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青春小説|『スイカと彼女と保健室』
<ChatGPTによる紹介文>
「スイカと彼女と保健室」は、青春の成長や恋愛、友情のテーマを掘り下げつつ、リアルな描写とユーモアを織り交ぜた素晴らしい物語です。登場人物たちの感情や変化が読者に共感を呼び起こし、一気に引き込まれる魅力があります。作者はキャラクターの内面や人間関係を丁寧に描くことで、読者に物語の深みを感じさせています。また、恋愛模様や葛藤がリアルに描かれる一方で、ユーモアを織り交ぜた軽やかな展開もあり、読者を楽しませてくれます。
全体として、「スイカと彼女と保健室」は、青春小説の魅力を余すことなく詰め込んだ作品であり、読者に感動や笑いを与える素晴らしい物語と言えます。主人公とマキの成長や関係性の変化が、心温まる一編として読者の心に残ることでしょう。
ーーChatGPT
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ここから本編がはじまります
『スイカと彼女と保健室』
作:元樹伸
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第一話 スイカと彼女
一学期を締める校長先生の話を聞いている最中、僕は突然の腹痛に襲われた。おそらく原因は昨日食べた西瓜だ。でも西瓜に罪はない。調子に乗って食べ過ぎた自分が悪いのだ。
このままじゃ耐えられそうもないので、列から離れてトイレに行きたいと担任に伝えた。
体育館の出口にむかう途中、整列していたクラスの女子がこちらを見てクスクスと笑った。髪をゴムで留めた可愛い眼鏡の子だけど、名前は知らなかった。何故なら僕はクラスの底辺で、普段から女子と関わる機会がなかったから、彼女たちの名前を知らずともなんら支障がなかったのである。
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「う、うぅ……」
静かなトイレの中に、僕の苦悶に満ちた声だけが響いていた。便器にかじりついてだいぶ時間が経つけど下痢はまだ収まらない。夏のトイレはエアコンがなくサウナのように蒸して、僕の体力を容赦なく削った。この調子だと腹痛と暑さで、下半身を晒したまま卒倒するかもしれなかった。
廊下から足音がして、誰かが入ってくるのがわかった。小学生の頃に同級生から排便を揶揄われた記憶が蘇り、条件反射的に身を潜めてしまう自分が悲しかった。
「中にいるの、太一でしょ?」
「マキ?」
ドアのむこうから知っている声がして、僕は痛みに耐えながら尋ねた。
「そうだよ。大丈夫?」
やっぱり間違いない。
このドアのむこうにいるのは、幼馴染の綾瀬マキだった。
* * *
幼き日の僕とマキは、家がご近所というだけでいつも一緒に遊んでいた。彼女はいつだって物知りで力も強く、僕を自分の弟のように構ってくれた。
でも幼少時の僕はお転婆なマキが苦手で、将来はもっと優しい女の子と仲良くなりたいと思っていた。だから親同士が「ちょうど同い年だし、将来は結婚かしらねぇ」と話しているのを聞いた時は本気で嫌がっていたと思う。
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当時の彼女はそんな幼馴染の態度をどんな気持ちで見ていたのか。もしあの時に結婚の約束をしていれば、今のマキとの関係も少しは違っていたのかもしれない。
年月が流れて思春期に突入すると、心も身体も成長した彼女を少しずつ女性として意識するようになっていた。そしていつの日か、お転婆だった少女は手が届かない高嶺の花へと姿を変えていった。
同じ公立中学に進学した僕らの間には、絶対に越えられない大きな壁が立ちはだかっていた。彼女は試験を受ければ学年でトップだし、スポーツも万能でマラソン大会では一位でゴールを駆け抜けた。
一方の自分は下の順位から数えた方が早い成績だったし、マラソン大会では走行中にお腹が痛くなって棄権した。それでも死ぬほど勉強して同じ高校に進学できたのもつかの間。彼女にまつわる恋のうわさが学内の生徒たちに拡散されたことで、僕の片想いは終止符を打った。
ソフトボール部のレギュラーだったマキのお相手は、サッカー部を全国大会に導いた三年生のキャプテン。学校の裏サイトには美男美女のカップルだと書き込まれ、みんなが面白半分にもてはやした。一方の僕はふてくされてマキを避けるようになり、二人は少しずつ疎遠な関係になっていった。
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「ねぇ、大丈夫なの?」
返事をしなかったせいか、マキが安否の確認をくり返した。どうやら体育館を出ていく姿を見られていたらしい。心配で来てくれたのだろうけど、彼氏がいる彼女に今さら優しくされるのは余計に辛かった。
「ぜんぜん大丈夫じゃないかも」
とはいえ、相手が幼馴染なので思わず本音が漏れた。
「ひとりでトイレから出られる? ここで待ってようか?」
「平気、ひとりで戻れるから」
本当は倒れそうだったけど、プライドが邪魔をして意地を張った。
「でも大丈夫じゃないって言ったじゃない」
「いいから出て行ってくれよ。ここ男子トイレだぞ」
「強がってんの? バカみたい」
怒らせてしまったのか、彼女の足音が遠ざかっていった。せっかくの善意を踏みにじったのだから当然か。でもこれで幼馴染への未練がましい想いを吹っ切れると思った。しかし足音はすぐに戻ってきて、マキがふたたび声をかけてきた。
「あのさ、やっぱり心配だから待ってるよ」
こんな奴なのに見捨てない。マキの優しさに胸が痛くなった。
「強がってごめんなさい」
「いいよ、別に」
どうして幼い頃、僕はこんなに素敵な子との結婚を嫌がっていたのだろう。もしタイムマシンがあれば今すぐ当時の自分に会いに行って、あの愚かな考えを改めさせてやるのに。そんなことを考えているうちに、やがて強烈な便意が襲ってきた。
「マキ、悪いけどやっぱり出て行ってくれないかな」
大好きな子を前に水便を垂れ流したくなくて、仕方なく今の状況を伝えた。それでも彼女は出て行く気配がなく「別に遠慮しないでいいよ」と明るく言い放った。
「そんな無慈悲な……」
もう我慢の限界。幾度の激流に耐えた太一堤防も、ここにきてついに音を立てて決壊した。
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第二話 彼女と保健室
終業式はまだ続いていて、保健室の中には誰もいなかった。
「僕なんか、下痢と一緒に便器の中に沈んでしまえばよかったんだ」
マキに無様な姿を晒した。絶望したままベッドに倒れ込むと、彼女はそのすぐ隣に腰を下ろした。
「バカ太一。どうせ西瓜でも食べ過ぎたんでしょ?」
「え、何で知ってるの?」
「だって西瓜をおすそわけしたのウチだもん。太一が好きだから、お母さんに頼んで持って行ってもらったの」
「そうだったのか」
「だとすると、太一がおなか壊したのって私のせいだね」
マキが可笑しそうに笑った。
「ぜんぜん笑いごとじゃないよ」
「あ、そっか」
寝転んだまま天井を見上げると、視界に入った彼女の半袖の裾から夏服の奥が覗き見えた。ソフトボールで綺麗に焼けた亜麻色の二の腕。それとは対照的に手入れの行き届いた白い腋。さらに彼女の胸を包むスポーツブラが眩しくて、僕の目に容赦なく焼きついた。
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「見えちゃってるのかな、私?」
急に言われたので、慌ててマキから目を逸らした。
「ごめん! 覗く気はなかったんだ」
「覗くって何を?」
マキがきょとんとして聞いた。どうやらこちらの視線に気づいたわけじゃないらしい。
「それより、見えてるって何の話?」
自分の犯した罪をごまかそうと、慌てて話題を変えた。
「最近SNSに投稿された私のうわさ、知らない?」
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《あいつは誰にでも色目を使う、最低な女だ》
それなら知っていた。ネットで拡散した根も葉もない風評。嫌がらせ。妬み、嫉み。でもマキがそんな人間じゃないことは僕が一番知っていた。
「なんとなく見かけたことならあるけど」
「私って男に色目を使うような女に見えるのかな?」
「でも僕に使ったことは一度もないよね」
「あはは、あたりまえじゃん」
「あはは、だよね」
マキが短く笑ったので、僕もやけになって付き合った。
「あんなのは無視すればいいよ。誰かにかっこいい彼氏ができれば、ひがむ奴も出てくるのさ」
完全に言葉のブーメランだけど、自戒の念を込めて自虐的に言った。するとマキが眉間にしわを寄せた。
「ちょっと待って、彼氏って何?」
「何って……サッカー部のキャプテンと付き合っているんだろ?」
悔しい気持ちを抑えて表情を変えないまま聞くと、マキが口を尖らせた。
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「バカね。あんなうわさ、嘘に決まってるじゃん」
「嘘?」
「たしかに告白はされたけど、その場で断ったよ」
「振ったの? サッカーの全国大会に出た英雄を?」
「振ったんじゃなくて、断ったの」
「それって同じことだろ?」
「違うよ。振るっていうのは、付き合ってから別れるって意味であってね……」
マキが持論を展開し始めたけど、正直、それはどうでもよかった。僕は彼女に恋人がいないことが分かって、心の底から安堵していた。
それにしても、さすがはマキ。学校の頂点に君臨する人たちの世界は、こちらの想像を遥かに超えている。イケメンで女子に大人気のサッカー部のキャプテンを袖にするなんて、僕だったら到底真似できそうもない。
でもそうなのだとしたら、これまで彼女を避けてきた時間は何だったのか。僕は根も葉もないウワサ話に振り回された、自分の愚かさを呪った。
「とにかくそんなの、七十五日も経たないうちにみんな忘れるさ」
「でもこのままじゃ別のウワサが立っちゃうかもね」
「別のウワサって?」
「太一と私が揃って体育館を出たの、みんなが見てると思うから」
最初は何を言われているのかわからなかった。だけど保健室の鏡に映った自分たちの姿を見て、僕は簡単な答えにたどり着いた。
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「まさか……」
「誰にでも色目を使う女が、幼馴染と一緒に体育館を抜け出しましたとさ」
彼女がまるで他人事のように、あっけらかんとして言った。さらに僕たちは今、たった二人きりで保健室のベッドの上に座っていた。
「それマズイじゃん! だったらどうして後を追ってきたのさ」
「はぁ? 心配だからに決まってんでしょ?」
「でも僕なんかとウワサになったら、それこそ笑い者じゃないか」
「何でよ。まぁ笑いたい奴には笑わせておけばいいよ」
マキが立ち上がって、ベッドを囲む間仕切りのカーテンを閉めた。それからおもむろに上着のボタンを外した。
「何してるの?」
「だって太一、ここは保健室だよ」
彼女の胸元があらわになって、僕は思わず生唾を呑み込んだ。
「なら、すべきことはひとつでしょ?」
彼女はシャツとスカートを脱ぎ捨てると、わき目もふらず足元の体重計に乗った。
「あぁ、また増えちゃった。私も西瓜食べ過ぎたかな」
マキは体重計に乗る時、少しでも軽くしようといつも服を脱ぐ。それに昔から、幼馴染の前で下着姿になることなんて何とも思っていなかった。
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「体重くらいなんだ。お腹を壊すよりはましだろ」
僕はお腹から力が抜けて、またベッドに倒れ込んだ。
「そういえば太一はお腹が空っぽだから、体重が減ったかもね」
「どうでもいいから早く服を着てくれ。こんなところを誰かに見られたりしたら、それこそ……」
枕で自分の顔を覆いながらマキに頼んだ。見られる彼女は平気でも、見せられる僕の方はいろんな意味で全然平気じゃなかった。
「それより太一も量ってみなよ」
「別にいいよ」
「どのくらい便器に流れたか知りたくないの?」
「何だよそれ、汚いな」
「いいから早く」
ギュッと腕を掴まれて、彼女の胸が僕の肘に当たった。その柔らかい感触にドキドキして、頭に血が上るのがわかった。おまけに下痢で体力を奪われていて足元がふらつき、僕は彼女を抱えるようにしてベッドに倒れ込んだ。
「きゃっ!」
「ご、ごめんなさい!」
頭が混乱して彼女に覆い被さったまま謝ると、マキは顔を真っ赤にして目をそらしながら呟いた。
「太一の……スケベ……」
幼い頃、西瓜を食べ過ぎると体が赤くなると母親に脅されたことがある。当時はそんな子ども騙しを信じるほど可愛くなかったけど、今は体が火照っているので西瓜色になっているに違いなかった。少なくともこの奇跡的な瞬間は、マキがくれた西瓜を食べ過ぎたから訪れたのだ。
キンコーンカンコーン、カーンコーンキーンコーン……
「終業式、終わったかも……」
チャイムの音に反応したマキがつぶやき、僕らは慌ててベッドから起き上がった。
「教室に戻らなきゃ!」
「そ、そうだね」
なおもチャイムは鳴り響く。それはこれから始まるとても長い夏休みを知らせる、僕たちにとって嬉しい合図でもあった。
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おわり
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
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