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「大学生のボランティア」を経て思ったこと -フィリピンのスラム街にて-

「出逢いは新たな価値を生む」
フィリピンに行った経験から、この言葉を信じるようになった。

大学2年生の時に、いわゆる「貧困解決系」の学生団体に入ったことがある。貧困という大きすぎる課題に対して自分に何ができるのかが知りたかったため、「現地のニーズに基づいた支援」を掲げた、フィリピンのスラム街の支援を行う学生団体に入った。

それからというもの、学生の仲間たちと、まだ見ぬフィリピンのスラム街の「貧困」について話し合った。金銭的な問題で衛生面が整っていないのではないか。生涯年収を上げるための根本的な解決策は「教育」なのではないか。自走・自助できるコミュニティを作るべきなのではないか。

顔も見えないスラム街の人たちの生活を想像しながら、あまりにも複合的な問題が絡みつく「貧困」という大テーマについて紐解いていく。そのために学術書を読み、理解を深めていく。現地の声が聞こえないままだとギャップが広がるということを懸念し、現地の大学生やNPOに協力を得ながらプロジェクトを進めた。

そしてある夏、ついにフィリピンに行くことになった。「フィリピンは危ない」という両親の言葉を振り切り、一人成田からマニラに飛び立つ。初めてマニラ空港についたとき、灼熱の太陽の下、排ガスと砂塵にまみれた異国の匂いが鼻にこびりついた。

スラム街のイメージは、非常に危険な場所だと思っていた。何もない状態。日々を生き抜くために、なりふり構わず危険をおかす。そんなイメージがあった。一体どんな場所なのだろうか。非常に緊張しながらも、到着するまでのバスの窓から差し込んでくる異国の風の心地よさを肌で感じていた。

いざ到着すると子供たちが笑顔で出迎えてくれた。確かに恰好は心なしかみすぼらしいが、どこか健康そうにも見える。生活を見ると、朝起きてご飯を食べ、昼寝して夜を迎える。彼らなりの日常を過ごしている様子が伺えた。

蓋を開ければ、文化と生活水準が違うだけで、生きていると言う点は私と同じであった。もちろん私が見たケースは一側面でしかないとは思う。ただ、あまりにも事前のイメージとの乖離があったことに驚いた。私は、無意識にこの「支援」という言葉に囚われ、言葉のフィルターを通してここに住む人を見ていたかもしれない。スラムとはいえ、とても貧困な場所もあれば、普通に生活ができるレベルのスラムもあり、一概に定義できないことに気づいた。

こうした場所で、日本から来た「学生」に何ができるのだろうか。もちろん、見ず知らずの学生たちに「支援が…」と言われても、自分の懐事情を開示するほどお人よしではないだろう。顕在化している物事だけでは判断はできない。「貧困」という言葉がいかに潜在的なもので、そしていかに「人の価値観」によって意味合いを変える言葉なのかと、この時に気づいた。

そんなことを思いながら数日を過ごしていると、私たちを迎え入れてくれた子供たちが、私たちと接するたびに少しずつ日本の文化や言葉を覚えていく様子が見られた。なんと、日本人の我々の言葉を自発的に覚え、話しかけてくれるようになったのだ。

「出逢いは変化を生む」
その光景を見て、この言葉が思い浮かんだ。

学生の今は、支援のような格好のいいことはできないかもしれない。ただ、ひょっとしたら人と人との出逢いは、価値観や態度を変えるほどの大きな力があるのではないか、と子供たちを見て思った。

振り返ると思い当たる節もある。小さい話では、昔出会った友人の影響で、伊坂幸太郎の小説が好きになったことがある。話を合わせるために読み始めたが、最終的には自分の趣味となっていた。もし出逢っていなかったら、この小説を好きになっていなかっただろう。

浅草に行ったとき、露天商の日本人が英語で接客をしている姿を見たことがある。商品を売るためには英語が話せた方が都合いいのだろう。これはきっと江戸時代には考えられない江戸っ子の変化だ。歴史を振り返れば、私が生まれ育った横浜も、明治時代に西洋文化が港から流入し、徐々にハイカラな文化が浸透していった。

つまり、人との出逢いは変化が生まれるきっかけを創るのだ。何か新しいものに出逢い、必要性に駆られて順応していく。または影響されて変化していく。そんな出逢いと変化のサイクルを体験した気がした。

もしかしたら、私自身が世界の貧困を解決することはできないかもしれない。ただ、出逢い、知ること。こと、交流することを通じて、何か変化を生み出せるのではないか。そして、変化を生み出した先に、現状を抜け出すきっかけができるかもしれない。そうした「出逢い」の側面から、ひょっとしたら貧困も、いろんな課題も解決できるかもしれない。出逢いの可能性を見つけていこうと心に決めた。

人と人との出逢いが変化を生み出す。その先に見える世界は何なのだろうか。初めてフィリピンを訪れてからもう9年が経つ。当時の仲間で、彼らとの出会いによって、貧困支援を続けている人も少なくはない。

私はあれから、人と人とが交流できる場を創り続けている。同窓会も、イベントも結婚式も。ライフステージに合った新たな出逢いも古い出逢いの場が、きっと新たな可能性を創っていく。継続した交流を続けることによって、何か人生が良い方向に変わっていく。そして、出逢いが自分だけでなく世界を変える連鎖を生み出していく。9年前の写真を振り返り、そんな世界をこれから創りたいと思った。

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