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詩「梨」


秋の侘しさに似た水分と
心を搾り取られる様な甘い傷みが
混ざり合いながら溶け合う
私は
その透明な液体に
首までどっぷりと浸かっている

空白は酷く虚しい
じきに長い長い夜がやってくる

この季節になると
何度も読み返した本のページをめくり
蛍光ペンの黄色いマーカーを青春時代の記号にする
今では
その箇所を最重要だとは感じないのだけれど…
(人生の真の面白さは細部だ。)
時間の変化で
透明な液体は茶色く変化した

本のページの端っこに梨汁のシミが僅かに残る
もうあと一口欲しいところで
梨は私の身体を通過していった
あーあ
(もう、終わりだ。)

食欲は満たされず
私は本の表紙を閉じた時
秋の栞を無くしていた事に気が付いた

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