見出し画像

ファントークンの税金は譲渡所得?(FCRコインと暗号資産の譲渡所得該当性)

サッカークラブ等が、ファン向けに、座席の優先購入権や投票に参加する権利などが付着したファントークンを発行することがあります。

このようなファントークンが暗号資産に該当する場合、このファントークンを譲渡した場合の所得は、「資産の譲渡による所得」に該当し、所得税法上、比較的税金の安い譲渡所得に区分される可能性はないのでしょうか。

今回は、この点に関する国会のやりとりを確認してみましょう。
(税務相談・税務調査対応等のお仕事依頼はこちら)


1 暗号資産の譲渡による所得は譲渡所得に該当しないという国税庁の見解


このnoteの記事書籍において、暗号資産の譲渡による所得の譲渡所得該当性に関する国税庁の立場について、次の点を指摘してきました。


上記の国税庁の立場は、例えば、平成31年3月20日の参議院の財政金融委員会における当時の国税庁次長や財務省主税局長の次の答弁に現れています。

「所得税法上、譲渡所得は資産の譲渡による所得と定義されておりまして、当該所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨と解されております。

この点、ビットコインなどのいわゆる暗号資産は、資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されており、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられていることから、暗号資産の譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にするものと考えられるところでございます。

このため、国税当局としては、暗号資産は、資産ではあるものの、譲渡所得の起因〔筆者注:条文上は「基因」〕となる資産には該当せず、その譲渡所得による所得は一般的に譲渡所得には該当しないものとして取り扱っているところでございます。」

 「暗号資産は資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されております。消費税法上も、支払手段に類するものとされているところでございます。

こうした現行法令を踏まえれば、暗号資産につきましては、外国通貨と同様に本邦通貨との相対的な関係の中で換算上のレートが変動することはあっても、それ自体が価値の尺度とされており、資産の価値の増加益を観念することは困難と考えております。このため、国税当局においては、暗号資産の譲渡による所得は一般的に譲渡所得には該当せず、雑所得に該当するものとして取り扱っているというふうに承知をしております。」

2 第208回国会における政府答弁書


上記答弁からすると、国税庁は、「一般論」として譲渡所得に該当しない旨を説明しており、場合によっては、譲渡所得に該当することもありうるという立場になりつつあると推察されます。

ただし、次に見る第208回国会における質問主意書の質問に対する政府答弁書の回答内容からすると、国税庁は、将来的に柔軟な対応をとる余地を残すために上記のような立場をとりつつも(いわば保険をかけつつも)、現時点では、譲渡所得の基因となる資産に該当する暗号資産は存在しないという立場をとっていると思われます。

残念💦

ただし、ファントークンを含む暗号資産の設計や売り出し方などを工夫すれば、資産の価値の増加益が生じる性質を有する=譲渡所得に該当しうる、と判断される可能性があるかもしれません。

また、暗号資産の利得に対する分離課税が導入されないことを前提とすると、ファントークンの範疇に入らないガバナンストークンを譲渡した場合の利得が譲渡所得に該当するか否かが注目されます。

(1)第1回戦

【質問主意書における質問(令和4年4月6日)】

「十九 モナコインは、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値であるが、モナコインの保有者は、自己の保有するモナコインと引換えに、NFT技術等の基盤となるブロックチェーンと呼ばれる改ざん不可能なデータベースに、モナコインの保有者が指定するデータ(例えば論文、数値など)を記録することができ、かつ、モナコインを保有するのでなければ何人も当該データベースに記録することはできないこととなっている。

このため、モナコインは、ブロックチェーンへの記録請求権を表象する証書と経済実態において同じであるので、モナコインは固有の用途(使用価値)を有している。

モナコインは、代価の弁済のために不特定の者に対して使用すること以外に用途(使用価値)を有する財産的価値であり、モナコイン自体の価値の増加益を観念することが可能なため、強制通用力を有しないことも考慮に入れると、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益であると考えられる。

モナコインは、所得税法第33条第1項にいう『資産』に該当すると解してよいか。

「二十 モナコインのように、支払手段としての性質を有しているものの、価値の増加益が観念可能な固有の用途(使用価値)を有している、性質のあいまいな資産については、法律の用語の自然な解釈に従い、所得税法第33条第1項にいう『資産』に該当するものと解してよいか。」

【上記質問に対する回答(令和4年4月15日の答弁書・内閣参質208第34号)】

「十九及び二十について
 御指摘の『モナコイン』を含む暗号資産については、所得税法第33条第1項に規定する『資産』には該当しないものとして取り扱っているところ、いずれにせよ、支払手段としての性質や資産の価値の増加益が生じる性質を複合的に有する資産については、同項に規定する『資産』に該当するか否かについて、個別具体的な資産の性質により判断されるものと考えている〔下線筆者〕。」

 上記質問は、要するに、「支払手段である暗号資産は、それ自体が価値の尺度とされており、暗号資産の譲渡益は資産の値上がりによる増加益ではない」という国税庁の見解に対して、「モナコインは、支払手段ではあるものの、用途(使用価値)を有する財産的価値であり、モナコイン自体の価値の増加益を観念することが可能であるから、暗号資産の譲渡益は資産の値上がりによる増加益である」と主張しているようです。

このような主張に対して、政府は正面から回答していないように見えますが、結局、モナコインは暗号資産として取り扱っていることを述べています。

加えて、政府の回答では、支払手段としての性質を有するもの(暗号資産)の中には資産の価値の増加益も生ずる性質を複合的に有するものもあることを認めた上で、そのようなものが譲渡所得に該当する余地を認めているように見えます。

暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得になる余地があることを認めたようにも読めますが、実際はどうでしょうか?

(2)第2回戦

【質問主意書における質問(令和4年4月19日)】

「モナコインを含む暗号資産については、支払手段としての性質を持つものの、資産の価値の増加益が生じる性質を、法律上の規定によって、ただちに否定することは困難であると考えられる。

個別具体的な資産の性質を判断することなく、一律に暗号資産が所得税法第33条第1項に規定する『資産』に該当しないとする政府の取扱いは、法令の解釈適用を誤った違法なものであるとも考えられるが、政府の見解を問う。」

【上記質問に対する回答(令和4年4月28日の答弁書・内閣参質208第39号)】

「四 現時点では、御指摘の『モナコイン』を含む暗号資産について、仮に、支払手段としての性質のほかに、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされているとは考えていないところである。

こうしたことから、暗号資産について、所得税法第33条第1項に規定する『資産』には該当しないものとして取り扱っており、『法令の解釈適用を誤った違法なもの』との御指摘は当たらないものと考えている。」

 上記回答は、支払手段としての性質のほかに、資産の価値の増加益が生じる性質がある暗号資産があったとしても、その性質については、一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされているとは考えていないため、結局、暗号資産は譲渡所得の基因となる資産に該当しない(その譲渡による所得は譲渡所得に該当しない)というものです。

このような回答については、次のような疑問があります

(3)第3回戦

【質問主意書における質問(令和4年5月11日)】

「五 所得税法第33条第1項に規定する『資産』に該当しない資産について、仮に、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、独立した経済的価値が認められて取引の対象とされているとは考えられないところである。

こうしたことから、当該資産について、資産の価値の増加益が生じる性質が失われたとしても、それにより当該資産の取引価格(客観的な交換価値)が影響を受けることはないと解してよいか。」

 「六 暗号資産モナコインは、不換紙幣のように政府等の権威ある機関の信用をもって流通しているものではなく、他の財産的価値による担保も有していないため、モナコイン自体の価値の増加益が生じる性質なくしては、短期的にはともかく長期的には無価値であり、価格はゼロになると考えられる。

モナコインは八年以上の長期にわたり、価値のあるものとして取引の対象とされているところ、その理由は、モナコイン自体の価値の増加益が生じる性質にあると考えられ、当該性質が、モナコインの取引価格に影響を与えていると認められるので、当該性質については、独立した経済的価値が認められて取引の対象とされているとするのが自然である。

そのため、モナコインは、所得税法第33条第1項に規定する『資産』に該当するものと解してよいか。」

次の質問がファントークンに関するものです。

「七 経済産業省が公表する『スポーツ分野でのNFT/FTの可能性と課題』では、FT(代替性トークン)としてファントークンが取り上げられている。

ファントークンは、当該トークンを保有することにより特典(例えば特別席で観戦する権利、すなわち優先的施設入場権など)を受けることができる性質を有しており、当該性質のためにファントークンが売買されることから、当該性質は独立した経済的価値が認められて取引の対象とされていると考えられる。

ファントークンは、代替性トークンであり、ゴルフ会員権において、優先的施設利用権に価値の増加益が生じることを踏まえると、譲渡所得の基因となる資産に該当する場合もあり、当該トークンを保有することにより特典を受けることができる性質は、価値の増加益が生じる性質であると認められる可能性もある

他方、ファントークンは、決済手段等の経済的機能を有しているかどうかにより、暗号資産に該当する可能性があるとされており、実際、金融庁が事前相談を受けたファントークン『FCRコイン』は暗号資産に該当するとされている。

そのため、暗号資産に該当するファントークンについては、価値の増加益が生じる性質を有する場合があり、当該性質について、独立した経済的価値が認められて取引の対象とされている可能性も否定できないところである。

こうしたことから、暗号資産について、所得税法第33条第1項に規定する『資産』に該当しないとした政府の取扱いを維持することは困難であると考えるが、政府の見解を問う。」

 【上記質問に対する回答(令和4年5月20日の答弁書・内閣参質208第45号)】

「五について お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の『当該資産の取引価格(客観的な交換価値)』は、一般的には、その資産が取引される市場により判断されるものと考えている。」


上記ファントークンに関する質問に対する政府の回答
は次のとおりです。

 「六及び七について

 先の答弁書(令和4年4月28日内閣参質208第39号)四についてで述べたように、現時点では、暗号資産について、仮に、支払手段としての性質のほかに、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされているとは考えていないところである。こうしたことから、暗号資産について、所得税法第33条第1項に規定する『資産』には該当しないものとして取り扱っている。」

 
上記質問では、サッカークラブであるFC琉球が発行する独自トークン(暗号資産)であるFCRコイン(FC Ryukyu Coin)を例に挙げています。

トークンを保有することにより特典(例えば特別席で観戦する権利、すなわち優先的施設入場権など)を受けることができる性質を有するファントークンは、暗号資産に該当するものの、価値の増加益が生じる性質があり、当該性質について、独立した経済的価値が認められて取引の対象とされている可能性も否定できないという見解が示されていました。

このFCRコインは、支払手段のみならず、試合に招待される権利、ロゴや名前の掲載権を得ることができるようなトークンパートナーとしての権利、選手への投げ銭機能、サッカークラブ運営における投票決議への参加権利などが付与されている暗号資産又は付与される予定の暗号資産です。

そうすると、少なくとも、国税庁がいうところの「支払手段としての性質や資産の価値の増加益が生じる性質を複合的に有する資産」該当性、「譲渡の基因となる資産」該当性を検討する余地がありそうです。

しかしながら、上記の政府回答は、このようなFCRコインを引き合いに出されても、「現時点では、暗号資産について、仮に、支払手段としての性質のほかに、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされているとは考えていない」として、(2)と同じ回答を繰り返すことで、門前払いしています。

3 まとめ

差し当たり、次の点を指摘しておきます。

国税庁がいう「一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされている」ことの意義は必ずしも明らかではありませんが、例えば、同一種類のファントークンに何らかの権利が付着するものと付着していないものが存在し、それぞれに市場価格が存在する場合には、これに該当すると取り扱ってくれる可能性はあるかもしれません。
この辺りは、しっかりとした理論構成をして、国税庁に説明を試みる価値があるかもしれません。


なお、仮に、特定の暗号資産が、譲渡所得の基因となる資産に該当するとしても、その暗号資産の譲渡による所得が「営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得」に該当する場合には、譲渡所得に該当せず、事業所得又は雑所得になる可能性がありますので、注意しましょう。



★実際の税金の申告や個別の税務相談等は、税理士に依頼しましょう。★

※ 引用される場合は、この記事を引用元としてお示しください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?