくもなります。受講生がツッコミどころを間違えていることに気づいてくれないのが残念です。
その意味では、前座ででて客席を大いに盛り上がらせ、後からでたくるメインイベンターの試合をかすませてしまったデビュー当時のマイク・タイソンのように、この質問は、私の意図に反して、知らぬ間に軒下に収まらず母屋にとって代わってしまったようでした。
この質問の後でお話しするセミナーそのものは、十分に母屋の中身と重さを備えている、と私は自負していたのですが、負け惜しみに過ぎなかったのかもしれません。
この質問は、私にとっては講話のイントロ部分の、次への食欲を誘う食前酒の役割を果たしてくれる鉄板ネタになっていました。
さて、答えは「アメリカです」と伝えると、みなさん一様に、「ええ? 勤勉だとか、発明者はいないとか、ヨーロッパの発明がこの国で実用化されるとか、設備や道具を考案しない人はいないとか、職業が喜びを構成し勤労が楽しみをもたらしている人たちとか、アメリカという答えは、おかしくないですか? どういうこと?」と、狐につままれたような表情になります。無理もありません、だから問題として使えるわけですから。
質問の答えに、正解がでないのは、言いかえれば、それほど、現在の製造業の社員に、「ものづくり」「生まれついての職人」ということばと、現在の「アメリカ」が結びつかないということです。
ラストベルトを中心に、失業対策に、海外に出た製造業をアメリカにもどしたい、と表明しているアメリカ人がセミナーに参加していたら、はたたして正解をだせただろうか。「答えはアメリカ」に彼は「フェイクだ!」と反論するかもしれません。

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