プリント編

写真の展示に向けた基礎知識-プリント出力編①-

はじめに

本記事は、写真の展示を目標にする人に向けた基礎知識の紹介が中心となりますが、展示を考えてはおらず、写真をプリントして楽しみたいが、どういったサービスがあるのか、プリンターはどれを選べば良いのかと悩む方に向けた内容です。

出力編の前半では、写真をプリントする意義やお店プリントとインクジェットプリンターのメリット・デメリットなど、写真をより楽しむための知識が主な内容になります。

後半にあたる「出力編②」では、インクジェットプリンターの使用を前提とし、作品に合わせた紙選び、お店プリント以外の出力サービス、画像ファイルの形式など、モニターやカラーマネージメントなど、より完成度の高いプリントを目指したい中級者向けの内容を予定しています。

現時点では「出力編」に続いて、「額装編」、「実践編」(キャプション制作、値段設定、作品の市場的価値の創出)の三部構成を予定しており、だんだんと敷居は高くなり、展示に関する費用など生々しさが濃くなっていきますが、いずれも筆者の活動経験に基づいたものなので、実践例として参考になるようなものに仕上げていく予定です。

2020年中にどこまで上梓できるかの見通しは立っておりませんが、完結まで気長にお待ち頂ければ幸いです。


写真をプリントしよう

展示をする・しないに関わらず、写真のプリントは試行錯誤も含め様々な発見をもたらしてくれるので、レベルアップの近道であります。

発見の一例としては、画面上のデータではなく、物理的な印刷物として、多彩な角度、様々な距離で鑑賞でくるほか、用紙との相性で作品の質感がガラリとかわるなどがあり、写真をプリントするもっとも重用な点として、プリントされた写真はモニターの性能に左右されず、誰が見ても同じ明るさ・色合いで観賞できることがあげられます。

モニターの表示環境や色の話は後ほど詳しく説明しますが、外部ディスプレイを使用せず、ノートパソコンのみで運用している場合、モニターよりも手持ちのスマートフォンのほうが精彩な色になるという経験がある方は少なくないでしょう。

モニターの性能差から自由になることは大きなメリットではありますが、少なからずのデメリットもあります。インクジェットプリンターを利用した家庭内印刷、店舗プリントサービスプリント(DPE / Development Printing Enlargement )のいずれも、慣れないうちはモニターで表示されたものと異なる色合いに満足感を得られなかったり、モニター性能というゲタを外した状態の作品が画面上で感じるような魅力を感じず落ち込むことも多くあると思いますが、ある程度の部分はプリンターやモニター関連の知識を深めていけば解決できる範囲のものです。

しかし、画面上では立派かつ魅力的に見える作品をプリントして観賞してみると、イマイチとパッとしない……ということも少なくありません。原因は自分でも詳細に言語化できないのですが、印刷環境、用紙の相性、作品それ自体の強度など様々な要因があると思います。

筆者が展示やアートイベントでプリントを見た際、「twitterなどで見てきたものより圧や強度が弱い」と感じた作品の多くは、iphone上で、より具体的に言えばtwitter上でみたものが殆どでした。ですがその逆として、画像としてタイムライン上を流れていく際にはあまり印象深く残らない作品が、プリントしてみると強烈な個性や存在感を放つことも、十分ありえるでしょう。

自分の作品の持つ潜在力を知るだけだけでなく、さらなるレベルアップのためにはどのような知識が必要となるかは、プリントを通じて学べる部分が多くあります。そのため、プリントした作品をみて落ち込んだり、がっかりするのはむしろ良いことではないかと、フォトコンテストの応募用に意気込んで印刷したプリントのあまりの拙劣さに強烈にがっかりした頃のことを振り返ってみて、そう感じます。


DPEとインクジェットプリンター

プリントに関する実践て的な知識を深めるにあたって、まず必要であろうトピックとしては、DPE / お店プリントとインクジェットプリンターの違い、プリンターの機種やインクの種類・特徴、出力サイズ、用紙の種類や特徴の理解、作風に合わせた紙選びなどがあるかと思います。


現在、写真の出力はDPEサービス/お店プリント、インクジェットプリンター出力、そしてプロラボなどの専門店などで行えますが、本記事では主としてDPEとプリンターを取り上げます。

DPEのメリット

 DPEサービスは、主に家電量販店やカメラのキタムラ、パレットプラザ、55ステーション、ポパイカメラ、フォトカノン、カメラはスズキ、チャンプカメラといった写真屋さんのプリントサービス(いわゆるお店プリント)、量販店に設置されているプリントサービス機、しまうまプリント、ビビプリといったネットプリントサービスが提供するプリントサービスを指します。


同一の機械(主なものとしてはFUJIFILMのFrontier)を導入している系列店舗(ヨドバシカメラやビックカメラなど)であれば、多くのお店でほぼ均一な仕上がりができるほか、仕上がりも小サイズから大伸ばしまで様々に選べます。


印刷形式は耐水性の高い銀塩プリントで、津波や豪雨で被災においても耐水性は実証されていますが、印刷用紙はマット・微光沢などの選択肢がなければ写真用光沢紙(Frontier導入店舗であれば、FUJIFILMの用紙)が使われます。


専用ページからの注文で、データのアップロード(ただしjpg)から注文、受け取り店舗の指定や配送先の指定まで行えるので、忙しい方、自宅に写真用に適したプリンターがない方、L版やはがきサイズなどを大量に刷りたい方にはDPEをオススメします。

作品をより自分のイメージに追い込む際には用紙の選択肢が少ないDPEでは、いささか物足りないという場合もありますが、写真を手軽に楽しむ際に積極的に利用したいサービスがDPEです。スマホで撮りためた写真を、L版で出力してアルバムにまとめるのも良いかもしれません(お店プリントは、その場で出力しくれるプリントサービス機よりも画質は良いので、急がず、良いプリントが欲しいという方はできる限りお店プリントを利用しましょう)。

筆者の利用例としては、フィルムで撮った写真が一定数溜まったところで、L版の発注(値段と画質でビビプリを愛用)を行いプリントしたものをアルバムにまとめています。

DPEのデメリット


DPEのデメリットの多くはインクジェットプリンターで本格的なプリントを作りたい層が感じるもので、撮りためた写真をプリントしたり、アルバムにまとめたいという層にとっては、そこまでのデメリットにはならないと思いますが、幾つかまとめておきます。

スライド1


一番のデメリットは、用紙選択が光沢かマットに限られ、用紙もFUJIFILMや各サービスの提供するオリジナル用紙なので、作品に合わせた用紙選びができないという点です。

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 「Fantasme-Le Rouge et Noir-」(2019)。展示「花と毒2019」 in 千駄木ギャラリー幻 出店作(Ed.3)。用紙 :Gekko ブルーラベル。出力:Canon PIXUS PRO-10S。A4。
 四ツ切り額に、2窓で額装。1つの枠の中に2枚の絵を併せて配置しているため、モニターという枠の中に、さらに複数の枠が表示される鑑賞形態では作者の意図するものを十分に汲み取ることはできない。
 物語仕立ての作品集『Le Ballon Rouge』(A5版、縦)にも収録。店舗委託はいまのところ取り扱いなしなので、鈴木がC-ROCK WORK名義で出展する同人誌即売会や、参加展示の物販で。各種刊行物の委託先募集中デス。
Model: Ryume & せとらえと 

筆者が展示作に選ぶの作品の多くは、暗いトーンや重厚なものが多いので、光沢紙よりもマット系を合わせることが多く、明るいトーンのものでも各メーカーの光沢・微光沢を作品に合わせて使い分けており、やむを得ない場合(プリントの準備間に合わず、展示搬入当日受け取り等)やか、フィルムで撮った写真を展示するといった例外を除けば、原則インクジェットでのプリントです。

ネットからの注文の場合はファイル形式がjpgに限られることが多かったり、初期設定では自動補正の項目にチェックが入っていることに気づかず、色が大きく変わってしまう(これについては、注文者側で対処が可能です)などがありますが、A4、A3などの大伸ばしブリントを手軽に発注できるので、フォトコンテストへの応募や、台紙やフォトフレームに写真を入れてプレゼントにするといった用途にも使いやすいでしょう。

まだ写真用のプリンターを持っていない方は、DPEから写真プリントに慣れていき、ゆくゆくは複合機能を持ったエントリーモデルあるいは本格的な写真専用プリンターに手を出してみるのが良いかもしれません。


インクジェットプリンター

本記事は初心者・中級者に向けた展示に向けたプリント出力の基礎知識習得ということで、インクジェットプリンターの使用を前提にしています。インクジェットプリンターは導入コスト、インクの交換に伴うランニングコスト、各種用紙代と、DPEとは比べ物にならない費用の持ち出しが継続的に続く一方、自由度の高い紙選びや、自宅でじっくりプリントを追い込んだりなど、DPEのデメリットを補完する位置づけにあります。

インクの種類、ファイル形式、モニターの特性、色評価用の蛍光灯など、突き詰めていけば必要とされる知識・設備も多く、レンズへの投資を制作環境にまわす必要が……ということにもなりますが、一気に揃えようとはせず、現時点で何を最優先で揃えるべきかを吟味し、レンズを生やす合間に少しずつ関連機材を増やしていきましょう。

AdobeRGB対応かつハードウェアキャリブレーション対応モニター、高性能のキャリブレーター、ICCプロファイルに対応した上位機種のプリンターなど、カラーマッチング関連の記事では必要となる機材を容赦なく羅列していきますが、現在の作業環境で一番必要なものは何か、あるいは現時点の機材でどこまでやれるか熟考しながら必要となる機材を検討してください。いずれも安くはない機材なので、揃えたもののそれらを活用しきれずに埃を被せてしまうことは、一番避けるべき状態です。

染料インクと顔料インク

各種あるインクジェットプリンターですが、写真用途に向いたブリンターは、EPSONとCanonの製品になります。スキャナー機能もある複合機では、エントリーモデルでは、インク代がかさむ一方、6色染料(dye)インクのプリンターが1万数千程度で手に入ります。

顔料(pigment)インクは上位機種や印刷専用機(Canonの場合は、カラー染料は黒のみ顔料という機種もあります)に搭載されており、美術館でのアーカイブを前提としたコンペなどでは、応募作品は顔料インクかつアート紙への印刷が義務付けられることもあります。

清里写真ミュージアムが主催する公募「ヤング・ポートフォリオ」の募集要項には、「本公募は、当館のパーマネント・コレクションとして収蔵することを前提としているため、長期保存に耐えられるプリントであることが原則です。」「染料系インクジェットプリント、モノクロRCペーパーは、長期保存に適していません。」という2つの項目が記載されています。

https://www.kmopa.com/yp_entry/entries/guideline.php (最終閲覧2020年2月23日)

染料と顔料の違いはまず、紙の内部に染み込むか、紙の表面に凝固するかという(図参照)違いがあります。発色が安定するまでも染料インクは印刷後1日ほど時間を置く必要があり、顔料インクは比較的短時間で定着するので、プリント後の色の確認がすぐに行えるという利点があります。

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Image:  なんでも便利帳
https://helpful-info.mkstyle.net/printing/ink.html

色の鮮やかさは染料と顔料の違いでもあり、カラフルな色合いをしっかりと出したいのであれば染料インクと光沢紙をしっかりと組み合わせたほうが効果的な場合もあります。一方、重厚な色合いや雰囲気をしっかり出したいのであれば顔料インクが適しています。

モノクロプリントについては締まりのあるグラデーションが求められるため、染料よりも顔料のほうが適していますが、エントリーモデルの6色とは異なるインクを搭載したの中級機、EPSONであればEP-10VA50Vなどは、印刷時の設定をしっかり行えば顔料に比肩するとまではいきませんが、それなのにしっかりしたプリントが行えるほか、モノクロはDPEサービスに出すという選択肢もあります。

清里の例でみたように、美術館における長期保管時の耐久性などの観点から顔料インクとアート紙が必要とされているので、しっかりした用紙を使えば染料インクでも十分な耐久性はありますが、値段の安い互換インクの使用は写真プリント用途では原則禁止と考えてください。

インクジェットのデメリットはDPEのメリットにあたる部分が多く、導入・ランニングコスト、設置場所の問題もあります。A3ノビまで対応のプロモデルでは、大きさもさることながら重量が15~20kgで、価格よりも設置スペースの問題でエントリーモデルや中級機で我慢するという人もいるでしょう。そういった場合は、用紙メーカーなどが展開するプリントサービスを利用し、顔料プリンターで出力してもらうほか、レンタルラボを利用して自分で出力を行うといった手もあります。

そのほか、インクジェットプリンターの利点としては、仕上がりをみながら色合いや明るさを細かく追い込んだり、コンタクトシートを作成し、採用写真を紙の上で絞り込んだりすることができます。写真集を制作する際、モデルやメイクと採用候補を絞り込む際にも、(対面である必要はあるものの)コンタクトシートは非常に役に立ちます。

用紙サイズについて

写真のサイズは、サービス版(L版)、ハガキサイズ(キャビネ)、2L、四つ切り、六つ切りといった規格のほか、A4、A3、A3ノビといったOA規格などがあります。写真の通常サイズは35mmフルサイズ、APS-Cでは「3:2」であるため、OA規格のサイズではピッタリ収めようとするとはみ出す部分が生じてしまうため、フチあり印刷や余白を設定しなければ画像全体をプリントできません。


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 「博覧会の静寂」(2019)。用紙:Gekkoシルバーラベル+、出力:Canon PIXUS PRO-10S。A4。Film: ORIENTAL ニューシーガル100。出力プリントでは余白を設定しているが、文中参考画像では白地背景との兼ね合いで余黒を使用。
 余黒を使う展示作では、外側の余黒のほか、内側の副余黒としてRGBの数値を各90程度に設定した、灰色気味の縁配置し、フレーム、マット、余黒、灰色という四段構えの構造を設定することが多い。

縁を設定した作品画像プリンターの印刷物や一般的な書類サイズとして普及していることもあり、用紙売り場にある紙や写真額もA4、A3が主流で、プリンターのエントリーモデルも最大A4に対応で、中級機以降はA3ノビまでに対応しています。

展示作についても、東京都美術館のように横幅も天井も巨大な空間でなく、一般的なギャラリースペースであればA4~A3ノビ程度のプリントに、ひと周り多くな額装で十分ともいえますが、A2以上のより大きなプリントにこだわる際は、家庭用プリンターでは難しいため出力サービスを利用します。

前半のまとめ

今回はDPEとプリンターの基礎知識を中心に、それぞれのメリット、デメリットをまとめました。みなさんがどのようなレベルでプリントを楽しみたいか・突き詰めたいかによって、利用すべきサービス、導入すべき機材、学ぶ必要となる知識は異なります。

本記事のテーマは展示に向けたプリント知識の習得のため、後半以降はインクジェットプリンターの利用が前提となります。加えて、Adobe Photoshopまたはそれに類する画像編集ソフト(カメラやプリンターに付属のメーカー純正ソフトでも代用はできます)の使用、jpg、tif、PSDなどのファイル形式、RGBやCMYKといったカラーモードなど、撮影技術やカメラよりも、デザイン領域に属する知識が必要となります。

便宜上、写真と呼んではいるものの、我々が画面上で目にしているものは、デジタル写真……言い換えれば画像であり、画面上で表示されているほかの画像と同じデータです。筆者は〈デジタル〉一眼レフを手にし、本格的に〈デジタル〉写真を始める以前から、紙媒体の同人誌を制作していた関係で、エディトリアルデザインやグラフィックデザインを独習してきました(活動の一部は、フォトブック制作に関する記事をご参照ください)。

写真畑の出身ではなく、デザイン畑から写真畑に入ったこともあり、デジタルカメラで撮影された写真は、写真という独立した存在ではなく、印刷物に配置するためのデータとして認識してきたこともあり、デザイン領域の知識をすんなりと写真に接続できたのですが、写真は写真であり、ほかの画像データとは違う、確固たる存在であるという前時代的な固定観念に囚われすぎると、デザイン領域の知見との接続に支障をきたすかもしれません。

ほかの記事でも繰り返し述べていくと思いますが、写真=デジタル写真といっても過言ではない今日において、写真を画像データとして把握する観点は必須であり、データの運用に関する様々な知識も必須とまではいきませんが、一定以上は必要になるでしょう。

欲を言えばカメラマンがデザイナーを兼任するという形が理想形なのですが、自主制作・商業を問わず、撮影した写真を何らかの形で紙媒体で利用する際、納品データで不備を出さないよう、デザイナーにデータを渡す段階で適切な解像度、カラーモードを設定しておく必要がありますし、デザイナー側からの要望を理解できるよう、一定の知識を持っておくことも重要です。

そういった知識を習得すれば、カメラマン自身が編集者となり、デザイナー(DTPやグラフィックデザイン)にもなれるフォトブック制作においては強力なアドバンテージになるので、(デジタル)写真の運用に関する技術向上やレベルアップを図るのであれば、ぜひグラフィックデザインやDTPに関する知識を学ぶことを推奨します……。

Adobe CCのコンプリートプランなら、IllutratorやIn Designも使えるし、PreimireやAfter Effectsまでも、もれなく使えるので、一眼ムービーで撮影した素材を編集して、動画関連の技術を学んでいけば、より強力なアドバンテージに……というより、今後、は動画だけでなく、デザイン関連までもが、デジタル・カメラマンに求められる基本技術になっていくかもしれません。


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