note_箱根駅伝

続く物語としての箱根駅伝 |14秒の先に

「14秒」

2018年(昨年)の箱根駅伝におけるこの数字の意味。
箱根駅伝好きな人なら、すぐ気付くことでしょう。
箱根を目指す大学によって大きな意味を持つ「シード権」のボーダーをわけた14秒です。

激しいシード権争いが繰り広げられた復路。7区を終えた時点で11位、シード権の当落線上ギリギリで、落の側の位置を走っていたのが順天堂大学でした。8区、9区… 少しずつ10位との差が縮まってアンカーに襷が渡った時点では、前との差が約1分。

なんともヒリヒリするタイム差の中、鶴見中継所から10区に飛び出して行ったのが、4年生で初の箱根を走ることになった花澤選手でした。(後で少し補足していますが)並々ならぬ思いがあったであろうこの花澤選手が、「もしかしたら…」という期待を最後の最後までもたせてくれるような、諦めない走りを見せてくれたのです。個人的には、2018年(第94回)箱根駅伝のMVPは花澤選手しかありえません。同じような視点で書かれたこの記事もぜひ読んでみてください。

しかし、結果はわずか14秒及ばずの11位。

大手町のゴールに飛び込む最後の直線。10位でシード権を獲得した中央学院大学の選手の後ろに見える花澤選手の姿に涙した駅伝ファンは、きっと私だけじゃないはず。

悔しそうな顔でゴールした花澤選手は、その後ゴール地点で待っていたチームメイトの元へ。そして、1区を走ったキャプテンであり盟友の栃木選手に襷を渡します。「(栃木)俺、11区で待ってるよ、タスキ。」、「(花澤)たぶん相当キツい顔してくるぞ。」という二人のやり取りが、「続報!箱根駅伝 G+ 特別編」にありました。その約束を果たしたのでしょう。(ここでもまた涙腺が…)

高校時代にトップクラスの走力を持ちながら、強直性脊椎炎という難病によって大学時代は思うように走れない日々が続いた花澤選手。そんな彼に「箱根を走る姿」を見せることで、走ることを諦めさせなかった栃木選手。彼らが2年生の時の「箱根駅伝・絆の物語」でそんな二人のエピソードが紹介されて、強烈に記憶に残っていました。

そんな二人のお話についても、とてもとても書きたいのですが、脱線がすぎるのでまた別の機会に…

わずか14秒で逃したシード権。
私の勝手な想像ですが、この時、箱根路を走った順天堂大学の選手はみな、「自分がその14秒を縮められていたら…」と思ったでしょう。もちろん、花の2区を走ったエース、塩尻選手も。

塩尻和也(しおじり かずや)
順天堂大学(現4年)のエース。
リオオリンピック(3000m障害)日本代表、日本選手権(3000m障害)4連覇、2018年関東インカレ(10000m, 5000m)日本人トップ…
挙げきれないほどの戦歴を誇る、日本学生陸上界トップの選手です。
卒業後は富士通への就職が決まっており、実業団での活躍も期待されています。

留学生にもライバル候補として挙げられ、日本人選手には「塩尻は留学生」とネタにされるくらい強力なランナーである彼ですが、前回の箱根は2区10位。大きな大会で外す姿をほとんど見たことない彼の走りの中で、珍しく苦しそうな姿でした。

今年、最上級生として箱根に臨む塩尻選手の中で、前回大会の14秒がどのくらいの重みとなっているのか、計り知ることはできませんが、箱根駅伝予選会での圧倒的な走り、そして事前番組や各メディアでのインタビューで「後輩たちにシード権を残す」という意味の発言が多かったように感じたことから、「今年は必ず結果を残す」という並々ならぬ思いがそこにあるように、私には思えたのです。

そうして迎えた2019年1月2日。4年目の箱根2区。
19位で襷を受けた彼は、猛烈な追い上げをみせます。各校のエースが集まる花の2区にもかかわらず、10人を抜いて順位を9位まで上げたのでした。

この走りの結果、長く破られることがなかった2区の日本人記録(順大のOBでもある三代直樹さんが持つ1時間6分45秒)を1秒上回る「1時間6分45秒」という駅伝ファンが待ち望んでいた「レジェンド記録の更新」もなされました。

( ↓ レジェンド視点での記事も面白いです。)

箱根駅伝終了後のインタビューでも、「後輩にシード権を残すことができてよかった」とコメントしている塩尻選手の、ホッとしたような、やり遂げたような、そんな表情がとても印象的でした。

3000m障害では無敵の強さを誇る塩尻選手。今年開催されるドーハ世界陸上への期待も高い選手なので、彼のこれからのストーリーにぜひ注目してみてください! 日本人だけではなく留学生ですら脅威を感じるような強さを持つ一方で、「彼を悪く言う人に会ったことがない。」と言われるほど(誰の言葉か忘れてしまったのですが… 順天堂の長門監督だったような、違うかな…)の穏やかな人柄。というか、昨年の全日本大学駅伝では、解説だったOBの栃木選手に「ゆるキャラ」と言われてしまうようなほのぼのキャラらしい、塩尻選手。ファンの間では、「お塩さま」という愛称で呼ばれ、オタク系ランナー(褒め言葉)としても名を馳せるそのギャップも含めて、この4月からの新社会人ランナーの中でナンバーワンの注目選手です!

箱根で終わりではない選手の物語の楽しさ、箱根駅伝から続いていく物語の面白さも伝えていきたいと思って始めた「続く物語としての箱根駅伝」シリーズ。箱根駅伝だけではなく、もっと大きなコンテンツとしての楽しみ方に広げていけたら…という思いで、続けていきたいと思います。






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