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連載小説|恋するシカク 第12話『安西姉妹』
作:元樹伸
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本作の第1話はこちらです
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第12話 安西姉妹
昼休みがきて、僕は学校を抜け出し安西さんの家にむかっていた。過去に美術部のみんなと遊びに行って住所は知っていたけど、こんな風に授業をさぼったことはこれまで一度もなかった。
安西家は瀟洒な住宅街にある一軒家だ。僕は門の前まで来て、呼び鈴を鳴らすのをためらった。
彼女の返信を見た勢いで思わず来てしまったけど、冷静に考えればここまでするのはやり過ぎだと気がついた。最悪、不審者と思われる可能性だってある。
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せめて放課後まで待つべきだったのではないか。後悔して引き返そうとした時、鞄の中で携帯電話が鳴った。
嫌な予感がして着信を見ると安西さんからだった。
「あの、河野先輩ですよね?」
耳元で安西さんに名前を呼ばれた。こんな時に限って、この前のような間違い電話じゃなかった。
「はい、そうですけど……」
うしろめたくて、思わず敬語になった。
「じゃあ上を見てください」
言われた通り見上げると、二階の窓から安西さんの姿が見えた。
「何でここにいるんですか?」
低いトーンの声で彼女に聞かれた。やはり警戒されている。恐怖で血の気が引いた。
「その……メールに早く脚本が読みたいって書いてあったから……」
消え入るような声で言い訳をしたら、電話のむこうでため息がもれた。
「あのメールはそういう意味で書いたんじゃ……」
その時、玄関のドアが開いて人が出てきた。直子先輩だった。
「あれ、トンくんじゃない」
「こ、こんにちは」
直子先輩と会うのはすごく久しぶりだった。なのに気が動転していて、月並みな挨拶になってしまった。
「そっか。奈子の彼氏ってトンくんだったんだね」
直子先輩は僕を笑顔で招き入れながら、見当違いなことを口にした。言われるがままに居間まで通されると、私服姿の安西さんがいた。
「二人ともサボりなんて不良だなぁ」
台所に立つ直子先輩が楽しそうに僕たちをからかった。
「お姉ちゃんほどじゃないって」
安西さんは僕のむかいのソファに座っていたけど、すごく居心地が悪そうだった。
「ご結婚後もこちらなんですか?」
怖くて安西さんと目が合わせられず、直子先輩に話しかけた。
「まぁお金が貯まるまではね。でも驚いたよ。奈子の彼氏ってトンくんだったんだ」
「違うよ」
安西さんが直子先輩の勘違いに即答する。「何で隠すかな」と直子先輩が僕を見た。
「いや、本当に僕たちは……」
「違うなら授業さぼってまでお見舞いに来ないでしょ。だってそれじゃストーカーじゃん。ねぇ?」
直子先輩は冗談めかしたけど、事実はその通りだった。緊張で喉が渇いてお茶を啜った。
あれ、でも待てよ。もし直子先輩が本当に僕を彼氏だと勘違いしているなら、安西さんは林原と付き合っていたことをお姉さんに話してないのかもしれない。姉の元彼が先日までの彼氏。そうだとしたら、安西さんが直子先輩と比べられて不快になっていたのも無理はないと思った。
「そういえば林原くんは元気?」
直子先輩がダージリンティーの香りを楽しみながら、禁断の言葉を口にした。すぐに安西さんの顔色を伺う。彼女はカップを口に運んだまま誰も見ていなかった。
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「奈子が学校のこと、何も教えてくんないんだよね」
「そ、そうなんですか?」
言いながらカップを持つ手が震える。
「圭吾のやつ、元気かなぁ?」
先輩は遠い目をしながら林原のことを下の名前で呼んだ。ガチャッ。安西さんが少し強めにカップをテーブルに置いたので、僕は慌てて口を開いた。
「あいつは相変わらず元気ですよ」
「ほんと? よかった」
早く話題をかえなきゃ。でも考えれば考えるほど何も思い浮かばなかった。
「学生の時、彼とも付き合ってたんだよね」
話題はさらによくない方へと動いた。話を膨らませたくないので「へぇ……」と相槌でかわした。
「でもみんな、知ってたんでしょ?」
「まあ……」
「えっ? 先輩はそのこと前から知ってたんですか?」
目を丸くした安西さんが、身を乗り出して僕に迫った。
「直子先輩と林原がデートしているの、見かけたこともあったし」
「何で教えてくれなかったんですか?」
聞かれてないし、そもそも知っていると思ったから。ところが実際はそうじゃないらしい。
「知らなかったの?」
安西さんが眉間にしわを刻んで頷いた。
「奈子に話したの、最近だもんね」
じゃあ安西さんは、直子先輩と林原の関係を知らないで付き合い始めたのか。だとすれば、別れの原因はそれが関係している可能性が高かった。
「卒業以来、彼とも連絡とってないな。まぁ結婚したんだから当たり前だけど」
この分だと直子先輩は、安西さんと林原が付き合っていたことを知らない。安西姉妹と林原。三人の事情はかなり複雑に見えた。
つづく
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