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38-先輩の生霊

 今回の奇想天外な事件の主な登場人物は、50代のA子さん、生霊を飛ばしているA子さんの中学の先輩、A子さんの勤め先の社長の3人。A子さんは旦那さんも高校生くらいの息子さんもいる主婦の方、先輩は独身で公務員の方、男性。社長というのは60歳くらいのオジさんである。

 ある日A子さんが通勤のバスの中で先輩と「偶然」再会した。この「偶然」というのがクセモノ。先輩というのは50歳を過ぎて、ミスチルの桜井にちょっと雰囲気が似ている、まあまあのルックスの人らしい。A子さんは中学の頃、この先輩の第2ボタンをもらったことがあるという。

 それ以来、銀行のATMとかで「偶然」先輩とバッタリ会うらしい。その度に他愛ない世間話などするそうなのだが、だんだんA子さんの自宅などに、何かが通り過ぎるような影や、人の気配を感じるようになったそうだ。

 そして先輩の立ち話の内容も、「旦那さんと一緒に仲良さそうに選挙の投票に行っていたよね」というような「どこで見ていたんだろう」というような内容の話になっていったそうだ。しかもその選挙の投票の話は20年くらい前のことなのだそうである。いつから見ていたのか、どこから見ていたのか、だんだん気味が悪くなってきて、A子さんは知り合いの伝手でお坊さんに相談したそうだ。

 するとお坊さんから「あなたには生霊が憑いていますね」と言われ、
その生霊の背格好などの特徴を指摘され、それがどうも、その先輩に似ているので「中学の先輩みたいです」と言うと、お坊さんから「その人の名前は?」と聞かれて、名前を教えると、お坊さんがその生霊と話を始めたそうだ。

 ちなみにA子さんというのは、50代にして、特徴がうちの奥さんのお義母さんから「あの可愛らしい人」と呼ばれるような、ちょっと魅力的な感じの人らしく、そのような理由から生霊のストーカーが憑いたらしい。「結局あなたの目的は何ですか?」とお坊さんが生霊に聞くと、「A子さんを自分の会社に引き入れて、いずれA子さんと不倫関係になりたい」と言ったそうなのである。ちなみに先輩は公務員だが、そこそこの役職まで出世しているようで、アルバイトなどを自由に採用できる立場なのだそうだ。「うわっ気持ち悪!!、そして怖!!」となった数ヶ月後、A子さんの勤める会社の社長が変わった。

 もともとその会社の社長は、系列の会社から異動してきて2年間社長をやるというシステムになっていて、定年寸前の人が社長として赴任してくるそうなのだが、赴任してきた新社長は前々から内定していた人とは違う人で、突然その社長に決まったそうなのだ。そしてその新社長が、わかりやすくA子さんをイジメるようになった。A子さんはいたたまれなくなり、「会社を辞めたい」と思うようになったそうだ。そしてそんなタイミングで「偶然」街でバッタリ先輩に会う。

 先輩の勤める役所とA子さんの勤め先は近いらしいのだが、お坊さんによって生霊が発見されてからは、お坊さんが結界を張ってくれて、基本的には先輩は近づけなくなっていた。しかし、時々先輩が意図的に結界を破りに来るそうだ。それで地元が同じなので、あまり地元には近づかないようにと、お坊さんからアドバイスされていたのだが、実家の親が入院したりして、地元に立ち寄らざるを得ない時とか、勤め先の近くの普段は立ち寄らないATMなどでバッタリその先輩と会ったりするのだそうだ。

 それら一連のいきさつを聞いたうちの奥さんが「その社長が会社に赴任してきたのも先輩の生霊が仕向けているんじゃないと?」と聞くと、よくぞ聞いてくださったという感じで「お坊さんからも言われたんだけど、どうもそうらしいのよ」ということであった。おそらく社長と先輩は面識がないらしく、生霊同志の見えない世界での、ネットワークというかコミュニケーションで、お互いに連携し合っているようなのである。生霊の世界、奥深し、そして底知れず恐ろしい。

 その後A子さんは年末にものすごく体調が悪くなり、そのお寺にまた相談に行ったのだが、やはり生霊からの攻撃は続いていて、A子さんの足には生霊によるアザができていたらしい。A子さんにはうちの奥さんという、強力な味方が付いたので、うちの奥さんのアドバイスで、社長の念力攻撃をかわすために、銀製品で対抗することになったそうだ。銀製品というのは、念力エネルギーを弾き返す性質を持っているそうで、古代の遺跡から銀製品が出てくるのは、権力者を狙って飛ばしてくる念力を弾き返す目的で使われていたからなのだそうだ。

 A子さんの会社では、A子さんの後ろに社長の席があって、そこからA子さんを攻撃してきていたそうで、卓上のクリップをくっつけておくマグネッの位置をちょっと変えて、社長の方向を向けた途端に、同じオフィスで働いているBさんが突然具合が悪くなり、早退して病院に行ったら肺炎と診断されたそうだ。そしてこのBさんは正月休みに自宅で階段から転げ落ちて骨折したそうだ。そしてもう一人、同じオフィスでパソコン入力を担当しているCさんも腰が痛いと言い出し、パソコンも故障してしまったそうだ。

 それでA子さんは銀製品の効力を実感し、髪留めを銀のものにして社長の念力を意識的に弾き返すようにしたら、社長の体調も悪くなってきて、陰険な攻撃が少しやわらいだそうだ。しかしA子さんは自分が弾き返した社長の念力のせいで、BさんとCさんを巻き添えにしたことを申し訳なく思い、お寺でそのことを相談すると、BさんにもCさんにもそれなりのマイナス要素があって、そのマイナスが社長の念力を引き寄せているので、あなたが気に病む必要はないのですよと言われて安心したそうだ。やはり見えない世界は奥が深い。

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