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Now you have a story.

何度か書いたけれど私はロンドンが大好きで、スペインに住んでいたときもよくロンドンに逃亡していた。

人が列に並ぶなどマナー面がバルセロナよりきっちりしているのと、話し声が静かである(叫ぶような大声で話していない)ことにホッとしたし、世界レベルの国際都市でビジネスの中心地であることから、バルセロナにはない独特のキビキビ感があり、多国籍の人に囲まれて「外国人」であることを意識しないでいられるのが本当に居心地よかった。

本屋さんも多く、文化的施設が充実しているロンドン。

深く息を吸い込めてホッとできる反面、私にとってそこは「休暇」の場所ではなく完全「オン」になる場所だった。

夥しい数の素敵な本屋さんを全部回ることは到底不可能だとしても、できる限り足を運ばないではいられない。つまり、「なにもせずぼーっと」することが不可能な場所。

ロンドンではいつも何かが起こっている... それを見逃したくない、という思いが強かった。

その日も私はロンドンの諸々を見逃したくなくて、ブリック・レーンと呼ばれる活気があって移民も多い地区を歩きまわっていた。

すると通りの途中で頑丈な鉄扉が半開きになっているのが目に入り、中を覗くと地下に誘導するようなアートが壁に描かれていた。

なんとなく不思議の国のアリスのような気分で地下に降りると、そこは有名なブリック・レーンのマーケットだった。

個性的な古着屋さん、ヴィンテージショップが狭い空間にぎゅっと詰め込まれるような形で軒を並べていて、その雑多感といい色合いといいまるで宝箱のような空間。

そこで私は「無」になり、目のついたアメーバ状の流動体になり、ある店から次の店へのそーっと移動し、目の前に繰り広げられる商品の山にひたすら目線を這わせた。

しばらくアメーバ移動を続けていると、なかなか無い好みの形のジーンズを見つけてしまい、私は初めて人間の形に戻った。

試着したらなんとサイズぴったりだったので、「このジーンズください」と言ったものの超カード社会のロンドンにおいてカード支払いが出来ないと言う。ポンドは最小限しか換金していかなかったので、持ち合わせが無かった。おまけに店じまいするところで、取り置きもできないと言われた。

正直宿泊先はマーケットからかなり遠かったので迷ったけれど、翌日戻ることに。

翌朝、ATMで現金をおろしてマーケットまで遠い道のりを歩いた。

売れていたらどうしようと一抹の不安を抱えながら行ってみたら、無事あった。

しかし古着屋とはいえ取り置きができないこととか、カード使えないこととか、ホテルから遠かったこととか色々モヤモヤしたので、お会計の時にひとしきり文句を言ったらスタッフのお兄さんに「Sorry to hear that, but now you have a story.」と言われた。

チョロいかもしれないけど、そこで私は魔法にかかってしまった。

日本式にひたすら平伏して謝るのでもなく、スペイン風に気にしない、謝らないのでもなく、「ごめんね。でもこれで(このジーンズについて)話のネタができたね」ってさらりと言ってしまえるかっこよさ。これだからロンドンは... とロンドン好きな気持ちが高まってしまった。

もちろん、どこの国でも人によって対応は千差万別。これはただの一例だし、ロンドンでもめちゃめちゃ感じ悪い人はいるけど、私にとってそれは他の場所で出会うことのできなかった特別な瞬間だった。

もしかするとこの一瞬を味わうために私は旅をするのかもしれず、そうして得たstoryを味わったりシェアすることこそが生きがいなのかもしれない。



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