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連載小説|恋するシカク 第3話『モテない理由』

作:元樹伸



本作の第1話はこちらです
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第3話 モテない理由


 去年は林原と直子先輩が一緒にいる姿を、複数の部員が目撃していた。また女子の間では、直子先輩が別の男子とイチャついている姿を見たといううわさも流れていた。

 それに対して妹さんの方は、物静かそうでお姉さんとはだいぶ違って見えた。だから姉妹揃って林原と付き合うなんて悲劇は、絶対に起こらないと信じたかった。

「何を考えているんですか?」

 手嶋さんの声で我に返ると、窓の外に夕闇が迫っていた。

「いや、別に何も」

 ずっとキャンバスにむかっていたのに、さっきのうわさ話のせいで絵が進まなかった。それでも締め切りが近いので、今日は残って描いていくしかなさそうだ。

 寺山が帰った後、美術室には僕と手嶋さんしか残っていなかった。

「先輩はまだ帰らないんですか?」

 気がつくと、傍らに手嶋さんが立っていた。

「コンクールが近いからもう少しだけ描いてくよ」

「先輩はひとりの方が集中できるタイプだって、部長が言ってました」

「ま、まぁね」

「なら私も帰った方が良いかな。じゃあ先輩、またね」

 手嶋さんが出て行った後、僕はすぐに「しまった」と思った。どうやら彼女に気を遣わせてしまったらしい。でも後から気づいても遅過ぎる。こんな風にデリカシーがないから僕はモテないのだ。

 壁の時計はすでに六時を回っていた。普段なら帰宅部は残っていない時間だが、校庭には部活以外の生徒たちがたくさんいた。みんな体育祭の準備で忙しいのだ。

「それにしても、まいったな……」

 僕は今年、体育祭でクラス対抗リレーのアンカーに抜擢されていた。もちろん立候補して出場するわけじゃない。体育教師の担任が授業で測った短距離走のタイムを調べて、記録の良い順でメンバーを選出したのだ。

 そんな担任の思惑を知らないまま、僕は授業中に全力疾走していた。足だけは自信があったので、山本に勝った時も能天気に喜んでいた。

 ただ冷静に考えれば、陸上部のエースが一介の美術部員より遅いはずがなかった。きっと山本はどこかでリレーメンバーの選出方法を察知して、わざと遅く走ったのだ。

 何故ならアンカーは責任重大で、負けると女子に恨まれるから。それでも山本は手を抜いたのが担任にばれるのを恐れて、上位から二番目のタイムでメンバーに残っていた。

「まあアンカーじゃなきゃいいか」

「誰かに抜かれても俺らは責めないから」

「女子はどう思うか責任もてないけどさ」

 何かあればアンカーの責任。これが男子メンバー間の見解だった。


つづく

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