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『アマツツミ』感想

 どうもです。

 今回は、2016年7月29日にPurple softwareより発売された『アマツツミ』の感想になります。

OP「こころに響く恋ほたる」
作詞:石川泰、作編曲:宝野聡史、歌:橋本みゆき

 「こころに響く恋ほたる」やっぱ名曲ですね…鍵盤の旋律が綺麗すぎる。エロゲに触れる前からこの曲を聴いてた位には好きなので、遂に作品内でちゃんと聴けて嬉しかったです。
 プレイのキッカケですが、この楽曲に惹かれていたのもあるし、本作のライターである御影先生が同じく手掛けた『クナド国記』をプレイして他のもやってみたいなと思ったので。ファンからするとプレイ順が逆だとは思いますが、だからこそ違う感想も持てそうだったので楽しみでした。

 では感想に移りますが、受け取ったメッセージと、ヒロイン毎の感想を書いていきます。こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。


1.受け取ったメッセージ

 本作は、どこにでもあって、その人にしかない"想いの強さ"に優しく目を向けた作品だったと思います。"想いの強さ"が持つ可能性を信じた、以下2点のメッセージを受け取りました。

①人は善と悪を常に持ち合わせているから、この両側面からの見方をして、可能な限り善意をもって捉えて欲しい
②世界の"あるがまま"を受け容れて、自分なりに対話をして、解釈をして、生きて欲しい

①人は善と悪を常に持ち合わせているから、この両側面からの見方をして、可能な限り善意をもって捉えて欲しい

 こちらは至極真っ当な話かもしれません。善のみ、悪のみの人間など有り得なくて、常に人は善と悪の両面を持ち合わせている。それを念頭に置くと、一方の見方だけに偏ってはいけないんですよね、絶対に。本作に於いて、そんな善と悪を象徴していたのは、"水無月ほたる"と云う存在でした。

 悪の象徴みたいな扱いだったオリジナルほたる。彼女の悪を肯定する必要はないけれど、その"想いの強さ"自体は素晴らしいのではないか、尊敬できる部分に目を向けるべきではないのかと思います。実際、オリジナルほたるはこの強さから力を発現させました。彼女が持つ、苦痛や恐怖、殺意まで、これらは彼女だけのモノであり、ある意味で生気だった。可能性がそこにはあったはずです。ただ"死にたくない"だけだったと。誠や他のほたる達が共感を寄せたのもこの想いに対してでしたね。お互い生きたいと云う想いは強く一緒。生きる上で、想いは大切で間違い無く活力になるはずです。

 善悪をお互いに、否定するだけではダメ。悪に悪をぶつけるのもダメ。認めて、向き合ってあげる。誠やほたるの様に。この過程を経てゆく先は、ほたるの言葉にある通りです。彼女は以下の様にずっと願っていました。

ほたるは物事が可能な限り、善意をもって捉えられることを願っていた
失敗や後悔を基準にするよりも、成功や希望を基準にするべきだと。

 失敗や後悔(=悪)を基準にするのではなく、成功や希望(=善)を基準に物事を考えられたらステキだよねと、ほたるは願っていました。これは人の生死にも恐らく言える事で、ほたるがよく口にしていた"死にたくない"はどちらかと云えば後ろ向き(悪)なので、善基準で考えるのであれば、"生きたい"になるはずだと思います。彼女の想いが"生きたい"になる様には、"死にたくない"を否定せず、こちらが善意をもって接してあげればよい。誠はほたるに、とびっきりの善意として"好き"をぶつけてあげましたね。徐々に心を開いていくほたるの姿は本当に印象的でした。

「人を好きになること以上に大事なことなんて、なんにもないよ」

ほたる

 "善"だって簡単に"悪"になりうるし、その逆も然り。"善"と"悪"が曖昧に揺れ動くものである以上、自身が"善"であり続けることは、確かに難しいです。だからこそ、時には誰かの想いの力も借りて、貸してあげて、可能な限り善意をもって捉えてゆく。人間の善意を本作は信じていたと思います。

 因みに、"死にたくない"と"生きたい"はどちらも根本にあるのは、生への意志であるはず。それでも、その違いは大きいのだと思います。できるのであれば善を基準にした考え方に変えていく必要がある。"死にたくない"って、どこか死と向き合えていない感じがあり、生に対して積極的ではないですよね。もっと生に対して積極的になるべきだと。"世界を憎んだ"ほたると、"世界を愛した"ほたる。どちらも世界で生きていますが、積極的なのはどちらでしょうかね。この辺りを②の話に繋げていきます。


②世界の"あるがまま"を受け容れて、自分なりに対話をして、解釈をして、生きて欲しい

 少し先述しましたが、ほたると誠は、"生きたい"想いが以ていた、お互いに外の世界を知らない者同士でした。お互い自分にはないモノにどんどん恋焦がれていき、ほたるは人から神へ、誠は神から人へと、距離を縮めていった様にも感じます。

「誠さんが外の世界に染まっていけば、きっと、悪い感情も芽生えると思うの」
「ほたるだって普通に生活してて、この人は嫌な人だなーとか、死んじゃえばいいのに、って思うことはあるもん」
「それが普通の人なんだよ」

ほたる

 誠は、生きていく中でみるみると感情豊かになっていきました。喜怒哀楽が生まれ、善意や悪意も芽生えていくのは、世界には色んな人がいるからだとも言えます。神の如く存在である誠が人と交流を重ね、人に近づいたからこそ、感情豊かになったからこそ、逆に言霊を躊躇したり、言霊でどうにも出来なくなった。でも、それが普通の人なんだよと。

「今日はできないことを素直に認めて、諦めないで、未来の自分のために今の自分ががんばれば、きっと願いは叶う」

 ほたる

 できない=悪と思わず、ただその事実を、訪れた未来を受け容れるだけでいいと。例えば決断を誤ったと思う時があるのも当然で、感情で正常な判断が出来なくなる人間なら尚更。でも、そんな物事を善悪で判断する必要はなく、"あるがまま"を受け容れて、そこで悩んだり諦めたりしないで欲しいと願っていたと思います。それに決断をした事は人として素晴らしい行いで、その一つ一つの決断は全て自分の為になるからと。

 それを象徴していたのは、1週間を何度も過ごしていくほたる達でした。全てのほたる達がそれぞれ色々なモノを残していきましたね。意志や記憶、考えも。この時、これらを想い出にするのはいいけど、後悔(=悪)にはしないでと願っていました。善意をもって捉える様にと。確かに苦痛は後々の幸福のスパイスにもなると思いますから。その時の生きていた自分を無駄にせず、明日はまた明日違う自分になっていると思って生きている節が私にもあります。そうやって変わっていけると、信じればいいんだと思います。

 想い出の中には、もちろん大切な人との想い出もあるでしょう。本作では、大切な人との別れ、贖罪的なモノが各√で描かれたと思います。
 こころは母の死と、響子は親友の死と、愛は姉の死と、そしてほたるは自分の死と、向き合いました。各√紆余曲折あり、それぞれ贖罪の形も様々でしたが、それだけ死と向き合うと云う事は、”生きる"と向き合う事に他ならないはずです。①でも先述しましたね、生に対しての積極性を。死を完全には受け容れられないのが普通で、その想いを抱えながら生きていく。共通から各√、最初から最後まで、本作のベースにあった想いかなと思います。

「"世界は好きで溢れていて"」
「"せめて目の前にあるものは、なにひとつ、欠けて欲しくないんだ"」
(中略)
「"でも、死にたくない気持ちよりも、生きたい気持ちのほうがずっと強いんだ"」
「"僕は生きたい"」
「"自分のしたいことをして、大事なものを守って、そうでなければ、生きてはいられない"」

「わたしが言うとアレだけど、普通に一生を過ごしても全然足りないくらい、世界には楽しいことと新しいことが溢れているよ」
「だから、誠さんは、それを見つけてね」
「いっぱい、いっぱい、幸せになってね」

ほたる

 世界は"好き"や"幸せ"で溢れているからと。目の前に広がる"あるがまま"の世界と自分なりに、対話をして、解釈をして、やりたいことをやって、思い切り生きて欲しい。本作に出てきた殆どの登場人物がそう願っていたと思いますし、それだけ人の想いが持つ可能性を本作は信じていたと思います。その人が生きる世界や人生を変えていけるはずだと。 

 2つに分けて書いてみましたが、改めてまとめると、"想いの強さ"の可能性に限界はないから、持ち様や捉え方によって、人の生はいくらでも色鮮やかになるよと。この辺りにメッセージとしては落ち着きました。

 受け取ったメッセージは以上になります。何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら、嬉しいです。最後に①と②両方を併せ持っている気がする、今作屈指の名言を於いて〆たいと思います。

「『なにを選んでも後悔することはあるけれど、後悔を背負って強く生きよう』と」
「この言い回しの原因は、人間は"失敗"をなによりも怖がるから」
「失敗しないためになら、自分では選択せず、挑戦そのものを絶対にしない」
「成功を捨てることで失敗を相殺するという考え方」
「だから、後悔してもいいからやろう、という耳触りのよい言葉がよく使われるのです」
「でも、これは前向きでありながら、強調されているのは負の面ですよね」
「怖いことがあっても勇気をもって進め、と」
(中略)
「でも、もっと単純に、成功したいという人の想いの強さにだけ目を向けるべきではないでしょうか」
「自分で選んだ道を歩き、成功できたら嬉しいことだよ、って――」
「それを最初に夢に見て、最後まで信じて」
「進め」
「ただ、進みなさい」
「あるがままに。幸せのために」

水無月ほたる


2.織部 こころ(CV. 秋野 花)

©Purple software

 生きていく上で居場所がある有難み、家族愛が描かれた事が一つ。分岐してからは誠とこころが、お互いに"ありのまま"でいる事を最優先にした温かいエンディングでした。"THE・これしかない"よねって結末。良くも悪くも兄妹と云う形に甘えて我慢していた想いもあるけれど、それだけじゃない好きな想いがちゃんと芽生えていて。葛藤を重ねた末に掴んだその想いは本物であり、彼女が素直で純粋無垢な性格だからこそ、想いの強さがより光ったなと思います。ほたるも言っていましたが、善意ともって捉える姿勢が自然と出来ている娘であり、悪意という感情を未だ持たない彼女は本作に於いて特別な存在として映りました。この純粋さは最高の魅力である一方で、危険でもあったから、凄く庇護欲を掻き立てられる娘だったと思います。実は良く周りを見てて洞察力も高いのは末っ子キャラらしいなと。あとはもう秋野花ボイスの甘さはやっぱヤバいですね…万病に効きそう。


3.朝比奈 響子(CV. 夕季 鈴)

©Purple software

 見方や意識を変える事で自分の世界が変わっていく話だったと思います。幸薄い系キャラで生きる事すら半分望んだモノではないと、どちらかと云えばずっと意識が内向きだった娘。そんな娘がとことん罪悪感と向き合い、少しずつ感謝へと想いを変換していき、鈴香と別れを告げる事ができたシーンは素直に感動しましたね。贖罪ですらなく、恩返しになるかもわからないけれど、ただ感謝だけを伝えたいと。響子は誰にも分け隔てなく接する博愛の心の持ち主だったので、自分の事が後回しになるのも解るなぁと。でもその優しさから誠の言霊に対しても恐怖を示さなかったし、彼と出逢い幸せな人生を歩むと決断してからは、状況もみるみる変わっていきましたね。不幸から身を護る事ができたり、幽霊が見えてしまう力に対しても感謝できる様になったりしたのは、今迄のどんな縁や繋がりでも大切にしてきた彼女だからこそかもしれないです。


4.恋塚 愛(CV. 山田 ゆな)

©Purple software

 想いの枷となっていた呪いから解放される物語だったなと思います。外の世界に来てから自然と視野が広がって夢中になれるモノも見つかったのに、その想いに素直になれない。姉である希を始め里の人達に負い目を感じ、自分らしく生きる資格なんて無い…因果応報だから仕方ない…みたいな。真面目で責任感が強い娘だったので、この気持ちも痛いほど伝わってきました。きっと彼女ひとりでは心の解決は不可能だったので、誠が背中を押してくれて、希と再会させてくれて良かったなと思います。3人の固い繋がりも尊かったですし。希の言葉を受けて、愛が自分自身を受け容れる事ができたのは、心の底ではやっぱり諦めていなかったからだよなと。一度里に帰る決断をしたのも、真面目な彼女らしくて納得感しかなかったのでカッコよかったです。ラスト"恋塚愛"として帰ってきたのが良すぎましたね…ガチで。お姉さんビジュなのに、食欲や好奇心旺盛で、夢中になると周りが見えない感じとか子供っぽい一面が多いギャップも素直に可愛かったです。


5.水無月 ほたる(CV. 小倉 結衣)

©Purple software

 誠とほたる、外の世界との対話を渇望した者同士が波長を合わせていく物語であり、嘗ての自分と向き合う事が強く描かれた√でした。鈴香も登場するし、響子√での"生まれてしまったモノへの『尊厳』があってほしい"と云う言葉は1週間でいなくなる自分の存在への想いもきっと込められていたんだなと後々ハッとさせられました。
 ほたるのみ、終盤~エンディング分岐があった訳ですが、ノーマルの方で「一緒に死んでやる」と言われてオリジナルの瞳に一瞬だけ光が灯ってからの絶望シーンが凄い哀しくて。彼女が真に救われる√は無いものかと…。だから、望んでいた救いが見れたTRUEが私は好きです。ほたるは、出逢った時から腹の底が見えない感じが気になって、物語を牽引してくれる存在でもありました。彼女の経緯が明かされて、昔は本当に善い娘で誰よりも周りの幸せを願っていたんだろうなと。そんな人が不幸になってしまったら、人が変わったみたいになるのも仕方ないと思える節がありましたね。人の悪意にも敏感だったはずで、寂しがり屋で臆病で。ぬいぐるみが傍にあったのも寂しさの象徴。それでも殺意が生気になる程にまで弱気にならず生にしがみ続けた処が堪らなく好きですね。「命のある限り、生き続けるのよ」と言い放ったHシーンも強く印象に残っています。彼女のお蔭で絶望はやはり希望になり得る一つの姿かもしれないなと思いました。


6.イラスト・音楽・システム

 原画は、"月杜尋"先生、"克"先生、共に可愛いキャラデザでした。月杜尋先生は目元かな柔らかい印象が良くて、克先生は構図とアングルがやっぱ良いですね。この頃と比べると『クナド国記』がどれだけ攻めてたかも再認識できましたw
 SD原画は、"鳥取砂丘"先生。カワイイコメディ要素ある場面で効果的に差し込まれていたし、お蔭でエンタメ作品らしさも出たと思います。

 音楽は、YUKI NAKANOさん、アブカワオサムさん。全体的に穏やかで和むメロディが多くて、ちゃんと日常感が強めだったなと。だからこそ、感動シーンでの神秘的な雰囲気やほたる√の緊張感も際立っていたと思います。特に気に入っているのは、「明日への期待」「伝えたくて伝わらなくて」「伝える心」辺りのピアノソング。ボーカルは別作家ですが、「こころに響く恋ほたる」と、挿入歌「コトダマ紬ぐ未来」がツートップ。

 システム面も特に問題なし。てか、この頃からPurple software作品は優秀すぎて感心しましたね。グラフィックデザインやUIも綺麗だし、凄いです。


7.さいごに

 普通に良作でした。欠点とか不満点も特に無いですね、強いて挙げるのであれば、泣く程の感動には至らなかった事くらい。誠に感情移入し切れていない事が一つの原因な気がしますが、そこは彼が神の如く存在なので当然と云えば当然だよなと。彼の成長もまた一つの感動材料だったので、この点はトレードオフな感じがしますね。
 シナリオ構成も途中下車式でありながら、"生きなさい"で一本芯が通っているし、各√もおざなりになってない。メッセージ性も強くて、先述の通り沢山受け取ることができて良かったです。勝手な憶測で大変恐縮ですが、世界に対して"人として生きる"とは…みたいなのが御影先生の核なのかなと。『アマツツミ』は気持ち的な部分、『クナド国記』はそれを表現する言葉的な部分がフォーカスされていたと思います。まだ2作しかプレイしていないので怒られそうですが、少なくともこの2作からはそう感じました。『アオイトリ』は絶対プレイするので待って貰えればなと思います。

 とゆーことで、感想は以上になります。改めて制作に関わった全ての方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。

 ではまた!


©Purple software

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