見出し画像

ハッピーエンドに続け『2024.1.4』

昼夜逆転の生活への予兆が、身体に気付かれてしまった。私の健康に異常が出始めたのは、年が開けてからだ。

正月の番組は、夜中であればあるほど面白い。
芸人が集まったバラエティ番組や、昨年のドラマの一挙放送、それを実家のリビングで一人で観る時間。心の余裕も含めて正月の醍醐味だと感じる。

だが人間は朝起きるものだ。家族の身支度も朝から始まり、昼にはいつでも外出の用意が整っている。実家にいる私がそれに従うのは、至極当然のことだ。

だから私は、朝6時に寝て、朝10時に起きる生活を4日続けた。

いつでもどこでも睡魔が近くに寄り添い、私を癒そうとする。これが愛犬や恋人だったらどんなに幸せなことかと、現実から目を背けてみたりする。無駄だった。

私は目的地に向かう道中、車の中で眠った。


目を覚ますと、景色が変わっていた。年始のせいか、車が中々動かず渋滞に巻き込まれているようだった。

暇を潰すことを特技としている私は、何かを待つことに嫌悪感を持たない。渋滞も、行列も、上司のうだうだとした朝礼だって、苛立つことは一切無かった。今日の私も、特に困らなかった。

窓の外を見ると、自分の住む地域よりも雪が少なく、アスファルトがそこら中に存在していた。

実家はドアを開けると踝が埋まる程の雪が積もっている。1月上旬でこの積雪量は、当たり前の光景だった。窓の外は、私が住む世界とは似ても似つかないものだった。

ぼんやり外を眺めているうちに、昨日途中まで書いた小説を思い出す。スマホのメモを見るでもなく、あらすじを振り返るでもなく、ただその中の登場人物のことを思い浮かべた。


最初は純粋な恋愛ものを書きたかった。

夜中にベッドに寝転がり、隣にある窓の隙間から風が吹いた時に、隣に誰かいる風景を思い浮かべた。

たった一瞬のその時間を、恋だと思えたら素敵なんじゃないかと思ったのだ。
私は起き上がり、パソコンを立ち上げる時間が勿体無いと、スマホのメモに殴り書きをした。

すばやく動く右手の人差し指、キーボードのタップ音、体勢を変える度に音が鳴るパイプベッドの音が、私の執筆意欲をさらに掻き立てた。

あれ。
思ってたのと違うな。

私は、思い付いたその時の感情で文章を完成させたいと思い、中が所々空いていたとしても結末まで1回で書ききってしまう。そこから修正を利かせていくのだ。

結末まで書いた時、私は心の中で駄々を捏ねた。「えー、こんなんじゃないよー」と自分で自分に呆れた。

やっぱり私は、ハッピーエンドが書けない。誰もが共感出来るファンタジーが書けない。思い付く展開は、どれも明るい気持ちにはならない。


今日車の中で目覚めた時、内容をまた思い付いた。また、明るい話ではない。私は本当に根暗なのだと教えこまれているようだ。

だが、それが私の持ち味なのかもしれないと気付いた。

私はハッピーエンドが苦手だし、かといってバッドエンドも苦手だし、心がモヤモヤするような作品しか書けない。だが、これはなんて作品なんだ、どういうことだったんだと、私の作品を読んでくれた人の心には残るのではないかと思った。

私の作品のジャンルが万人受けしないのであれば、万人ではなく一人に通じたら良い。そう思って書くことが、私が小説を書く意味なのではないか。

車内で思い付くたくさんの物語。思い付いてはメモを書き、手を止め、またスマホを開くの繰り返しを過ごした。

私には、私の作品を読んでくれるたった一人の人が待ってくれているのかもしれないから。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,258件

#眠れない夜に

69,357件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?