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”ヤミ畑”問題の真実 「自警団系YouTuber」の何が問題なのか?

こんばんは、烏丸百九です。
あっという間に月末ですね!(n回目

今回はYouTubeの「烏丸ラジオ」と連動して、本内容について考えるラジオ配信の原稿兼、note更新とさせていただきたく存じます。配信はこちら↓。

配信を見なくても、本noteを読めば内容は把握出来るようになっていますので、note読者の皆様はご安心ください。

※本記事には暴力的な表現や外国籍の方々、特に在日中国人の方々への差別表現が含まれます。くれぐれも閲覧にはご注意ください。


「私人逮捕」≒「現行犯逮捕は一般人が行っても良い」ではない!

現在YouTube等の動画配信サイトやSNSを騒がせている問題の一つに、一部YouTuberによる私人逮捕」動画問題があります。

「美人転売ヤーを私人逮捕!」
 そんなメッセージとともにX(ツイッター)やユーチューブに投稿された動画には、複数の男性が女性を取り囲み、「犯罪行為ですよ。現行犯逮捕できますよ」「警察呼んでます。暴れないで」などと体を押さえつける様子が約2分間、収められている。
 別の動画では、タクシーに乗り込もうとする女性に対し、ジャニーズアイドルのコンサートチケットを転売したとして、男性が「犯罪者は降りろ」と服や腕をつかみ、車から無理やり引きずり出す様子が映されていた。
 こうした動画に対し、Xでは「転売屋が減ってほしいから応援している」と肯定的な声がある一方、「やり過ぎではないか」などと批判の声も上がっている。
 通常、容疑者の身体の自由を拘束できるのは捜査機関に限られるが、現行犯の場合は民間人でも逮捕でき、「常人逮捕」「私人逮捕」と呼ばれる。刑事訴訟法に定められており、民間人が現行犯逮捕した場合は、直ちに検察官か司法警察職員(警察官など)に引き渡さなければならない。

毎日新聞「私人逮捕」動画拡散に問題は? 専門家「一線を越えれば加害者に」より

この記事の続きで、とある専門家は「私人逮捕」行為について【「腕をつかんだりする行為や身体的な接触は暴行に当たる可能性がある」と指摘。特定の個人を集中的に撮影し、「犯罪者ですよ」などといった言葉とともに動画を公開することは肖像権の侵害にも該当する恐れがある】と述べてはいるものの、この毎日新聞の書き方ですと、「現行犯の逮捕は民間人でも行って良い」と読んでしまえるように思います。

しかし、この見解は厳密には間違っています。別のプロ弁護士の方の見解を確認してみましょう。

まず、逮捕にはいろいろな種類があるのですが、通常逮捕というのが、裁判官による令状をとって行うものです。
そして、この通常逮捕ができる人は、検察官、検察事務官、司法警察職員に限られています。
逮捕の中には、このような通常逮捕以外に、現行犯逮捕というものがあります。
法律では、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」を現行犯人と呼びます。
また、法律では、一定の場合(ある人が犯人として追跡等されている場合や身体等に犯罪の顕著な痕跡がある場合など)に、状況的に、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときも、現行犯人とみなすことになっています。

このような現行犯人については、「何人でも」逮捕状失くして逮捕することができますよ、と法律が明記しています。
つまり、法律で定める現行犯人に該当するなら、検察官、検察事務官、司法警察職員以外の人であっても、逮捕することができるということ。
これが私人逮捕というものです。

1つ目は、私人逮捕といえるためには、一定の条件があるということ。
私人逮捕ができるのは、現行犯逮捕のケースですが、現行犯逮捕といえるかどうかという点は評価を伴います。
「現に犯行を行い」とか「現に罪を行い終わった」とか、それ自体から、明確にこういう場合であるとイメージすることって難しいですよね?
これが現行犯逮捕に該当するのか?ということに一定の評価が必要になるということは、つまり、私が、「これは現行犯逮捕だ」と思って、法律で認められた私人逮捕をしたつもりでも、実は客観的には私人逮捕の要件を満たさないということもあり得るということです。

2つ目は、私人逮捕だと思ってやったことそれ自体が犯罪と評価されてしまうリスクもあるということ。
過去の裁判例で、現行犯逮捕をしようとする場合に、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であると問わず、その際の状況から見て社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法35条により罰せられないと説明するものがあります。
刑法35条というのは、法令や正当な業務による行為は罰しないというもの。
つまり、私人逮捕にあたり、逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の行為については、それが、相手の身体をつかむなどの通常暴行罪に該当するような行為であっても、法令又は正当な業務による行為として暴行罪などに触れないものの、その行為が、逮捕のために必要かつ相当な範囲にとどまらないと評価される場合は、暴行罪等の刑罰法令に触れ、別途犯罪が成立し得るということです。

上記記事より(一部省略)

つまり、たとえ「現行犯」であっても、それが果たして本当に「現行犯」と呼べるのか否かは客観的な評価が別途必要になるということであり、某YouTuberによる「美人転売ヤー私人逮捕」の動画は、その条件を満たしているとは言えない=仮に本当に相手が「転売犯」であったとしても、勝手に「私人逮捕」をして良いことにはならないということです。

「私人逮捕」を行ったこの某人物は、収益化やバズを狙って動画撮影を行っている上に、客観的に見て警察への通報が可能と思われる程十分な時間、女性に対するつきまとい行為を行っていたわけで、「私人逮捕」の要件を満たさないどころか、当人が暴行犯などの罪に問われる可能性が高い、というのは常識的な評価だと思料されます。

”ヤミ畑”の栽培者に「突撃」する右翼活動家

さて、ここから本題です。

先日9月14日、YouTube上に「河川敷を不法占拠してる外国人に包丁で脅された」(註:題名は一部変更しています)とする動画がアップロードされました。
動画投稿者は地方議会への立候補歴もある、反リベラル右翼活動家として知られる某であり、岡山県某所の河川敷にて、行政の許可のない農地作成、いわゆる”ヤミ畑”を経営していたとされる中国籍の男性に対し、「不法行為をやめるよう声かけ」を実施し、身の危険を感じたのであろう男性から逆に包丁で脅しを受けたため、警察に通報を行い、男性は現行犯で逮捕された……という内容のものです。

動画はTwitter等のSNSでも大規模に拡散され、在日中国人へのヘイトスピーチを伴って、未だに多数の再生数(と、某への広告収入)を齎しているのが現状。

この某は現役の右翼活動家であり、最悪名誉毀損でSLAPP訴訟等を仕掛けてくる危険があること、また如何なる意味でも再生数や広告利益に貢献したくないことから、ここでは名を伏せたままにしておきますが、その行為は明らかに在日中国人への憎悪の煽動を目的としたものであり、到底看過する事は出来ません。

しかしながら、某の主張としては、自分は「不法行為をやめるよう声かけ」を行っただけであり、「私人逮捕」の行為と同様、客観的な要件として犯罪防止の目的を達成しようとしたと認められるのであれば、(たとえ動画による広告収入目当てだとしても)法的な罪に問うことは難しい、とするのかもしれません。

実際、”ヤミ畑”の耕作が即時逮捕相当の犯罪であった場合は、右翼活動家の某が「声かけ」を実行しなくても、そのうち警察通報により逮捕され、「在日中国人の男が~」などと報道されることになり、より大量のヘイトスピーチが巻き起こっていた可能性は考えられます。

”ヤミ畑”は「即時退去相当の違法行為」と言えるのか?

これについて、実際にワイドショーとして知られる「プライムニュースイット!」が報道しているので、以下ではその内容を記したFNNプライムオンラインの記事を検証してみます。(「声かけ」をされた男性とは恐らく違う人物についての報道です)

河川敷の約300mにわたって作られたヤミ畑。
国有地である河川敷に勝手に畑や小屋を作ると、河川法違反にあたり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性がある
この男性は中国出身で、20年ほど前からヤミ畑で野菜を育てているという。
2022年7月、県から撤去するように注意されたにもかかわらず、23年も夏野菜を栽培。
収穫した野菜は、自分で食べるという。

岡山県 備前県民局の小寺哲也さんは、河川敷にあるヤミ畑の問題点を「こういう形で放置されると、水が増水した時に下流に(ゴミが)流れていったり、場合によっては引っかかって、流れを阻害する危険性がある」と指摘した。
(「イット!」9月25日放送)

上述の記事より

これ自体非常に扇動的な報道なのですが、私が注目したいのは以下の二点です。

  1. 男性が「20年ほど前からヤミ畑で野菜を育てている」こと

  2. 岡山県当局の関係者が、ヤミ畑の問題点について「ゴミが流れていく」と述べていること

一点目。
男性はなんと、20年ほど前から岡山県に居住して「ヤミ畑」を耕作しており、その間特に警察に逮捕されることもなく、堂々とした態度でテレビ局のインタビューに応じています。おそらく、自分が「悪いことをしている」という意識も希薄でしょう。

現在河川の周辺で適法な耕作を行っている人々を取材したこちらの記事によりますと、一級河川の付近での耕作は戦後の食糧難を受けて政府が地元住民などに許可したもので、個人や農業組合などが現在も引き継いで耕作をしているのですが、近年新たな許可は出ていないとのことです。

少し考えればわかることですが、右翼活動家の某や警察当局に、河川敷での栽培が本当に”ヤミ畑”かどうか判断する材料はありません。それを判断出来るのはあくまでも河川管理者である地方自治体や国です。
「イット!」はテレビ局として県に事前確認を行っているのだと思いますが、例えば包丁を持ちだした中国籍の男性が、農地関係者から適切な許可を得て耕作を実施していた場合、彼が最近日本に居住し始めた事実があったとしても、”ヤミ畑”という見立てそのものが誤りである事になります。某はTwitter等でも自分の行為の正当性を再三主張していますが、包丁男性が「中国籍」であることは間違いなく確認済みとしながらも(動画でも中国語と思しき言葉で男性が抗議するシーンがある)、彼の畑が本当に”ヤミ畑”であったという証拠は一度も示していません

二点目。
この20年前から日本に居住されている男性のように、実際に”ヤミ畑”の耕作を行っているからと言って、即時警察に逮捕されるような事態は起きていないことが推測出来ます。何故でしょうか?

私は法律の専門家ではないため、あくまでも憶測となりますが、一点目で示したような「本当に”ヤミ畑”であるのか?」の判断が警察からは困難な事に加えて、あくまでも国や自治体が管理する河川である以上は、国や自治体が本気で「”ヤミ畑”耕作者を逮捕しよう」と乗り出さない限りは、事態が進展しないということが考えられます。

別の事件の例を見てみましょう。埼玉県越生町(おごせまち)ではなんと、40年間にわたって河川を不正利用していた工場主が未だに活動を続けているという報道があります。

越生町
「昭和57年から現在に至るまで、少なくとも61回にわたり河川内の不法占用物の撤去について指導を行っている」
61回指導したものの、社長側が応じない状態が続いているといいます。
40年間苦しんできた住民たちは、町の姿勢にも不信感を募らせます。

「役場が全然動いてくれなかったのが一番のネックなんですよね」
「越生町が管理する河川なんですよ。それをはっきりしてもらいたい」
町の対応として、これで十分だったのか?弁護士に聞くと…

ベリーベスト法律事務所 杉山大介弁護士
「行政的な手段としては監督処分というものが認められていまして、要するに川の安全を保つために必要な措置をいろいろ命じることができるんですね」
現在、越生町が出している「勧告」は法的強制力が無い指導。町の次の対応として考えられるのは、法的強制力を持って必要な措置などを命令できる「監督処分」だといいます。それでも従わない場合には、訴訟などになる場合も。

上記記事より

報道中で登場する工場主の男性の言い分は、自身の利益のために河川の水を勝手に利用しようとする非常に自分勝手なもので、悪質さも規模も”ヤミ畑”とは比較になりませんが、地元自治体のやる気の無い対応により、未だに司法の裁きを受けていないわけです。

先程の「イット!」の番組中で登場した男性が受けたのは県からの「勧告」であり、そもそも監督処分に至っていないことから、男性の「立ち退き」を正当化出来るような法的強制力はなかったということになります。

この件について、岡山県備前県民局にメールで問い合わせも行ったのですが、本日までに回答は得られませんでした。残念。

外国人差別を煽動するマスコミと自称「自警団」たち

実はこの”ヤミ畑”問題、一昔前から一部マスコミによって熱心に報道されていました。

産経新聞社を擁するフジサンケイグループの「夕刊フジ」の公式ウェブサイトであるzakzakは、例えば2017年に以下のような記事を書いています。

埼玉県熊谷市の県営団地近くで不審火が相次いでいる事件に絡み、同市は25日午前、標的となった物置がある市有地の「ヤミ畑」の撤去に着手した。団地に住む中国人らが無断耕作し、構造物まで設置したため、近隣住民から強い不満が出ていた。公共用地の「ヤミ畑」は首都圏や近畿圏の河川敷などに多数存在する。河川を管理する国土交通省によると、全国で865カ所も確認され、その面積は、東京ドームの2・5個分にもなる。「犯罪の温床」につながりかねない、不法占拠(使用)を許してはならない。

上記記事より

この記事の内容が正しければ、放火行為はむしろ「ヤミ畑をやっている中国人」に対するヘイトクライムの可能性があるわけですが、zakzakは全くそうした見解に触れず、只管中国人憎悪を煽っています。

また、産経新聞社を擁するフジサンケイグループの経営するフジテレビでは、2018年に公安や入管などの「不法外国人取締」を持ち上げる「タイキョの時間」なるテレビ特番を報道しています。

京都府内を流れる木津川……。いま、その河川敷には無断で作られた、いわゆる「ヤミ畑」が数多く点在している。国土交通省が管理する一級河川。その河川区域内は国有地であり、国の財産。禁止行為を無許可で行うのは、河川法違反となる。だが、管轄する近畿地方整備局・淀川河川事務所の再三の警告にもまったく止める気はないのが実態だ。

上記記事より

先の記事で見たように、本当に国が”ヤミ畑”を取り締まる気があるなら、法的強制力のある監督処分を目指し訴訟を起こす必要があるわけですが、フジテレビは「国にやる気がない」と批判するでもなく、只管「不法耕作をする中国人」を非難しています。

産経新聞社を擁するフジサンケイグループの経営するフジテレビの「イット!」も、報道から何かしらの対応を国に求めるでもなく、単に”ヤミ耕作者”の悪質さにばかりクローズアップしているように見えましたが、それでは事態は進展しないのではないでしょうか。

「私人逮捕」系YouTuberたちは、こうした国や警察の「ぬるさ」に苛立ち、より厳格な「犯罪取締」を求める人たちのようにも見えますが、もし法治国家である日本の法律を無視・軽視して「自力救済」を執り行おうとするなら、それは自警行為であり、過去の歴史を鑑みれば、虐殺や差別煽動の原因となってきたものでもあります。

自警団とは自力救済の発露の一つ。しかし、大災害や戦争時及び植民地など大国の支配下にあって独自の軍隊が編成されていない状態などのような局面において警察治安機関が機能していないと民衆が判断した場合に自衛のために結成されることがある。その中には、専門化・プロ化して民兵へと成長するものもある。アメリカの州兵は自然発生した自警団が法整備により民兵となり、後には正規軍の補助戦力として整備されたものである。
こうした混乱期の自警団は、司法が機能不全を起こしているゆえに、暴力に歯止めがきかず、残虐行為の主勢力となることがある。このような例は世界中で見られ、旧ユーゴ内戦ルワンダ内戦などにおける大規模な虐殺でも戦端を切ったのは国軍や警察によるものではなく、扇動された自警団や民兵が引き起こしたと考えられている

ウィキペディアより

関東大震災の朝鮮人虐殺を描いた「追燈」や「福田村事件」をご覧になった人なら、「自警団」の危険性は理解いただけるのではないかと思います。

某右翼活動家の動画は、「転売ヤー」の逮捕動画と同様に、「特定の個人を集中的に撮影し、「犯罪者ですよ」などといった言葉とともに動画を公開」していることから、中国籍男性の肖像権の侵害にあたるものであり、また当然ながら社会常識的にも、勝手に相手の場所に押しかけて法的根拠のない「退去勧告」を行う事は許されることではなく、某右翼活動家こそが警察に逮捕され、相応の社会的制裁を受けるべきだと私は考えます。

差別煽動だらけの酷い社会ですが、日本が「法治国家」としての体裁を保ちたいと思っているのなら、こうした「自警団」気取りの連中は、法的にも道徳的にも許容すべきではないと思料します。

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