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社会的インパクト投資レポート<番外編vol.10>:新興国における経済成長と貧困削減

2018年6月18日、当社は「社会的インパクト投資宣言(※1)」を発表しました。社会的インパクト投資とは、貧困層支援や教育問題など社会的課題の解決に取り組む企業や領域に投資し、経済的なリターンと社会的なリターンの両立を実現する投資手法を指します。この社会的インパクト投資レポートでは当社の各ファンドシリーズが具体的にどのような社会的リターンを実現するかについて定量的かつ定性的にお伝えしてまいります。

※1 当社の社会的インパクト投資に対する考え方についてはこちら( https://crowdcredit.jp/about/social-investment  )もあわせてご参照ください。

今回は番外編第10弾です。ここでは新興国における経済成長と貧困削減の関係性についてご紹介していきます。

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経済成長と貧困削減の関係性をめぐる学術的な経緯

「経済成長は貧困層に恩恵をもたらすか」は長らく議論されてきた命題です。1980年代までは、道路や上下水道、発電所などの大規模なインフラ整備が経済成長をもたらし、貧困削減にもつながると考えられていました。これは、「富める者がさらに富めば、貧しい者も自然と豊かになる」というトリクル・ダウン仮説が機能するという考え方です。

しかし、1990年代に入ると、「高い経済成長率が貧困削減に結び付いているとは必ずしもいえない」といったトリクル・ダウン仮説に対する反論が数多く出され、議論を呼ぶようになりました。これにより、所得再分配をもたらす社会福祉制度の在り方を模索する流れが形成されています。

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2000年代に入り、SDGs(持続可能な開発目標)の前身にあたるMDGs(ミレニアム開発目標)において、世界の貧困層の大幅な削減が目標として掲げられるようになると、アカデミアでは、貧困削減志向(pro poor)派と成長志向(pro growth)派の対立が著しくなりました。

その後、90ヵ国以上の家計を約40年間にわたって比較調査した結果、「国民全体の平均所得が増加すれば、貧困層の所得も増加する」ことが明らかとなったことで、近年では両派を包括的に融合した「貧困削減効果を伴う経済成長(Pro-Poor Growth)」が模索されています。

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最新の研究では、経済成長により貧困削減を達成した国、経済成長しても貧困削減につながらなかった国を比較調査した結果、経済成長により生じた「格差」が貧困削減の成否をわける原因となっていることが指摘されています。また、この格差がさらなる経済成長や貧困削減の可能性を損なっていることも明らかになりました。このことから、先進国か新興国かを問わず、格差是正に対する課題意識が高まっています。

新興国における格差の実態~交通インフラを例として~

学術的には、新興国への大規模なインフラ整備等の開発支援の効果は、議論の余地が大いにあります。しかし、少なくとも無意味であると結論づけることはできないでしょう。日本では戦後、とくに都市部を中心に、人々の移動の主な手段を公共交通とする、いわゆる「公共交通指向型」の都市開発が推進されてきました。

しかし、このような基盤がある都市などは世界的に稀であり、とくに交通インフラの整備に課題がある新興国はまだ数多く存在しています。こういった新興国の都市においては、物理的な道路の不足に加え、交通渋滞が大きな社会問題となっています。

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また、同じ目的地に向かう人たちが一つの車両を利用する乗合いバスは、公共交通を補完し日常の足を支えていますが、その一方で多くの問題を抱えています。たとえば、自然発生的に様々なルートが提供され続けていった結果、一元管理されていないため、都市全体の効率的な移動に最適化されておらず、利用者にとってもわかりにくい状態となっています。さらに、運転手の大半が自費での自動車やバイクの購入が難しいことから、借金やブローカーへ売り上げの支払いを抱えており、乗り手に応じて値段交渉をしているケースも珍しくありません。

経済的な制約があり、移動手段が限定される人たちは、乗合いバスや徒歩で長い時間をかけて移動したり、より良い機会へのアクセスを諦めたりしなければならないのが現状です。こうした新興国では、効率的な移動手段(自動車やバイクなど)を購入できる人とそうでない人で、就学や就職などの機会に大きな開きが生まれてしまっています。

インフラ整備がある程度進んだ後でも、経済格差によって移動手段の格差が生じてしまい、その結果、生活の質にも大きな違いを生み出す状況になっていることは、解決すべき大きな課題の1つといえます。

貧困削減効果を伴う経済成長(Pro-Poor Growth)のために

現在、東アジアや東南アジア地域の一部が、貧困削減効果を伴う経済成長(Pro-Poor Growth)の成功例として挙がっています。こういった地域では、税制による所得の再分配ではなく、主に経済成長に伴う雇用増加と賃金上昇が貧困削減につながっていると考えられています。そのことから、サブサハラ・アフリカ地域(サハラ砂漠以南のアフリカ地域)など、貧困削減の進まない地域への応用が期待され、研究が進んでいます。

従来は、貧困層が農村に多いことから、農業部門を支援し、成長させることが貧困削減に重要だと考えられていました。しかし、東アジアや東南アジア地域の一部の事例研究によると、貧困層に雇用機会を創出する労働集約的な製造業のほうが、貧困削減効果が高いことが明らかになっています。

こういったマクロの面で実証研究を進め、実際に貧困削減効果を伴う経済成長を促すことは、必要不可欠といえます。それに加えて、マイクロファイナンス(※2)機関等の民間資金の活用で、貧困層の人々が金融サービスに直接アクセスできるようにするなど、ミクロの面も合わせた両面からのアプローチが、世界中から貧困をなくす実践的な方策であると考えられます。

※2 マイクロファイナンスにつきまして、詳しくは以下をご覧ください。

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