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旧東ドイツの生活について聞いてみた

今までの投稿は、主に西欧の人たちから聞いた「いい感じの話」をメインに書いてきたけど、今回からはちょくちょく「ヨーロッパで聞くナマナマしい話」も書いていくことにする(*ドイツに住んでいます)。

ヨーロッパは必ずしも順風満帆な国・地域ばかりではない。経済的に、政治的に、歴史的に、様々な問題を抱えてきた国も多い。でもそういう陰影のある国で聞く話は、とりわけ興味深い。そしてそれを知ることで、逆に初めて西欧の「いい感じの話」の意味がようやく理解できたりする。これまでそうやって、いい国から困難を抱える国まで様々な国の人たちから話を聞くことで、ヨーロッパの人々が言わんとすることが徐々に立体的に見えてくるようになった。

正直、この投稿を僕より遥かに若い人たちが読んだときに、こういった「必ずしも耳障りの良いことばかりではない話」についてどう感じるのか、とんと想像がつかないけれど。。。

まあ自分の書きたいことを書くのが目的で始めたnote。悩まずに、まずは第一弾の話、いってみようー。

【旧東ドイツで育った人から2016年春に聞いた話】

ドイツで生活していると、東ドイツや旧ソ連をはじめとする社会主義国家/共産主義国家の出身の人にたくさん出会う。

当時の話を積極的にする人はあまり多くない。それでもソ連が崩壊する30年ちょっと前までは、膨大な人数の人々の人生に多大な影響を与えてきた社会的な制度だった。彼らにとっては、決して歴史の教科書で読むような遠い世界の話ではなく、現実にそこで育って、それによって自分の人生自体が大きく影響を受けてきた。

そんな社会主義国家の一つ、旧東ドイツで生まれ育ったエンジニアの人が、当時の生活について教えてくれた。

彼は、話をしてくれた時には既に定年間近の年齢になっていた。旧東ドイツが西ドイツに統合されたのが30年ほど前。彼は旧東ドイツの時代から既に社会人になって働いていた。

ドイツ人
「僕は生まれてからずっと東ドイツで育った。ベルリンの壁が崩壊した1989年11月9日の夜も、まさにベルリンのバーで飲んでたんだ。その夜に、国境が解放されたらしいって走ってきた人がいた。最初は誰も信じなかった。でもね、実際に行ってみたら、事実だったんだ。

それで翌日から、東ベルリンの人たちがこぞって西ベルリンを見に行ったよ。その数は数十万人。西ベルリンの人たちが、ようこそって言いながらビールや料理を無料で振る舞ってくれた。お祭り騒ぎだった」


「それまで、東ドイツの生活はどんなだったんですか?」

ドイツ人
「やっぱり労働者の革命で生まれた社会制度だから、工場の労働者が優遇されていたね。僕は博士号を持っているエンジニアだけど、高卒の労働者と給料は同じ。そして僕が支払う税金の税率は20%で、彼らはたった5%。だから、手取りは僕の方が少ないんだ。労働者は優遇されていたんだよ。他にも、労働者の子どもは全ての職業に就く可能性が保証されているけど、高級エンジニアの子どもは弁護士とか医者とか高度な能力が求められる職業には就くことができないんだ」


「?? 不可解な制度ですね。優秀な人の子どもの就職が制限されてしまうって、なんでわざわざそんな制度を導入したんでしょうか。国民の社会階層が固定化しないように、数世代かけて社会階層を循環させようっていう考え方ですか?」

ドイツ人
「いや、微妙に違うんだ。この制度は、あくまで労働者/貧困者に多くのチャンスを与えよう、というだけの発想。その結果として社会が良くなるかどうか、は全然考えられていなかった。実際、うまくいくわけがなかった。そりゃあ確率的に言えば、優秀な人の子どもは優秀な人が多いからね。優秀な人たちが高度な能力が必要な職業に就くことができなければ、社会がおかしくなっちゃうよ」


「やっぱり、労働者の革命なんですねー」

ドイツ人
「そうだね、社会主義国家はあくまでも、労働者のための国家だよ」


「で、個人的には社会主義国家と自由主義国家、どっちの社会がいいと思います?」

ドイツ人
「まあ、それぞれの社会に良し悪しがあるけれど・・・でも人っていうのは普通、自由主義国家に移行して、そこでうまくやれていれば、自由主義国家の方がいいと考える。一方で、移行した社会で生活が苦しくなった人は、昔の社会主義国家の方が良い社会だと思う。そんなもんだよ。で、僕自身は今の自由主義社会で幸せに暮らしている。だから結論。僕にとっては、絶対に自由主義社会の方がいい」

因みに、東側社会ではハイテク製品が高価で、カラーテレビが給料4ヵ月分したらしい。

ドイツ人
「それでも買ったよ。ワイフを喜ばせたかったから。そういう人間の気持ちは西も東も同じだよね」だって。

そもそも社会主義って


「そもそもの話に立ち返って、社会主義や共産主義の目的ってどう考えています?平等な社会の実現?」

ドイツ人
「僕の理解している目的は、『あらゆる人が自分の持って生まれた能力を最大限に引き出して、イキイキした人生を送ることができるような社会の制度を作ること』。当時の現実は、労働者階級が搾取されてそういう人生を送ることができないから、労働者の地位を向上させよう、という動きさ」


「それを実現するために、巨大な官僚機構を作って社会をコントロールする仕組みを作ったんですよね。でも、それがうまく機能しなかった。一番の問題は、情報がオープンにされなかった点にあるように感じるんですが」

ドイツ人
「うーん、実際に生活していた人間として感じる根本的な問題はね、頑張っても頑張らなくても、得るものが同じだった点だと言いたいなあ。残念ながら、多くの人は、何をやっても報酬が同じなら、結局は何もやらなくなるよ。そうなると、生産性もあがらないし進歩もない。その結果、優遇されている労働者でさえ、西側諸国の誰よりも不便な生活に陥った」


「でも、生産性や効率性が人生の目的ではないし・・・」

ドイツ人
「例えばね、僕が18歳になって免許を取ってすぐに、車を買いにディーラーへ行った。でも車の生産効率が悪くて供給が少なかったから、大量の人がウェイティングリストに載っていて、納車は14年後だって言われた。32歳だよ、車を買えるのが。そんな社会、やっぱり多くの人は楽しいとは思わないと思うよ」

ちなみにこの車が旧東ドイツの代表的な車のトラバント。愛称はトラビ。この車を買うのに14年待ち。

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ドイツ人
「でもね、悪い面を説明したけど、一方で住居や食べ物とか生活の基本として必要なものは、とんでもなく安くて、安心して生活することができた。失業の心配もないし。それにみんな競争でギラギラしていないから、職場も友人関係も、穏やかでフレンドリーでオープンで、本当に良い雰囲気だったよ。社会主義の思想から逸脱しない限りは、人生で大切なことを深く議論する雰囲気もあったし。」


「普段はどんな話を?」

ドイツ人
「そうだねえ、家族のことや、趣味、スポーツ、庭の手入れの話しとか。至って普通の話だよ。西側と違って、金儲けの話は出てこないけどね」


「でも、オープンで深い議論って、西側の人たちが持つ東側の人たちのイメージと真逆ですけど・・・。西側の人曰く、自分たちは自由とかオープンとかの価値観を大切にしているけど、東側の人たちは違う価値観で生きている得体のしれない存在だ、って思っている人は多いです」

ドイツ人
「西側からのイメージはそうだよね。でも実態は全然そんなことないんだ。それはマスメディアが作り上げた虚像だよ」

ということで、社会主義国家の内部で社会人生活を送った人の話が聞けて面白かった。

既にソ連が崩壊して30年。これから社会主義国家を現実として体験した人はどんどん減っていくから、貴重なお話だった。

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by 世界の人に聞いてみた

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