クリスマス文化③、こんなに多様なサンタさんがいたとは
ドイツの豊かなクリスマス文化の全体概要について整理するシリーズの第3回目(*ドイツに住んでいます)。
前回までの「①食べ物や飲み物」「②クリスマスツリーや飾り」に引き続いて、今回はサンタさんについて。
この投稿は前回同様に、「ひぐち @ デンマークで仕事中🇩🇰」さんが立ち上げられたアドベントカレンダー企画の「Let's シェア! 外国のクリスマス🎄」に乗っからせていただきます!
なお、前回投稿の「ドイツのクリスマス文化②、ツリーや飾り」は、note編集部さんが「今日の注目記事」や「インテリア 記事まとめ」等に選んでくださいました。これも、ひぐちさんの企画に参加して注目いただいたお陰だと思います、ありがとうございました。
ドイツで買ったサンタさんコレクション
さて、冒頭の写真は僕のサンタさんコレクション。気に入った人形をちょくちょく買っていったら、それなりの数になった。
これらは全てドイツで買ったものだけど、実は必ずしも全てがドイツのサンタクロースではない。そこで今回は、ドイツだけではなく、もう少し広げて欧米のサンタさんについて書いてみる。
※ただし欧米全体を網羅して説明できるほどの知識量はないので、全体の一部だけ。。。
(1)ドイツのサンタクロース(=聖ニコラウス)
ドイツで伝統的なサンタとされているのは、いくつかパターンがある。例えばこのグループの中で言えば、少し左側にいる小さなおじさんとか、その手前の十字架マークの帽子をかぶったチョコレートのパッケージのおじさん。また、子どもを連れている大きなおじさんも、典型的とまでは言えないものの、そう遠くはないイメージ。
正確には彼らは「聖ニコラウス」と呼ばれている。「サンタクロース」と言っても通じるけど、特に聖職者っぽいパターンの場合は、あくまでも聖ニコラウスがしっくりくるみたい。実際この聖ニコラウスは、むかし実在したキリスト教の聖人のことで、貧しい人に施しを与えて助けたり、子どもの守護聖人とされていたりする存在。
↓聖ニコラウスはチョコレートのパッケージになりがち。この風貌が一番イメージに近いかな。。。
ドイツではこの聖ニコラウスが伝統的なサンタクロースのことだけど、現代では後述のアメリカンな雰囲気のサンタクロースもドイツに逆輸入されていて、そちらも一般的なものとして浸透している。
ただドイツ人たちはそういったアメリカンな雰囲気のサンタについては「あ、これはアメリカ風のサンタクロースだけどね」って一言付け加えて「自分たちの聖ニコラウスとはちょっと違う」というスタンスを明確にするのを忘れない。
伝統的なドイツのサンタ、つまり聖ニコラウスは、12月5日または6日の夜にお菓子などを持ってきてくれる。地域によって要領が違うものの、例えば子供たちが12月5日の夜に自分の靴を玄関の外に置いておく。すると夜中に密かに聖ニコラウスがやってきて、靴の中にお菓子などを入れてくれる、といった要領。聖ニコラウスは、そのお仕事でもって、その年はお役御免。
で、12月24日にプレゼントを持ってきてくれるのは、クリスト・キントと呼ばれる幼子(おさなご)のイエスキリスト。↓この真ん中の赤ん坊のこと。
なんでこうなっているのか?
古くから「聖ニコラウスを祝う日」が12月6日に設定されていて、その日の前後に聖ニコラウスが子どもにプレゼントを持ってきてくれることになっている。これはずっと古くから伝わる風習で、今も残っている。
しかしその後、ドイツでルターによる宗教改革が起こった時に、彼らプロテスタントはキリスト教の本来の精神に戻したい(聖書に基づく本来の信仰に立ち返りたい)という趣旨に則って、聖人崇拝/偶像崇拝を廃止しようとした。
その一環として、この「聖ニコラウスがプレゼントを配る風習」も廃止しようと考えた。けれどルターたちは、プレゼントを楽しみにしている子どもたちのことを考えると、廃止には踏み切れず。。。そこで代わりに、キリスト教本来の教えに近づけようとして、「生まれたばかりの幼子のイエス・キリスト(=クリスト・キント)が12月24日にプレゼントを持ってきてくれる」ということにした。で、結局いまでは聖ニコラウスの風習も、クリスト・キントの風習も、両方ともが残っている、という歴史的な経緯らしい。
但し。生まれたばかりの赤ちゃんのイエス・キリストがプレゼントを配り歩くという構図は、さすがに少々不自然。そこで、女の子の天使がそれを補佐するという設定にして、その女の子の天使をここでも「クリスト・キント」と呼んでみたり、、、といった感じで、ブランド戦略が迷走してしまった結果、「クリスト・キント」のイメージがぼやけてしまった。その影響か、現代でもクリスト・キントはドイツの子どもたちの心を掴むような存在になっているとは言い難い。
(2)ロシアやウクライナなどヨーロッパ東部のサンタ
これらの地域でサンタは「ジェド・マロース」(吹雪のおじいさん)と呼ばれていて、青い服を着ていることが比較的多い。しばしば「スネグーラチカ」と呼ばれる雪娘を連れている。ロシアやウクライナなどヨーロッパ東部の地域は、冬の寒さが非常に厳しい地域。まさに「吹雪のおじいさん」というイメージに合っている。
なお、これら「ジェド・マロース」が普及している地域は、宗教でいえばキリスト教正教が普及している地域とも重なるから、「サンタクロースの正教バージョン」というイメージでも捉えられている様子。
因みにロシアでは、1月7日にクリスマスを祝う。なぜならロシア正教の暦では、12月25日に相当するのが1月7日だから。
ジェド・マロースについて、詳しくは後ほど説明を。
(3)アメリカのサンタ
100年近く前、米コカ・コーラ社がサンタクロースに自社のブランドカラーである真っ赤な色の服を着せて大々的に広告宣伝した。その結果、アメリカでサンタと言えば、真っ赤な色と、その時に描かれたサンタの風貌でイメージが定着したと言われる。
だからドイツ人からすると、この風貌のサンタは典型的なアメリカのサンタクロース、更に言えば、コカ・コーラ社が作り出した彼らの『製品』、または同社の『広告宣伝担当の従業員』と思っている。
さて、ここでいつものように現地の人たちに聞いた話を。2つあって、まずはドイツ人に聞いた話から。
ドイツ人女性から聞いた話
ドイツ人女性
「娘は14才なんだけど、未だにニコラウスが大好き。毎年12月5日の夜中にニコラウスがやって来るから、プレゼントを入れてもらうために、窓際に彼女が普段使っている大きな靴と、うちの猫用の小さな靴を並べて置いておくの。
そしてその隣には、彼女手作りのクッキーとミルクを置いておく。クッキーはニコラウスに食べてもらうためで、ミルクはトナカイに飲んでもらうため。
で、12月6日の朝は私が娘よりも早く起きて、ニコラウスやトナカイが来たかどうかを『事前にチェック』するの。フフフ。
そしてその後で娘が起きてくると、真っ先に窓際に走って行って、ニコラウスからのプレゼントであるお菓子やみかんが靴に入っているのを確認する。そして併せて、ちゃんとお皿からクッキーが少し減っていて、そしてコップからもミルクが飲まれて少し減っているのを、満足げに眺めているの。
でもね、、、娘は、12月24日にやってくるクリスト・キントに対しては興味がなくて、扱いが冷たい。娘は一応、クッキーを焼いて置いておくのよ。けど、明らかに気持ちはこもっていない。娘に言わせると『クリスト・キントって、いったいなんなのさ』という感じで、萌えないみたい。
そんなニコラウス大好きな娘も、もう14才。いつまでもニコラウスに来てもらうわけにもいかないから、最近は私から『あの真っ赤なアメリカ風のニコラウス(サンタクロース)はね、コカ・コーラのプロモーション用のゆるキャラなのよ』って言って話しかけるんだけどね。。。でも娘はそれに対して、『ニコラウスに関して突っ込んだ話はしたくない。私はニコラウスが大好きで、毎年こうやってトナカイと一緒に夜中に来てくれる。それでいいじゃない』って言って、それ以上話に乗ってこないのよね」
このようにクッキーやミルクを置いておくのは、この家庭だけではなくて、ドイツでは広く一般的に行われているみたい。双方向のコミュニケーションを大事にするドイツ人らしい風習だと思う。
次は、ロシア人から聞いた話。
ロシア人から聞いた話
この銀色のサンタは、園芸屋さんに並んでいたものを買ってきた。いかつい顔をしていて、なんとなく風変わりで気に入ったので、アメリカンなサンタと並べて職場の机に置いておいた。
そしたら、ある同僚がこの銀色の人形を見た瞬間に「これって、ロシア版サンタクロースのジェド・マロースでは?」と貴重なコメント。
そこで、職場にいるロシア人の同僚のところに走っていって、人形を突きつけた。
すると、そのロシア人同僚は、
「おぉー、これは(ロシアや東欧で普及している)キリスト教正教のサンタクロースに相当する人やね」
とのこと。
僕が「他のサンタクロースとどこが違うの?」と聞いたところ。。。
*ちなみにこのロシア人同僚はめっちゃ巻き舌で喋る人。彼の英語はまるで関西弁に聞こえるので、関西弁に翻訳させてもらいます。
ロシア人
「ほら、この銀色のサンタは、分厚くて足元まで隠れる長いローブを着てるやろ?ロシアや東欧はまじで寒いから、サンタも完全防寒やねん。これくらいの長さがないと、寒くてやってられへんからなー。でも逆に、暖かいスペインとか行ってみ。南欧のサンタは、ひざ上20cmのミニスカートとか穿いとるらしいで。知らんけど」
「あとな、ヒゲが長~くて、へそまで延びとるやろ。寒いから、ヒゲをめっちゃ伸ばすねん。マフラー代わりにするんちゃうか。知らんけど」
「長い杖を持っとるやろ。深い雪の中、自分自身で雪をかき分けてかき分けて歩いていくから、これくらいの杖が必要やねん」
「でもな、西欧のサンタをみてみ。あいつなんか、例の鹿みたいな動物にそりを曳かせて、自分はそりの上でふんぞり返って、ほんでワインとか飲んどるやろ。頬っぺたを赤くして。そりゃあ、ホッホッとか言いながらにこやかな顔になって、福々しく太ってしまうのも道理やで。このジェド・マロースさんとは、苦労が全然違うでぇ」
「ということで、ホラ、このジェド・マロースの顔をみてみ。めっちゃ険しい顔しとるやろ!?」
ということで、いかつい顔をしているのには理由があったということが分かった。
サンタクロース界も奥が深いなぁ。
ではまた次回、別のテーマでドイツのクリスマス文化について書かせてもらいます。
by 世界の人に聞いてみた
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