探究学習プログラム #05 -田園調布学園 二子玉川ライズ・ショッピングセンタープロジェクト-
プロジェクトの概要
1学期に「探究学習プログラム基礎編」を通して、課題解決型探究学習を進めるドライブであるデザイン思考を学習した中学2・3年生、約400名、全100チームが、次のステップである「実践編」に取り組みました。
実践編の目的は、企業からのテーマ課題に対してデザイン思考を用いた探究学習を進めることを通して、基礎編で培ったデザイン思考プロジェクトを実践するとともに、実社会と接続した学びを得ることです。
今回は学校近くのショッピングセンターである「二子玉川ライズ・ショッピングセンンター」にご協力いただき、そこから出題された「平日来館者数を向上させて欲しい」という課題に対して、プロジェクト学習を進めました。
プロジェクトの流れ
⑴ 授業1回目「プロジェクト説明会」
中学2・3年生約400名が学校の講堂に集まり、二子玉川ライズ・ショッピングセンターの方からのテーマ出題とCURIOスタッフからのプロジェクト概要説明を受けました。
後半の質疑応答では、生徒から「課題に対してこれまでどのような取り組みをしてたのか?」「ショッピングセンターにある物販店舗と飲食店舗では、来館者の傾向にどのような違いがあるのか?」などといった、課題を進めるために必要な質問がありました。
⑵ 授業2〜7回目「チームのワーク時間&中間発表会」
授業は、冒頭簡単な状況確認や補足説明をCURIOスタッフから行った後、ほぼ全ての時間をチームのプロジェクトワークに使いました。チームによってプロジェクトの進め方はさまざまで、身近な先生をユーザーとしてインタビューを重ねるチーム、自分たちの両親へインタビューした結果をシェアしてインサイトを考えるチーム、二子玉川ライズ・ショッピングセンターの概要や周辺状況を調べるチーム、CURIOスタッフにプロジェクトプロセスを確認するチームなど、多様なプロセスが展開されていました。
途中、2回の中間発表では、プロジェクトをフォローするCURIOスタッフに対して進捗状況のプレゼンテーションを行いました。CURIOスタッフからは、主にデザイン思考の観点(ターゲットユーザーを絞って詳しくインタビューしてみよう、アイデアを形にしてユーザーに聞いてみよう、など)のフィードバックをチームに行いました。
⑶ 授業8回目「クラス内発表会」
最終発表会の1つ前では、クラス内の全チームがプレゼンテーションを行い、そこからクラス代表チームを決定するクラス内発表会を行いました。
選出方法は「生徒多数決・先生・CURIOスタッフ」の3票多数決で行い、2学年10クラス100チームの中から、1クラス1チーム、合計10チームが選出されました。
⑷ 授業9回目「最終発表会」
二子玉川ライズ・ショッピングセンターの方々を学校にお呼びして、2学年10クラスの代表10チームがプレゼンテーションを行いました。プレゼンテーションの後、各チームに対してフィードバックをいただきました。
代表1チームのプロジェクトとインタビュー
最終発表をした10チームから代表して1チーム(Aさん・Bさん・Cさん・Dさん)のプロジェクトとインタビューを紹介します。(インタビューアー:弊社田中)
プロジェクト概要
代表チームは、仕事帰りの独身男性であるA先生をユーザーに設定し、ユーザーが「普段、人目を気にして行いにくいアクティビティを自分に馴染みがある雰囲気の中で落ち着いて楽しみたい」をインサイトに定め、それを叶えることとして「居酒屋×スイーツ」などのアイデアを提案しました。
自分たちのプロジェクトについて
Q.プロジェクトの流れを、簡単に教えてください。
B 最初はとりあえず、自分たちがターゲットとするユーザーを決めるために、いろんな人に話を聞いてみることをしました。ただ、最初にライズさんからもらった資料に「夕方以降の入館者数を増やしたい」とあり、その時間に行けるのは独身の男性が多いのかなと見立てたので、相手のインサイトははっきりしないまま、男性の先生6人ぐらいにインタビューしました。
C インタビューといっても、最初は雑談のようなもので。だだ「最近元気ですか?」「家帰ったら何してますか?」と、直接プロジェクトに関係ない話ばかりしていました。少しずつ軌道修正をしながら、だんだんと形が見えてきた感じです。
A その中のA先生と雑談していると、よく銭湯に行くんだとか、最近サウナにハマってるんだとかいろいろ出てきて、なんとなく「一人になれる」「1人で行ける」といいうキーワードが出てきたんですよ。そこから「逆に1人で行けないところはどこ?」という話になり、それでパンケーキ屋さんが出てきました。
B A先生から「男性が1人で女子中高生が並びそうなスイーツに並んでいたらおかしいよね」とあり、理由を聞くと「女の子ばっかりだから自分が男性だと目立つ」「周りからの視線が怖い」と。そこからスイーツ系のお店について思いつく限り聞いてみると、なんか濁されたんですよ。直接的に「1人で行けますか?」と聞いてみると「行けるけど…。」と。さらに「1人では行きにくいですか?」に対しては「確かに…なんか自分がいたら変かもね」という答えでした。自分ことを気にしているだなって。
D そんな感じで「1人で行けるけど、行けない場所」「本当は行きたいけど、行けない場所」をいろいろと聞きつつ、自分たちでも探したり考えたりしつつ、そして「本当は行きたいんだけど、絶対に1人では行かないところを、お1人様で楽しめる」というを提案してみようという方向性になりうました。結構そいうの多いんじゃないなかって。そこから、具体的なアイデアである居酒屋とスイーツ、パンケーキと流れが決まっていきました。
Q. プロジェクトの方向性が決まったあと、どのように進めましたか。
A A先生にとってスイーツは絶対に1人で行けないところなら、普段よく行くと話していた居酒屋さんであれば安心感があるんじゃないかと思い「居酒屋に食べたいスイーツ屋さんの商品があるのはどう思いますか?」と聞いてみました。それには、居酒屋さんに甘いものがあるのはいいけど、パンケーキ屋さんにお酒があるのはやだ、という回答でした。
B それで、やっぱり周りの目が気になってるんだと確信できました。その後その原因を考えたんです。居酒屋さんに甘いものがあるのはよいのに、パンケーキ屋さんにお酒があるのはなんで嫌なんだろう、と。そこからいろいろあった後に、インサイトを「普段、人目を気にして行いにくいアクティビティを自分に馴染みがある雰囲気の中で落ち着いて楽しみたい」とまとめました。
C インサイトに対するアイデアとして、居酒屋さんで流行りのスイーツが楽しめる仕組みを考えていきました。ただ、似たようなインサイトをもつユーザーにとってはスイーツだけじゃなくてもいいよねという話にもなり、主なアイデアはスイーツですけど、例えば流行りのグルメとか、いろいろとお店同士でコラボできたらいいね、みたいな話し合いをしていました。
D 発表直前にここまでのプロジェクトを、別の男性B先生に説明してみると「いいね」と言われました。A先生と同じターゲット層にいるB先生にも、このインサイトは当てはまりそうか確認してみました。「N=1」という、デザイン思考的なある1人の困りごとから進めてみたけど、それって他の人にも当てはまるかの確認です。
Q.プロジェクト時間は、どのように確保していましたか。
B 探究の時間にしか活動していませんでした。スライド作りは別ですが…。
A ただ、A先生を引き留めていました。「A先生、A先生!」って、A先生連れてきて、行かせないようにして(笑)とりあえず、授業が終わるまで思い思いつく限りめちゃくちゃいっぱい質問して、独占して、あでまとめる感じで進めていました。
D でも、質問する前にチームで5分ぐらいは時間をとって、先週までの確認と今週質問する方向性みたいなのは決めていたと思います。
田中 プロジェクト全体のスケジュールは自分たちで立てていたの?
A スケジュールは立てていません。「ここは絶対に聞きたい」っていう項目以外は、特に決めすぎずに進めていたと思います。
B 授業1回目か2回目の時に、CURIOスタッフさんが話していた「ユーザーの話をたくさん聞いてください」と「2人以上の話を混ぜないでください。一人一人の話に添って進めてください」の言葉の印象が4人の中で強すぎて…。だから「とりあえず、1人の話をたくさん聞けばいいんだ」ってなりました。たくさん聞いたら何かが出てくる、それしか考えてなかったです。
A 授業のはじめとか途中のフィードバックでめっちゃ言われたよね。「絶対に2人の話を混せないでください」「自分たちの想像で理想的なユーザーは作っちゃダメです」みたいに。
C ターゲットにしたのは私たちじゃわからない世代だし、そもそも私たちはお酒は飲めないから、その感覚も含めて全部聞かなきゃていう感じで進めました。相手に話を聞かないと、自分たちの勝手なイメージになっちゃうから。
探究学習について
Q.今回のプロジェクトを通して、楽しかったことを教えてください。
A 先生といっぱい話せたことが楽しかったです。授業がある火曜日って、全部で7限なんですよ。(※探究授業は火曜6限目) だから、火曜日の午後って本当にきついんだけど、探究があるのは救いでした。なんか新しいことを無理に覚えなくてもよかったから、気が楽でした。
C 探究授業は、覚えるよりも考えるっていう感じです。他の授業だと、情報がどんどん入ってきて、処理できずに困ってしまうことがあります。あと、探究授業ではじっくりと1つのテーマについて深堀りできました。中間発表はあったけど「ここまでがテスト範囲だから勉強するように」と変に迫られない感じです。思いついた時にぱって進められる感じがありました。
B 今回のプロジェクトは、最初は全然見通しが立たなすぎて、誰になにを聞けばいいかわかりませんでしたが、ユーザーをA先生に決めてからは、インタビューを重ねることで「これはこうなんだ!」というのがだんだん見えてきました。プロジェクトを進めながら、インサイントにたどり着くまでの道がわかったことが楽しかったです。 「これを質問したら、きっとこうなるだろう」「こういうことも聞けたらいいな」みたいなことを、授業が終わってからも考えられました。
D チームの友達とずっと話しながら考えながら進められるたことです。机にずっと向き合って作業するわけではないし、自分たちのペースで進められました。
Q.今回のプロジェクトを通して、難しかったことを教えてください。
B インタビューすることは楽しかった反面、難しいとも思いました。あまりに抽象的すぎる質問だと、相手も困ってしまうので、一旦チームで大まかな質問項目や流れを決めてから、インタビュー相手を呼ぼうという話はしましたが、そこからが大変でした。先に進まないというか、そもそもの質問内容をどうしようかと。その点は、試行錯誤しながら頑張ったのかなと思います。
D とりあえず、インタビュー相手である先生と雑談を繰り返しました。雑談をしてるうちにいろいろとポイントが出てくることがあったけど、大半はどうでもよいことばかりだった気がします。
Q.今後の探究学習に、どのように取り組んでいきたいですか。
D 発表に関することは、もうすこしうまくやりたいです。時間配分や発表内容について、練習ではできてたけど、本番ではうまくいかなかった部分があったので。あと、発表スライド作りがチームに任せきりになってしまっていたから、次回のプロジェクではもっと協力します。
A ユーザーのインサイトを発見することを大切にしたいです。見つけるまでは結構時間がかかりますが、それでももっと深堀りしたら、もっとすごいインサイトが見つかるんじゃないかと思うので。プロジェクトを進めるからには、その人のインサイトをしっかり叶えたいです。
B それは思う。インサイトが一番大事。
C 心の中でとても大切に思ってること、意外と気になっていることや実は困っていることなんかを、誰かに急に聞かれても分からないし話せないじゃないですか。だから、今回みたいに何度も何度も話していくにうちに、そういう相手の心の大切な部分を少しだけでも見つけられたなぁ、と思います。
B よいインサイトを見つけ出すには時間が大切なんだなって思いました。そして、インサイトがないとアイデアは出てこないので。みんなが納得できるインサイトされあれば、アイデアなんていっぱい出てくるから、とりあえずインサイトを見つけることに集中したいです。
田中 ありがとうございました。
全員 ありがとうございました!
コメント
二子玉川ライズ・ショッピングセンター より
今回お声がけをいただき「二子玉川ライズ・ショッピングセンターの平日の入館客数をあげる」というテーマで田園調布学園中等部の生徒の皆さまより課題解決のご提案いただきました。まず、このような素敵な機会をいただき、誠にありがとうございました。
最終発表を受け、様々な視点からテーマに対して真剣に向き合って発表いただいたことが伝わり、生徒の皆さまの「探究授業」に対する熱意を感じました。発表内容・資料についても非常にレベルが高く、発表を聞く中でも驚かされる場面が多々ありました。
生徒の皆さまにはお客さまのニーズを丁寧に拾っていただき、本取り組みを通して、私たちとしましても普段施設で働く中で気づけなかった視点や需要を発見でき、改めてお客さまの声を聞き、真摯に向き合っていくことの大切さを実感いたしました。今回ご提案いただいた内容を社内で再度確認し、施設運営の中で取り入れられることがないか今後検討したいと考えております。
田園調布学園 探究担当の先生より
全体的な感想として、すごくほっとしました。授業成果としては、私たちが想定していた以上に、生徒たちはデザイン思考を用いた探究学習を進めることができたと感じています。ビジネス的な視点からも、大人が聞いて価値を感じられるプロジェクトが提案できていたと思います。最終発表では、二子玉川ライズ・ショッピングセンターの方々に喜んでいただけた印象をもっており、生徒のプロジェクトを通して何かお伝えできたのであれば、とても嬉しいです。
一方、最終発表でプレゼンテーションをしたチームのプロジェクトを含め、一般的なアイデアが多かったようにも思えたので、探究学習に対する生徒全体のスキル向上の必要性も感じました。生徒一人一人が探究プロジェクトを通してどれだけインサイトを深掘りしつつ、プロトタイプを通した価値検証を繰り返すことができるかが大切かと思います。
学校としては、探究学習に向かう生徒の意欲を引き出せるような環境を引き続き構築していきたいと思います。
授業後の展開
代表チームのプロジェクトは、2023年秋に二子玉川ライズ・ショッピングセンターで実施することになりました。
生徒プロジェクトのパンフレット
二子玉川ライズ・ショッピングセンターさんへのインタビュー記事
(インタビュー・文章:田中・大門)
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