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【11章】経営理論は名経営者の発言の正しさを裏付けている

※「世界標準の経営理論」で学んだことのメモ一覧はこちら

今の世界において経営をしていく上で最も注目されているのはイノベーションの創出や企業の変化・進化である。世界の経営学では、それらの多くは認知心理学をもとにしたまくろ心理学の理論でひも解かれるのだ。
本章では、認知心理学の出発点といえる「企業行動論」を解説するようになっている。企業行動理論や、知の探索・知の深化の理論を総称して、カーネギー学派と呼ぶ。
カーネギー学派の根底には、経済学への批判がある。批判内容の例としてゲーム理論を考えた時、意思決定者が事前に全てを把握しており、瞬時に最適な判断ができることが暗黙の前提としてある。しかし、現実世界の厳しいビジネスの場面でそのように判断出来るかというと実現的ではないのでは、という疑問が湧く。そこがカーネギー学派の出発点である。


サイモンの「限定された合理性」

認知心理学に基づくカーネギー学派を特徴づける最重要の前提、それは「限定された合理性」である。限定された合理性とは「人は合理的に意思決定をするが、しかしその認知力・情報処理力には限界がある」というものだ。この点を突き詰めることで、カーネギー学派は経済学とは全く異なる視点を提供する。
具体的に1947年にCMUのハーバート・サイモン教授が主張したい意思決定の特性には以下のことが書かれている。
合理性(rationality):
人・組織は合理的であるがゆえに、与えられた条件下で自身に最適な選択肢を求める。
認知の限界性(Limited congnition):
人・組織の認知には限界があり、本当は100のオプションがあっても、せいぜい10くらいしか認識出来ず、意思決定者は限られた認知の中で選択して行動に移す。
サティスファイシング(satisficing):
「現時点で認知できるオプションの中から、とりあえず満足できるものを選んでおくこと」。経済学では「自社利益を最大化する」唯一の選択肢を選べたが、認知心理学では認知の限界があるので、最善とは限らない。
プロセスの重視:
意思決定者は「今見えているオプション→とりあえず選択→行動
→新たに見えてきたオプション→より満足な選択→新たな行動」を繰り返し、認知の限界を広げていく。

事例:ホンダ幹部は、米市場での勝ち方を事前に知っていたか

【概要】
1960年代にホンダは米国のオートバイ市場に参入し、50㏄の小型バイクで爆発的な売り上げを記録した。それまで同市場を占有していた英国メーカーを駆逐し、1966年には米国市場全体の63%のシェアを獲得するまでに至った。
【成功要因の分析】
ホンダの大成功をコンサルティングファームBCGが分析し、「大量生産によるコスト・リーダーシップ戦略を追求し、中産階級への低価格オートバイの提供というセグメントにおいてポジションを確立した」と緻密に練られた計画があったと分析した。
一方で、別にリチャード大学のリチャード・パスカルがホンダ幹部にインタビューした時「実際には当時米国でとりあえず何かやってみようという以外に、特に戦略はありませんでした」という回答をしていた。実はホンダは当初大型バイクを売り込もうとしていたがうまく行かず、現地の社員がホンダの小型バイクを営業用に使用していたのを見て発売してみたところヒットしたのだ。
これはまさに、認知心理学の考えに沿ったプロセスを辿った結果の成果と言えるだろう。

マーチ=サイモンの「サーチ」と「アスピレーション」

1958年サイモン教授はカーネギーメロン大学ジェームズ・マーチ教授との共著を発表する。内容は前著を土台として、幾つか重要な概念を加え、組織意思決定の循環プロセスを提示したものだった。(図参照)
内容は単純化して説明すると、左半分は人・組織の満足度が低い状態の時、業績改善のために色んな探索を行い、その結果業績は改善満足度が上がることを示している。ただ、このサイクル続くのかというと探索することは大変なので一定の満足が得られる辞めてしまういわゆる「成功体験による慢心」が起こる。
そこで、右半分の考え方としてアスピレーション(意欲的な目標)が出てくる。短期の目標達成を超えた挑戦的な目標が掲げられることで人はまた熱心に探索を行うようになるのだ。
この考え方は、日本の経営者に考えに通じるものがあり、例えばセブン&アイ。ホールディングスの鈴木敏文氏は以前にインタビューでこのような話をされていた。
成功体験が失敗のもとになる。成功はその時に上手くいっているということであり、時代が分かれば同じ手法はダメだということ。
また、アスピレーションについては2014年に新浪剛史氏がサントリーホールディングスの社長に就任した時に以下のようなコメントしていたのが、研究内容と重なる。
佐治氏の持っている夢がでかい。その期待に応えられるか、大きな夢を実現できるか緊張している。ただ目線があげないと企業は出来ない。
様々な経験をしてきた名経営者によって語られる言葉が、理論によっても裏付けられているだから、日頃から胸に刻むこんでおくことが大事であろう。

アッパーエシュロン論:社長の器で会社の器が決まる

最後に1つ興味深い研究としてペンシルバニア大学のドナルド・ハンブリック教授ら発表しているものを紹介しておく。内容は至ってシンプルで「企業の行動・パフォーマンスは、その企業の経営者(あるいは経営チームメンバー)の個性・特性・経験などに大きく影響を受ける」というものである。人の認知には限界がある中で、経営メンバーの目線の高さ・視野の広さ・思考の深さによって行動・パフォーマンスが影響が受けるのは真っ当な考え方であり、であればこそ、それぞれの認知の違いを活用することで良いパフォーマンスを発揮できることが重要になってくる。

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