谷口吉生さんの建築がなぜ美しいのか研究してみました
静けさの中にある美しさ。
谷口吉生さんが設計した建築の空間内で、一番の騒音は空調の音だ笑
と言ってもいいくらい、谷口吉生さんの建築を訪れると静かで美しく、心が穏やかになります。
私は仕事やプライベートでゴタゴタが続き、心身共に疲れてきたときは、谷口吉生さんの建築を訪れて自分自身と見つめ合うことで生きる力を得ます。
私自身も建築設計者ですが、谷口吉生さんの建築を訪れるたびにすごいと思うことがあります。
それは「なぜこれほど大規模な建築をつくっているのに、手摺などの細かい部分まで美しく設計されているのか!」ということです。
個人住宅を設計するとき、自分が考えたことを図面化して現場と打合せまでしているのに、細かい部分の納まりが上手くいかないことがあります。(単に私の場合、力不足が原因ですが笑)
なぜ大規模な建築で手摺などの細部まで美しく設計されている建築が出来上がるのか?
ということでなぜ谷口吉生さんの建築がなぜ美しいのかを私なりに研究してみました。
▪️そろえられた床タイルの配置
谷口吉生さんのつくりだす建築はタイル目地がそろっているのがわかります。
これはタイル一枚一枚の配置を決して現場任せにせず、図面上で指示しなければできません。
しかも現場では想定できない問題が必ず起きますが、そのあたりも想定して計画・設計されていることでしょう。
▪️そろえられたガラス目地
ガラスは製品の特性上、一枚板で何十メートルも作ることはできないので、現場でガラス同士をつなぎ合わせますが、そのときに必ず目地が発生します。
ガラスの継ぎ目はコーキングと呼ばれるものでふさぐのですが、谷口さんの建築ではその目地の前に柱が配置されています。
これにより内部からは目地が見えにくくなっています。
▪️素材寸法が考慮された建築設計
谷口吉生先生の建築に一片の半端部材無し!
外壁材やタイルなどは高さや幅を調整するために規格寸法をカットして納める部分が出てくることがあります。
現場での納まり上、これは仕方ないことなのですが、谷口吉生さんの建築作品にはそういった部分がないんです!
タイルはタイルの規格寸法そのままで貼られています。
実施設計を仕事でしている方であればわかると思いますが、これは簡単なように見えて実はとても難しいことでもあります。
タイル一枚一枚の寸法がきれいに貼れるように天井高さ等の寸法を整えなければいけないからです。
その全てを把握して計画し、図面に落とし込むことでようやく成せる技なのです!
▪️部材の細さ
谷口吉生さんの建築では手摺や柵・柱などの部材がとにかく細く作られています。
部材一つ一つにもこだわりが見られていて、ネジなどの姿も見えないようになっています。
それにより、いっそう細さが際立ちます。
▪️整えられた出隅
谷口さんの壁の出隅(角部分)は二方向でタイル側面が見えています。
用いているタイルは側面もきれいに施されているものなので、側面が見えても美しい納まりになっています。
また、こちらの外壁ではW出隅とすることで、勝ち負けの無い均等なデザインとなっています。
▪️水面との共存・対峙
谷口吉生さんの建築でよく見られるのが水を用いているところです。
土門拳記念館や鈴木大拙館、法隆寺宝物館や谷口吉郎・吉生記念館などでも見られます。
水面と対峙することで谷口吉生さんの作り出す鋭角的な造形をより美しく感じられます。
▪️徹底された建築計画
谷口吉生さんの建築ではありとあらゆるものが徹底して計画されています。
擁壁の水抜きの位置でさえコンクリートの伸縮目地とそろえられています。
建築作品の一部にある腰壁には、雨垂れが起きないように壁の真ん中に雨が流れるための溝がつくられています。
雨の日にはこの溝に雨が流れるようになりますので、壁表面の汚れもつきにくくなります。
また雨がこの溝を流れる姿も絵になります。
雨さえデザインに取り込んでしまうとは、本当に素晴らしいです!
▪️徹底して隠された設備機器
空調機器や給気・排気口などは見えてしまうと建築がだらしなく見えてしまいがちです。
設備機器は徹底して隠し、給気・排気口はそろえて配置してデザイン性の高いものを設置しています。
▪️逆転の発想
谷口吉生さんの建築では設備機器など建物の裏側をあえて見せている建築もあります。
葛西臨海水族園では魚達が優雅に泳ぐ水槽だけでなく、水族園で使用している設備機器を見せています。
その最たる例が広島市にある清掃局のエコリウムです!
ここでは清掃工場の内部にある機械をあえて見せています。
あえて内部の機械を見せることで環境について考えられる空間をつくるというその発想がまた素晴らしい!
▪️線と面と形
谷口吉生さんの建築では線と面と箱などの幾何学体が強調されたデザインになっています。
例えばつくばカピオでは庇を支える柱が極限まで細くされていて、これが線であることを表現しているように感じます。
続いて京都国立博物館のエントランスですが、こちらでは面を重ね合わせた外観をしていて、とても軽快な表現の建築となっています。
そしてこちらは法隆寺宝物館。
タイルが貼られた展示室の箱とガラスの箱と門型フレームが重なりあっています。
それぞれの箱が美しい一つの幾何学体という表現が徹底されているので、とても美しい形となっています。
ここで紹介したのはほんの一部ですが、谷口吉生さんの建築の美しさを語ればこれだけでは済まないので、またよかったら紹介させて頂きたいと思います。
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