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『Animal voice』 ショートショート

ある調査によれば日本でペットを飼っている人の割合は3割強ほどらしい。

案外ペットを飼っている人は少ない。

が、動物に癒しを感じるのは多くの人に共通していることだ。

そんな動物を愛する現代において発明されたAnimal voiceは多くの反響を呼んだ。

Animal Voiceとは動物が発する鳴き声を人間の言語へと変換してくれる装置のことである。

日本のとあるIT系ベンチャー企業が開発したものらしい。

装置は直径5cmほどの小型なもので、中には音声変換器や集音気が内蔵されているようだ。

それが犬の声色や強弱、さらには脳波までをも解析して人の言葉へと変換する。

この小型装置をリング状のものに取り付け、そのリングを動物の首にかけて使用する。

首輪のようなものだ。

もちろん犬や猫だけではなく様々な動物に対応しているため、リングの大きさはオーダーメイドが可能だ。



発売された当初はペットを飼っている人や生物学者などがその装置を扱う店に殺到した。

わずか一日で在庫切れというから驚きだ。

それだけ動物の考えや思いを知りたいという人が多いということか。

テレビの街頭インタビューなんかでは犬や猫を飼っている人がさぞご満悦に購入したAnimal Voiceの使用目的を語っていた。


「これを使えばうちの愛犬と念願のコミュニケーションがとれますよ!」

「僕たち飼い主とペットの仲がもっとよくなるにちがいありません!」


そうやってヘラヘラとインタビューに答える飼い主たちに男はテレビの画面外から冷ややかな視線を送っていた。

「どいつもこいつも、全く能天気だよなあ」

愛犬のミミに向かってそうつぶやく。

男は社会人三年目で現在一人暮らし。

寂しさを覚え彼は半年前ペットショップで見かけたトイプードルのミミを家に迎えた。

「ペットとの仲が深まるだと?むしろ逆効果だろ。」

男はそう吐き捨て、いつものようにミミの散歩の身支度をする。

彼はそんな装置には目もくれない。



装置が発売されて半年ほどがたって間もなく、Animal Voiceの売り上げは激減した。

それと同時にペットを遺棄する人が急増し、人口が集中する都市部では捨て犬や捨て猫をよく見かけるようになった。

ペットを飼う家庭も半減し、ペット業界は空前の大不況に陥った。

男の予感が的中したのである。



リアルな動物たちの内なる思いに人々が愕然としまったことが原因のようだ。

Animal Voiceから聞こえてきた犬の声は至極シンプルなものばかり。


「ご飯をくれ。」

「散歩に行きたい。」


そういう合理的で無機質なものばかりだったのだ。

飼い主に対する愛情表現などは皆無でただひたすらに自分たちが生きるために人間たちにすがっていたのである。



人間は動物に期待しすぎたらしい。

ペットは人間と同レベルの愛情を持ち合わせていなかったのである。

確かに人間にすり寄ったり芸を披露してみたりすることはあるだろうが、それは全て動物が生きていくための手段でしかない。

それらを見て人間たちは勝手に妄想し、ペットに自分の理想を押し付けていたのである。

うちのペットは飼い主である自分をこんなにも愛してくれる、毎日疲れを癒してくれる、と。

そう思い込んでいたのだ。

ペットが癒しを与えていたのではなく、人間が勝手に癒されていただけである。

ペットに耽溺していた世間の人々はその事実に直面し虚無感を感じてしまったようだ。


「現実なんて知らないほうがましだったんだよ。」

そう呟きながら男は愛犬のミミのことを心から愛しているようだった。





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