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超獣奇譚

ここは深々と雪が降り積もる真っ白な森。そこには優しすぎるトラと獰猛なネズミがいました。

トラは優しすぎる故に、餌にありつくのも一苦労です。本来トラは肉食ですが、彼は他の動物を殺し、食べることが、ひどくいたたまれない気持ちになってしまうためにできないのでした。

トラが森の中で食べられるものがないか探し歩いていると、一匹のネズミが叢から現れました。獰猛なネズミです。

「やい、トラ公。そんなに痩せちまって、お前さんは本当にトラなのかい」

「なんだよ、藪から棒に。僕はトラさ、どこをどう見たってトラじゃないか」

トラは強がって身体を大きく見せようと肩や脚に力を入れます。しかし思うように力が入らず、その場に座り込んでしまいます。

「やっぱりお前さんはトラじゃないみてぇだな」

トラには言い返す気力すらありませんでした。

「トラ公、お前さん今日は何食べた?」

「今日は何も食べてないんだ」

「じゃあ昨日は?」

「昨日も食べてないんだ。ニンゲンに撃たれて崖から落ちたシカの肉を四日前に少しいただいたきりさ」

シカを食べる時だって、何時間も躊躇して、眼を閉じることでやっとふた口食べることができたんだ、とトラは説明した。

「お前さんはいつもそんなもんしか食ってねぇのか。自分で獲物を殺さねぇのか」

「そんなことできるわけないじゃないか」

トラは憤慨で顔が赤くなります。

「そんなに怒んなって。ここはひとつ相談なんだが、お前さん、俺に食われてはくれねぇか」

トラはネズミが何を言っているのかよく分かりませんでした。食われる?僕が?ネズミくんに?

「そんなことできっこないよ、僕の身体は君の何十倍も大きいんだ」

「大きさなんて関係ねぇ。俺は何でも食べるんだ。生憎、今は食料にも困ってる。腹ぺこなんだよ。俺には家族もいるしな」

トラは考えます。僕は生きていても、他のトラのように勇ましく獲物に食らい付くことができない。生きることが苦手なんだ。それならいっそ、今ネズミくんに食べてもらうのも、いいかもしれない。そうすれば、少なくともネズミくんは喜んでくれる。そう思ったトラは「いいよ」と返事をしました。

「本当か!?それじゃあ失礼して」

ネズミはトラの首に噛み付き、頸動脈を切ります。トラの首から紅い血が迸ります。意識が遠退いていくトラを横目に、ネズミはせっせと動き回りどこから食べようかと思案します。

「よし、ここだな」

ネズミはトラの背中に噛み付きます。もう痛みすら感じなくなったトラは、とても満足した気持ちで目を閉じるのでした。

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