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CRMには亡霊が棲んでいる

CRM(※本noteでのCRMとは、SFAやMAツールなど顧客情報全般を管理するシステムの意)を用いて顧客管理を行なっている企業は多い。特に現代のスタートアップはSFAとしてSalesforceやHubspotのSales Hub、MAツールとしてPardotやMarketo、Hubspotを導入するのは、オフィスを借り、Zoomを契約をするのと並んで半ば常識である。

CRMとは顧客情報の口座であり、大量の広告費と営業のリソースを注ぎ込んで築き上げた資産が詰まっている。プロダクトと並び、企業の生命線であると断言しても異論を唱える人は少ないだろう。

しかし、すべてのCRMには亡霊が棲んでいる。大企業、中小企業、スタートアップ、業界すらも問わず必ず亡霊はいる。ほとんどの企業は亡霊の存在を知らないか、或いは軽んじ注視していない。

本noteは、企業活動におけるあらゆる計画を破綻させる危険性を孕んだ、亡霊の存在を警告するものである。このnoteを最後まで読んだあなたは、必ずCRMを確認したくなる。

亡霊とは何か

本noteの主題である亡霊とは、顧客情報そのものである。問い合わせがあったリード、ホワイトペーパーをDLしたリード、展示会で名刺交換したリード、いずれも亡霊になり得る。

見込み客であるリードを亡霊扱いか、そう眉を顰めたあなたは良いセールス、もしくは良いマーケターだろう。

下記を見てほしい。

会社名:NEXT株式会社
姓:佐藤
名:太郎
電話番号:080-1234-5678
メール:taro.sato@next.co.jp
部署:営業部第一課
役職:課長
業種:IT

よくあるリード情報である。多くの企業はこれに1つか2つの項目を足したフォームを使用していることだろう。
マーケティング担当はこの情報をもとにどんなメールマーケティングを行うか考え、セミナーを企画する。
インサイドセールスはこの情報をもとに相手の抱える問題を推測し、架電する。
経営陣はこの情報をもとに自社の抱える見込み客を把握し、売上を予測、VCへ提案する。

だが、もしこのリードが亡霊だった場合、当然ながら実体はない。
リード情報としてCRM上に存在するのに、実体がない。それこそ亡霊の正体である。

職業柄、私はこれまで数多くのCRMを見てきた。もっともひどいケースだと、CRM上に存在するリードの約半数が亡霊だったこともある。

では、何が原因で亡霊は生まれるのか。下記に紹介する。


重複

このタイトルで、おおよその主旨が理解できた者も多いだろう。CRMにとって、リードや取引先情報の重複は避けられない。リード情報の例としてあげた『NEXT株式会社』は『ネクスト株式会社』、『株式会社NEXT』、『NEXT』などと揺れる可能性があり、それぞれに佐藤太郎が存在したとする。するとあっという間に3件の亡霊ができあがる。

ナーチャリング施策やリスト作成の母数はハウスリードの数である。「この施策ならCVRは5%ほど見込めるので、全体に打てば何件の商談が生まれるだろう」、そんな計画もスタートから破綻している。

皮算用でも狸に逃げられる(=CVRが優れない)のはまだ良い。銃を担いで入った山に、そもそも狸が住んでいないのでは笑えない。


退職・異動

厚生労働省の発表によると、大卒の新卒社員は3年以内に30%が退職するそうだ。これは大企業や公務員なども含めた数字なので、スタートアップや中小企業に絞ればもっと高くなるだろう。

逆に大手企業はジョブローテーションが多く、3年単位で部署異動を繰り返すケースが多い。

つまり、ほとんどの社会人は3年も経つと退職か異動するのだ。私は役職変更を3回、部署異動を3回、転職を1回、これらを1年間で経験したことがある。

NEXT株式会社の佐藤太郎が2年前に流入していたとして、本当に今もNEXT株式会社に在籍し、営業部に所属し、役職は課長だろうか?
退職していればその電話番号(おそらく社用携帯)は意味を持たない数字の羅列であり、メールアドレスにいくらメルマガを配信しても返事はバウンスの通知のみだろう。
人事部の採用担当に異動している可能性もある。人事部所属となった佐藤太郎に、セールステック活用のセミナー案内を送ったところで、CVするとは考えにくい。

にも関わらず、亡霊となった佐藤太郎は今日も架電リストや配信リストに混ざり、母数としてカウントされ続ける。


日々どれだけの亡霊が生まれるのか

一般的にリード情報は、異動や退職などが理由で1年経つと全体の30%が不正確なものになる。予算を割いて広告を打ち、展示会に出展し、年間1000件の新規リードを獲得したとしても、

2年目には1000件中300件が、3年目には1700件中510件が不良リード(=亡霊)となり、累積5000件のリードを集めた6年目、不良リードは全体の半分近い2223件となる。

架電リストの半分、メルマガリストの半分、保有リードの半分。

亡霊が企業に与える影響は、けっして軽視して良い規模ではない。


亡霊を祓う3つの方法

①自動名寄せを信じない

数多くのツールが自動名寄せを謳っている。しかし、その多くはあくまでオプション機能でありメインのおまけである場合がほとんど。精微な動作を望む方がお門違いである。


②データクレンジングの専任担当を設ける

亡霊はリード数を誤認させ、MAツール導入のタイミングを不必要に早め、果ては売上計画を破綻させる。
経理や労務に専任がいるのと同じで、データを綺麗に保つ専任担当を設けるのは必須。
これはSFAやMAツールが浸透し、顧客情報をビジネスサイドで管理するようになった弊害でもある。過去、それはエンジニアの仕事だった。つまり一定以上の技術が必要な、専任を設けるべき仕事なのである。


③マージをネガティブな依頼にしない

多くの場合、リードや取引先の情報をマージ、もしくは削除できる権限を持っているのは少数、ほとんどがシステム管理者だろう。

しかし、亡霊を発見するのは自身でリストを作成し、一件ずつ開く現場のメンバー。「余計な仕事を増やすのは申し訳ない」、ちらとでもそんな感情を抱かせていたとしたら、それは管理者の責任である。メンバー自身が操作ミスで作成してしまうこともあるが、多くはリード流入時に起きた重複を偶然発見するのであって、メンバーが申し訳なさを感じる理由はない。

Slackで都度メッセージを送るなど愚策も愚策である。せめてワークフローを組み、個人への依頼感を薄くさせる努力はすべきだ。

もっとも望ましいのは不良リードの発見からマージ依頼までを功績とする文化作りであり、ストレートに評価基準の1つとしても良い。


最後に

亡霊はいる。どこにでも。企業に与える悪影響は計り知れない。
この駄文を最後まで読んだあなたが、明日にでも自社のCRMを確認し、いち早く対策を上申(もしくは部下に指示)することを願う。

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