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わたしと海とイギリスと

#わたしと海

「イギリス」と、「海」
2つの単語を並べると、どこかアンバランスに見える。

イギリスという国を想像して、海が頭に浮かぶ人はきっと多くない。
ユニオンジャック、ロンドンの街並み、曇り空。そんなものが連想される人が多いのではないだろうか。
イギリスは、日本と同じ島国なのに、どこか海の印象は薄い。

けれど、私にとって、この2つの組み合わせは、とてもノスタルジックだ。

留学先の海沿いの街

イーストボーンの街並み

大学生だった頃、私は休学をして、語学留学をした。
イギリスの南部にある「イーストボーン」という街で1年間過ごした。


この街に留学しようと決めたのは、天気の良さそうで費用が安かったから。正直、ネットで「イーストボーン」と検索しても、あまり情報は出てこなかった。
「海沿いの街」「お年寄りが住みたい街」「イギリスの中では天気が良い地域」そんなぐらいだ。聞いたことも、行ったことのない街に1年間飛び込む。あの頃の私は、とにかく勇気があった。



4月のある日、私はこの街で生活を始めた。そしてすぐに、この街が大好きになった。
そこは、私がイメージするイギリスとはかけ離れた、綺麗な海沿いの街だった。

豊かな日差しとイギリスの海

老夫婦たちが海沿いの遊歩道を散歩する

駅から10分歩くだけで、こんな光景にぶつかる。
海沿いの遊歩道は、街の南側にずっと横たわっていて、晴れの日になると、多くの人が楽しそうにこの道を歩いている。


ネットで拾ったわずかな情報は、とても正確だった。イーストボーンは、一般的なイギリスのイメージとは違い、よく晴れる街だった。夏になると、多くの人が外で楽しそうに日光浴をしていた。日本よりも少し穏やかで、海を綺麗に輝かせる日差しが、私は大好きだった。
空と海の色が綺麗なときは、よく写真を撮った。


そして、これもネットの情報通り、この街にはお年寄りの方が多かった。
天気も良く、海に近い。かつロンドンからもそこまで離れていないので(電車で1時間半程度)、リタイア後の定住先として人気らしい。

日本で言えば、熱海や伊豆あたりの環境に近いのかもしれない。海沿いには少しだけ古めかしいホテルが立ち並んでいる。避暑地的な意味合いもあるのだろう。夏場は、観光客(これもご年配の方が多め)をよく見かけた。

そして遊歩道では、海を眺めながらゆっくり散歩する老夫婦をよく見かけたりもした。二人で仲良く、歩いているその姿は愛らしい。その姿を横目で見ながら、素敵な人生だなぁと思った。

ビーチと私たち

親友たちとビーチにて

授業を受けた後は、必ず友達とビーチまで行った。
映画館も、ゲーセンも、何もない街。だけれども、私たちにはビーチがあった。


友人たちとビーチに寝そべって、カタコトの英語でたくさん話をした。今日受けた授業のこと、将来のこと、自分の国のこと。パナマから来た同い年の彼女と、トルコから来た一個下の彼女。大好きな親友の2人と、よく3人で一緒にビーチに行った。


イギリスという国で、地球上で全く違う地域に住む3人が、たまたま知り合い、毎日のように同じ海を見ていたことは、今考えると奇跡に近い。

ごつごつした石の上に寝そべって、たわいもない自分たちだけがわかる会話を繰り広げていると、あっという間に時間が過ぎる。夕日が地平線に落ちるまで、私たちは海の音に負けないぐらい、大声で笑っていた。

海沿いの遊歩道

どこまでも続く海と遊歩道


つらい時も、海に出向いた。
英語がうまく喋れなくて、自分の気持ちを表現できないもどかしさに疲れた時。ホストファミリーとトラブルがあった時。恋人とすれ違った時。周りとのレベルの違いに、打ちのめされた時。


何か考えたい時、そして何も考えたくない時に、海沿いの遊歩道はちょうどよかった。


波の音だけが、耳に入ってくる。ザァ、ザァと、穏やかな海の心音。潮風が心地よく吹いて、私の髪を揺らす。
夕暮れ時、だんだんと人がまばらになっていく、そんな遊歩道が、特にお気に入りだった。


その中に自分の身を置いて、ただただ歩く。歩けど歩けど、海は常に横たわっている。その姿を見るたびに、私は、自分の感情の整理を海が見守ってくれているような気がした


波音に耳を凝らして、ただ歩くことだけに集中していくと、自然と自分の中の悲しさ、辛さがスーッとおさまっていく。感情を整理する場所は、いつもこの海のそばにある道だった。

わたしと海とイギリスと

冬の海と沈みゆく太陽

私にとって、イギリス留学とは、常に海とあった。
楽しい思い出も、辛い思い出も、あのビーチに、遊歩道に、隣に横たわる大きな海に、全て詰まっている。


数年以上前の記憶なのに、今でも海を眺めるとあのイギリスの思い出が蘇ってくる。ビーチでの穏やかな波音、遮るものがない地平線、どこまでも続く遊歩道。


いつかまた、あの海とイギリスに。そんな小さな夢を抱いている。

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