【インタビュー】 「神田カレーグランプリ」誕生秘話 【カレーの賢人】
カレーの賢人 インタビュー Vol.2
「カレーの賢人」インタビューVol.2は、神田カレー街活性化委員会の委員長、中俣 拓哉さんです。
中俣さんは、神田・神保町エリアで毎年開催される、日本最大級のカレーイベント「神田カレーグランプリ」をプロデュースした、まさにカレーの賢人。今回は、カレーの学校の同期生、GKことゴーグル仮面さんの紹介で、中俣さんも行きつけの「お茶の水、大勝軒 BRANCHING」でお話を聞きました。
中俣 拓哉さん
健康・美容関連ビジネスを手掛ける株式会社ロハスコミュニケーションズで代表取締役を務める傍ら、神田カレー街活性化委員会の委員長として、神田を「カレーの聖地」として日本全国に知らしめた「神田カレーグランプリ」を企画・主催。
2011年に開催された「神田カレーグランプリ」も、集客人数・参加店舗は拡大の一途をたどり、今年の2018年で8回目を迎える。
2018年6月23日(土)お茶の水、大勝軒 BRANCHING(千代田区神保町)にて。みんなで2017年度「神田カレーグランプリ」優勝を獲得した、大勝軒秘伝のカレーを食べながら。もちろんビールも。
「神田カレーグランプリ」が生まれたきっかけ
—— 「神田カレーグランプリ」を始めたきっかけは?
中俣:
「神田カレーグランプリ」のスタートは、そもそもカレーありきのスタートではなくて、「まちの活性化」からスタートしたんですよ。
私が千代田区の中小零細企業の集まりである「千代田区商工業連合会」に所属していて、最初はその連合会で「まちの活性化をいろいろやってみよう」というのが始まりでした。
連合会に入りたての頃は「千代田のさくらまつり」の運営とか実行委員会をやっていたんですよ。
—— カレーではなく、桜?
中俣:
はい。
連合会全体で「千代田のさくらまつり」に取り組んでいて。フリーペーパーも25万部ぐらい発行したりしていました。
そういった活動をしていく内に、だんだんと自分の関心事が大きく変わってきて……。
—— カレーにですか(笑)?
中俣:
いやいや、まだ(笑)
農業とかに興味を抱くようになって、いわゆる1次産業的なものに。
そもそも私の本業が「自然食」や「健康食」とか、ロハス的なことに取り組んでいまして、当時の連合会の会長とかと「これからは6次産業だ」と話したりしていて……。6次産業って聞いたことないですか?
—— え、6次産業ですか?
中俣:
1次産業というのが、いわゆる農業や漁業、林業とかですよね。2次産業がそれらを製造し、加工したりして。そして3次産業がサービス業とか小売業を指しますよね。
「6次」というのは、それらを全部掛け合わせた値の「6」なんですよ。
「1次産業」×「2次産業」×「3次産業」=「6次産業」と。
つまり、生産物の価値を上げるため、農林漁業者が「生産」だけでなく、食品加工、そして販売やサービスにも一体となって取り組み、農山漁村の豊かな地域資源を活用することを「6次産業」と呼んでいます。
この「6次産業」という言葉が出てきて、「農商工連携」と言われ始めたのが、かれこれ10年ぐらい前ですかね。
経産省が打ち出して「農商工連携」をこれからもっとやっていこうよ、という後押しみたいなものもあって、私もそれに興味があったので、何か新しいことをスタートしてみようと思い立ちました。
—— そこから「カレー」へと、どう結びついたのですか?
中俣:
千代田区って1次産業がない区なんですよね。
23区の中で唯一ないんですよ、農業が。宮内庁が管轄している皇居の中ではやってるんですけど、それは違いますしね。
なので、千代田区に1次産業がないのであれば、日本各地の地方や地域の1次産業と、千代田区の産業を結びつけて、自分たちで「農商工連携」してみようと思い立ち「農商工連携委員会」を立ち上げました。
そして、地方からさまざまな「食」や「特産品」を千代田区に呼び込むところからスタートしました。
「神田カレーグランプリ」の前身
—— 「神田カレーグランプリ」の前身ですね?
中俣:
その当時は、B級グルメ、B-1グランプリが流行っている時でもあって。
「農村B級グルメ祭り」といった名を冠してスタートしたのが、2010年のことでした。
サンマ寿司、棒寿司、イカ焼きなど、様々な地方の特産品を千代田区に呼び集めることを、まずは企画しました。
でも、ただ地方から呼び込むだけでは面白くないですよね?
そこで、神田にはカレー店が多いから「地方の特産品」VS「 カレー」みたいな形で、イベント開催できないかなって思いました。
—— VS「カレー」ですか(笑)?
中俣:
その方が面白いかと(笑)
地方からは20店舗以上も集まってもらって、神田からはカレー店4~5店舗に協力いただき「農村B級グルメ祭り、バーサス、神田カレー」と銘打ち、イベントを開催しました。
でも、いざ、ふたを開けてみたら、みんな「カレーのイベント」「あのカレーまつり」って言うんですよね。
おやおや?と(笑)みんなカレー好きだぞ、と。
俺も好きだぞっていう(笑)
—— 神の啓示の如く「カレー」の声を聴いたんですね(笑)
中俣:
もうもう、まさにですね!
来年からカレーだけにしちゃおうと(笑)
—— そこで翌年2011年から、正式に「神田カレーグランプリ」がスタートしたのですね?
中俣:
はい!
もう、カレーをやろうと。
これはカレーだぞ!ということで(笑)
これが「神田カレーグランプリ」のスタートのきっかけです。
私たちは「まちの活性化」と「6次産業」を結び付けたところからスタートしたんですよね。
ですので、スタートがどちらかと言うと「カレーが好きだから、カレーで何かやりたい」というのではなく、「まちの活性化」を推進していく中で「おや?カレーがいいぞ」という、どちらかというとマーケティング志向なところから生まれました。
みんな、カレーが大好き
—— まちの人々に耳を傾けたのが「神田カレーグランプリ」の始まりですね!
中俣:
そうそう。
「カレー好きが仕掛けた」というよりも、マーケティング志向でスタートしてるっていうのがミソです。
また、「まちの活性化」が目的だったので、様々な団体からも自然と協力オファーを受けました。
神田でスポーツ祭りをやっていたスポーツ店連絡協議会とか、ブックフェスティバルをやっていた古書店連盟とか。そして楽器店とか。
スタート当初から、神田周辺の地域団体とコミュニケーションしながら運営できたことが、まだ成功と言えるかどうかは分からないですけれど、これだけ続けてこられたイベントに育った理由かなって思うんですよね。
—— 巻き込み方がうまいですよね?
中俣:
いやいや(笑)
私たちのイベントも、ただ単にカレー好きな人が「カレーを」「カレーを」っていう風にやっていたら、もしかしたら、地元の団体からも「あいつらカレーのことしか考えてねえぞ」「カレーマニアがやってるだけだな」と思われたかもしれませんね。
もしもそうだとしたら、これだけの協力を得られていなかったかもしれません。
でも、私たちは「まちの活性化」からスタートしてるから、「カレー」でみんなを盛り上げようよと。
カレーで古本屋をもっと盛り上げよう、カレーでスポーツ店、楽器店を盛り上げよう、そして神田を盛り上げようって。
だからこそ、皆さん、本当に色々と協力していただき、第1回神田カレーグランプリも、予算0円という中でも、何と3万人の方に集まっていただき、スタートすることができました!
このようなイベントが開催できたのも、やっぱり「まちの活性化」からスタートしたからこそだと思っています。
—— 「古本のまち」「スポーツ用品のまち」「楽器のまち」、そして「カレーのまち」の始まりですね!
カレーの聖地、神田
—— 「カレーの聖地」というイメージを全国に広めたのは、やはり「神田カレーグランプリ」ですよね?
中俣:
いやいや、おこがましい。
昔から、共栄堂とかボンディ、キッチン南海、そしてエチオピアと色々とありましたので。
喫茶店でも昔からカレーを提供していましたし。
—— あ!いわゆる「純喫茶」ですね?
中俣:
さぼうる、ミロンガ、ラドリオなど、有名店は色々とありますよね。
—— では、そもそも神田の定義は?
中俣:
私たちが神田と捉えているのは、おおよそ旧神田区の地域ですね。
北の方まで行くと秋葉原もですかね、外神田といわれる地域も。そして東の方が岩本町ですよね。
—— 神田岩本町ですよね。神田●●●町とつくところが多いですよね?
中俣:
そうそう、神田猿楽町や神田錦町、神田神保町とか。
ですので、「神田カレーグランプリ」では、具体的な範囲・距離などは指定していなくて、飯田橋辺りでも「歩ける範囲」ということであればオッケーです!
参加したいという声さえ頂ければ、参加してもらってます。
そもそもが「まちの活性化」からスタートしてますからね。
—— さすが、神田は懐が深いですね!
中俣:
私たちも、かっちりと線引きして「僕らの神田」「神田のカレー」というブランディングをしている訳ではないので。
そうではなく「神田」や「カレー」を通じて、どんどんお客さん同士、お店とお客さん同士と、みんなのコミュニケーションとコミュニティーをつくっていけたらと思ってます。
—— 「場」の提供ですね?
中俣:
はい!
なので、もう誰でもウェルカムです(笑)
半蔵門の方で手を挙げてくれるお店でも「駄目です」とは言いいません。
よっぽど離れていると、ちょっとあれですけども、ぎりぎり半蔵門とか飯田橋ぐらいなら、もう是非ぜひ!
ちなみに丸の内の店舗も「神田カレーグランプリ」に参加していますよ。
—— え? 丸の内も入ってるんですね。
中俣:
はい、そこを神田と呼ぶかは別として(笑)
「参加したい」って言われちゃうと、私たちはよっぽど離れていない限りは、「一緒に神田のカレーを盛り上げましょう」ということで、逆にお願いしていますよ!
以前は、秋葉原からも参加してもらったお店もありました。住所は台東区でして、もはや千代田区ではなかったですね(笑)
88店舗ものカレー屋さんが参画
—— 初めは何店舗で「神田カレーグランプリ」をスタートしたのですか?
中俣:
確か2011年は20店舗でスタートしましたね。
もう、当時はがむしゃらになって集めましたよ(笑)
—— それが昨年2017年には88店舗に?
中俣:
そうですね。
もう今となっては、会場の小川広場に集まって、全店舗が一堂に会してイベントをやるのには限界でして……。
今では店舗数も大分多くなってしまったので、予選を開催していて、その予選の中から勝ち抜いていただいた20店舗でもって、カレーグランプリ本選を小川広場で行っております。
—— 予選を勝ち抜くとは、投票などで?
中俣:
そうです。
スマホやPCで投票していただいたり、ハガキを送っていただいたり。
でも、本音を言うと、厳密に順位を付けようっていうのは、そもそもの趣旨ではないんですよ。
そもそもカレーについて、カレー好きの方だったらそうだと思うんですけど、順位付けるのって難しくないですか?
「カレー」の順位付けなんて、どうだっていい
—— そうですよね。カレーは好き好きだし。
中俣:
そうそう。
カレーはみんな違うし、それぞれおいしいじゃないですか!
だから別に順位なんか、正直、私たちはどうでもいいんですよ(笑)
なので、カレーの店舗の方々にも、私としてはそんなに順位にこだわって欲しくないと思っています。あくまでもお祭りなので。
だから、「神田カレーグランプリ」の投票に関しても、ルールに関しては緩く運営していますね(笑)
お店で積極的に投票権を渡している店舗もあれば、お店でオリジナルの投票ハガキを作って、お客さんに渡ししてるお店もあります。全部ウェルカムです(笑)
むしろそれをきっかけに、お客さんとコミュニケーション取ってもらっていることが、本当に嬉しいですよね!
だって、お店の人がお客さんに「このオリジナルの投票ハガキ、名前を書いてポストに投函してください」っていうだけで、そこにコミュニケーションが生まれているじゃないですか。
—— 「カレー」がコミュニケーションのきっかけになってくれればと?
中俣:
そうなんですよ。
私たちとしては、それが本望なんですよ。
「神田カレーグランプリ」は、予選を勝ち抜いた20店舗が自慢のカレーを競い合って、お客さんからの投票によってグランプリが毎年決まります。
もちろん、それは大いに楽しんで欲しいのですが、個人的には、それよりもスタンプラリーにもっともっと多くの人に参加して欲しいと思ってます。
—— 88店舗を食べ歩く「神田カレー街食べ歩きスタンプラリー」ですね?
中俣:
はい。
みなさんには「神田カレー街食べ歩きスタンプラリー」を楽しんでいただいて、このスタンプラリーをきっかけに、お店の人やお客さん同士、どんどんコミュニケーションを取ってもらって、カレーにどっぷりと底なし沼のようにハマっていただけたらと、ここ神田で(笑)
この「神田カレーグランプリ」を、「コミュニティー」として利用していただくのが、カレーグランプリの本当の意味での目的、そして私の想いなのかもしれません。
神田カレーグランプリの転機
—— 2011年からスタートした「神田カレーグランプリ」。イベントが軌道に乗ったきっかけを教えてください。
中俣:
そういう意味では「神田カレー街食べ歩きスタンプラリー」を始めた年ですかね。だから2014年かな。
実は当初からスタンプラリーはやりたかったんですが、なかなか手が回らなくて……。
そこで、奮起して「よし、スタンプラリーやるぞ」と、地道に営業を始め、参加してくれるお店を集め出しました。確か、当初は53店舗だったかな。
私もスタンプラリーを開催するにあたって「さすがに53店舗も食べ歩く人など、せいぜい10人かな」なんて思っていたんですよ。
ところがですよ!
全店食べ歩いてくれた人が69人もいて(笑)
そこで大きな手ごたえを感じましたね。
—— 順位を決めることよりも、食べ歩いくことで「カレーで繋がる」ことですね?
中俣:
そうですね!
このイベントを始めたときの私の理想は、やはり「コミュニケーション」なんですよね。
こういう居住地でもない、東京の大都市で、普通に街を歩いていたら、それこそただ黙々と歩くだけじゃないですか(笑)
でも、ここ神田では、通りがかりでたくさんの知っている人と会って、お互いに挨拶をしあう、そんな街にしていきたいな、と思っております。
この街に住んでいる人だけではなく、遊びに来てくれた人も、それこそ道ですれ違う人とも挨拶をし合える街に。
—— なるほど!
中俣:
街を歩いていてもそうだし、お店に入って「あ、マスター!こんにちは」「この間、誰々さんが来てさ」といったように、お店とコミュニケーションが生まれるような街にしたかったんですね。
それが、このスタンプラリーを開催することによって、年々、なんて言うんですかね、そういう「コミュニケーション」とか「コミュニティー」が生まれてきたのが、もう何より私たちにとっての喜びというか……。
大きな声でみんなに言えるのは、「2日間で5万人集客できるイベント」ということよりも、そういう「コミュニティー」が神田で生まれてきたっていうのが何よりだし、それをやっぱり毎年広げていきたいな、と思っています。
カレーとは自由愛だ!
—— では、最後に中俣さんにとっての「カレー」とはなんですか?
中俣:
そうですね。
まず本気で思ってるのは、「カレー」って世界平和だと思います!
「カレー」とは、多様性を認める食べ物だと思っていて。
「このカレーじゃないとうまくない」「スパイスを使ったカレーじゃなきゃダメ」「●●●のカレーみたいなモノは認めない」とかっていうカレー好きとかマニアがいるんですよ、自分の嗜好以外を認めない人たちが。
逆に、バーモントカレーしか食べないって言う人もいるし(笑)
でも、それぞれでいいんですよ!
それぞれ「好き」「好み」があっていいんですけど、でもそれを認め合うのが、本当のカレー好きだと私は思っています。
みんなが自然に認め合う文化、そういったコミュニティーを、ここ神田から発信して、広げていけたらと思ってます。
神田のコミュニティーが、どんどん広がっていくと、本当に、世界平和というか、多様性を認め合う人間関係を構築できるのではないかと、私は思っていますよ。
そう、カレーとは自由愛ですね!
—— 多様性を認め合う寛容さ、ボクたちも大事にしていきます!中俣さん、ありがとうございました!
カレーの学校
第9期「カレーの賢人」インタビューゼミ
[運営]「カレーの賢人」インタビューゼミ
[取材]はたさん/GK/北村 智宏(ココロ株式会社)
[写真]北村 智宏(ココロ株式会社)
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