小豆を炊く時
これまで何度、小豆を煮ただろう。
と思いながら、ふつふついう鍋の中を眺めています。
毎回少しずつ違う、あんこの奥深さ。
なぜか夜中に炊くと、うまく行く気がしてからは
家族が寝静まった頃にやり出すように。
眠れない夜などにはぴったりなのです。
こうして小豆を炊きながら、色々な思い出が次から次へと心中に去来するのもまた愉し。
小豆の仕事が入り、
とても稀少な備中(びっちゅう)の白小豆を探していたときのことを思い出しました。
岡山の、小豆の知恵袋のような方に出会い
幕末からの備中の歴史、長州との関わりなど、
興味深いお話をたっぷりと聞かせて頂いたのです。
備中松山藩の陽明学者、山田方谷(ほうこく)先生が小豆をもとに藩の財政難を見事に立て直し、
新政府への出仕を断って、生涯後進の育成に努められたことも。
彼は、高杉晋作らにも大きな影響を与えた、優れた方だったそうです。
白いんげん豆で代用することの多い白あんですが、
作ってみると白小豆の上品な風味に驚きます。
その中でも備中のものは、香りもなにもかも違うそうです。
長くお話しているうちに、まるで旧知の方のように励まして頂いたり・・・
情の厚い、日本の食文化振興にに熱い情熱をお持ちの、すてきなおじさまでした。
その方によれば、小豆はストレスや鬱に対抗する成分も多いので、
環境が変わり、気を遣うことも増える結婚の祝いにお赤飯を食べるのは、
そうした栄養の面からも理にかなっているとのことでした。
また、関西では腹切りにつながることから
お赤飯を皮の破れる小豆でなくささげで作る、ということも聞きました。
こしあんや白あんは、つぶあんと違って
ゆでて→つぶして→こして→水にさらして→沈殿させて上澄みを捨てて×5回→沈殿部分を砂糖と一緒に練り上げて・・というふうに、かなり手間がかかります。
その点つぶあんは皮を除く手間もないので、ずいぶん楽ですが
丹波の大納言小豆のように、皮が薄くて口に入れても気にならない、
いい豆を使うかどうかで仕上がりがずいぶん違います。
渋抜きと呼ばれるゆでこぼしも、1回より2回。
火加減も、ただ火にかけっぱなしではうまくできません。
豆料理も魚料理も、習うより慣れろの部分が多く、
作った回数や扱った豆の種類の分、何気ないけれど大事なこつが
つぎつぎ見えて来て、何ともいえず面白いです。
結婚して間がない頃に
初めて作ったおはぎのあんをふっくらと炊けなかったことと、その舌ざわりを
今も時折思い出します。
そのときの固かった?おはぎを食べてくれた高校生が、
料理の道に進まれ研鑽を重ねられて、
身体に優しい料理のお店を開かれています。
時の流れは、本当に早いです…。
せっかく頭の中があんこでいっぱいなので、
つぶあんのレシピと
試作した変わりメニューを、いくつか紹介させてもらおうと思います。
*つぶあんのレシピ
材料
小豆200g、きび砂糖(白砂糖でも可)120~200g、塩少々
作り方
1、小豆はざるに入れてよく洗う。厚手の鍋に小豆と2カップの水を入れて蓋をし、強火で煮る。
2、沸騰したら1カップの水を差して、沸騰させて2~3分煮たら火からおろしてざるにあげ、
水洗いしてまた鍋に戻し、3カップの水とともに火にかけて中火で15分ほど煮る。水分が減ってきたら差し水を。
3、豆が一回り大きくなり、しわがなくなったらざるにあげ、また水洗いする。
4、鍋に茹でた小豆と3カップの水を入れて、沸騰したら今度は火を弱める。豆が見えないように差し水をし、豆が踊らないように1時間半ほど煮て、指でつぶれるくらいに炊き上げる。
つぶさないようにやさしく汁気を切る。
煮汁は血糖値の上昇を抑えたり、ダイエットに効果が高かったり、さまざまな栄養が溶け出して身体により吸収されやすくなっているので、捨てずに頂きたいものです。癌予防になる説もあるそうですよ。
5、耐熱ボウルに入れてペーパーをかぶせ、2分から少しずつ様子を見ながら水分を飛ばす。
(ここまで多めに作っておいて、小分けにして冷凍し、使う分は翌日練り上げたり、料理に使ったりすると便利です。)
6、鍋に入れてきび糖を加えて火にかけ、中火で練っていく。途中で塩を加え、さらに練る。
冷めると固くなるので、使う固さより少しやわらかいくらいで火からおろし、バットに広げて冷ます。
煮上がりはとろとろとしていたのですが、
冷めるとこんなにしまります。
自分で炊くと好みの甘さにでき、おいしさも違います。
大変と感じなければ、ぜひお試しください。
出来上がったつぶあんの楽しいアレンジをふたつ紹介します。
面倒に感じられた方は、市販のあんでどうぞ。
*あんこのごく細春巻き
春巻きの皮を対角線で切って細くくるくると巻きます。
ゆずの皮の細切りといちごの角切り入りを2種類つくりました。
甘栗やみかんなどでも。季節のものを合わせて楽しんでみて下さい。
冷めてもおいしいです。
*あんフォンデュ
これから美味しくなる、
あんを温かく楽しむデザートです。
あんこを少しの湯または牛乳でゆるめてウオーマーであたためます。
なければレンジでかまいません。
フルーツ以外は、からめるだけでなく、芯まであたためてから食べると、良い味わいです。
添えたものは・・・左からいちご、二色白玉、もみじ麩、麩のフレンチトースト。
本当はこんがり焼いたよもぎ麩やあわ麩がおいしいのですが、
冷凍庫にもみじ麩しかなかったので、切って焼いてみました。
小さいけれど、焼いた生麩はおいしいです。
かりかりとして、このあつあつのあんにはよく合います。
その他に、よもぎ粉と白玉粉で作ったよもぎ白玉とふつうの白玉、
すき焼き用の麩を戻して絞り、甘い卵液にひたして焼いた、麩のフレンチトースト風、
それにいちごです。
他にも、あんが合いそうなものなら何でも。
細切りのトーストもいいですね。
カリカリしたものは全般にいい相性だと思います。
この他にも、
あんは乳製品との相性もよいので、生クリームとあわせてアイスクリームにも。
秋の栗やさつまいもに、アイスや抹茶クリームを盛り合わせた和パフェも。
あんこがあればあれこれと気軽に作れます。
夜更けに小豆を炊き
つらつらとあんこにまつわる思索に耽る時間。
多分、わたしにとっては大切な時なのでしょう。
人生を楽しむには、こつがいるそうです。
はなっから人生はつらいものだと考えている、ウディ・アレンの言葉でした。
彼ほどの栄光や蹉跌がない人生だとしても、
やっぱり、その人らしい幸せになるこつが見つかっていれば、
より良い日々が積み重なりそうな気が、
なんとなくするのです。
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