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クリエイターエコノミーを乗りこなす学生ライターはなぜ成功できたのか?佐々木チワワ×けんすう対談

大学生ながらクリエイターエコノミーの流れに乗り、自分の名前で仕事をするライター・佐々木チワワさん。

社会学を専攻しながら歌舞伎町をテーマに執筆活動をする彼女が、どうやってクリエイティブ活動で生計を立てているのか、アル株式会社代表・けんすうも参加し、話を聞きました。

高校生でライターを始め、歌舞伎町へも通うように

ーー佐々木チワワさんは、「歌舞伎町の社会学を研究する現役女子大生ライター」を自称されていますが、どんな仕事をしているんですか?

チワワ:自称している通りなんですが、大学で社会学や文化人類学を学びながら、「週刊SPA! 」や「PRESIDENT Online」、「文春オンライン」などで執筆するライターをしています。

普段は歌舞伎町に通って体験したことや人脈を活かして記事を書いたり、エッセイを書いてnoteに載せたり、研究のために論文を読んだり、リサーチという名目でホストに通ったりする生活をしています。

けんすう:ライターの仕事はいつからしているんですか?

チワワ:高校一年生のときですね。同じくらいの時期から、歌舞伎町にも足を運ぶようになりました。

ネットで求人を調べて応募したのがきっかけで、最初は高校生であることを活かして高校生向けに低予算で行ける都内のデートスポットを紹介する記事を書いたりしていました。

他にも、女子高生の間で流行っていることを社会人向けに解説する記事を書いたり、映画のPRのために芸能人にインタビューしたり。

ーー最初から歌舞伎町をテーマに書いていたわけではなかったんですね。

チワワ:初めて歌舞伎町に行ったのは高1の大みそかで、実家に帰省したくないという理由から家出半分で足を運びました。

ホストクラブなどに興味を持ったきっかけはまた別で、高3のときに『マツコ会議』という番組で冬月グループという大手のホストグループを特集していた回を見たことです。

それから大学進学後、深夜に友だちとノリで歌舞伎町にある自殺名所のビルに行ってみたら、今まさに自殺しようとしている女の子と、それを止めようとしているホストに遭遇してしまって。

けんすう:大変な状況じゃないですか!

チワワ:大変でしたし、すごく驚きました。

友だちと一緒に止めに入って、ホストも合わせた3人でその子の話を聞いてみると、その子はホストにどっぷりハマっている、いわゆる「ホス狂い」の女の子で。

どうやらホストに通う余裕がなくなってしまったようで、「お金を使わない私は生きている価値がない」と号泣し始めちゃったんですよ。

ーーすごい経験ですね。

チワワ:そのときは「歌舞伎町にいる女の子ってこんな感じなんだ」と、どこか他人事のように感じたことを覚えています。

一方でそれがきっかけになり、歌舞伎町という街の価値観やお金の流れにも興味を持ち始め、大学での研究テーマにすることにもつながりました。

それから、リサーチのためだと言ってホストに通うようになったんですが、次第に依存するようになり、気づけば私自身がホス狂いになってしまって(笑)。

けんすう:興味本位で聞くんですけど、ホストって何が夢中になるほど面白いんですか?

チワワ:私の場合だと、ホス狂いの子ってある種、担当との関係性しか悩みがないわけで、それを維持するためなら家族でも生活でも何でも犠牲にできる、それ一つだけに全力という生き方に憧れがあったんです。

何かに人生を賭けようにも、やりたいことがありすぎて選べなかったので、その対象が人ならいけるかなって。

ただ、結局私はそこまで何もかもを犠牲にするほどにはなれなかったし、大学を休学していた時期もあったんですけど、半年で大学に戻ってきました。

けんすう:今もホストクラブに通っているそうですが、それは同じ理由で?

チワワ:今の私は佐々木チワワというコンテンツを売っているわけですが、その仕事の人格と切り離した一人の女の子として、ホストが相手だと素でしゃべれるんですよ。

お金を払って成り立っている関係だから、いつでも切れる関係性の人としゃべれると思うと気楽だし、あとはシンプルに顔がいい(笑)。

大学でそんなに好きじゃない男の子となんとなく付き合うよりは、課金してでもイケメンとキラキラした思い出を作りたいんです。

あと、ホストって基本的にお店の外ではお金を出してくれるんですよ。

アフターでバーに行ったりすると女の子としてエスコートしてもらえるし、最後はタクシー代を出してくれたりして、店内のサービスだけじゃなく店外でも女の子扱いしてもらえるわけで、私からしたらすごくコスパがいいんです。

けんすう:なるほど、面白い…。

自分しか書けない内容をアピールして単価を上げた

ーーちなみに、歌舞伎町について書くライターとして、どうやって生計を立てていったんですか?

チワワ:歌舞伎町をテーマにした書き仕事については、それまでのライター業の人脈が活きているわけでもないんですよね。

たまたま歌舞伎町関係で知り合った人が「実話ナックルズ」の編集者さんと知り合いで、大学で歌舞伎町の研究をしてライターもやっていたので、文章が書けますと売り込んだんです。

それで、もともと書いていたnoteの文章を送ったら、仕事を一件もらえたのがきっかけです。それが去年の11月ですね。

ーー仕事になったのは、結構最近のことなんですね!

チワワ:そうなんです。それまでも歌舞伎町について文章を書いてはいたけど、あくまで私的なものだけだったんですよね。

それで、一度出した記事がよかったからとまた仕事をもらい、だんだんと担当する記事数や、それぞれの文字数も増えていって。

それから、紹介などで他の雑誌の編集者さんともつながっていって、今では複数の媒体で並行して執筆の仕事を受けているわけです。

けんすう:それって、何が評価されて仕事をもらえるようになったんですか?

チワワ:がっつりホストクラブにハマったり、自分自身が歌舞伎町にどっぷり浸かりながら、その様子を客観的な目線で分析して書ける人が少なかったからだと思います。

歌舞伎町について書くライターはそれなりにいるんですけど、自分自身の話とか、知り合いの話を体験談として書けるだけのパターンが多いんです。

その点私は大学で研究もしているので、社会学的な知見と照らし合わせて書けるのをアピールしていました。

ーーそれはよくある、記事あたり一本いくらという感じの仕事の受け方ですか?

チワワ:そうですね、一本いくらという感じです。

編集部ごとに一本あたりの価格は違うのですが、昔と比べると明らかに単価が上がって、自分の文章でお金をもらって生活できているので驚きです。

高校生の頃に書いていたコラム記事ってとにかく安くて一本1,500〜3,000円、高くて5,000円くらい。高校生にしてはいいバイト、くらいの感覚でした。

ーーそうなんですね。ちなみにライター業はこの先も続けていく予定なんですか?

チワワ:続けるつもりです!今のところ、文章を書く仕事でお金を稼ぎながら大学院に行き、学生でいられる期間を延ばして活動範囲を広げたいと考えています。

ライターとして、好きな場所で好きなことを見聞きし、書きたいものを書いてお金をもらえているので、この先もそれを維持したい気持ちはありますね。

けんすう:30〜40代でもやりたいことをやって生活を成り立たせている人は少ないと思うんですけど、大学生のうちからそれを達成できているのはなぜだと思いますか?

チワワ:いろんなところで「こんな仕事をしたい」と言っていたのはあるかもしれません。

たとえば、いろいろなところで「本を書きたい」と言っていたら、本当に書籍化の話が立ち上がったり。

今、編集者さんと原稿をやり取りしているところです。

書くスキルよりも、ファンを増やすことを優先

ーー仕事としてライターを始める前にnoteなどで私的な文章を書いていたのは、どれくらい役に立ちましたか?

チワワ:すごく役立ったと思います。

好きなことで仕事をもらいたなら、まずは仕事にならなくても、とにかく実績を作っておかないといけないと思うんです。

もしくは自分の肩書きや経歴は、生い立ちを説明したくらいのものでもいいから、絶対にまとめておいた方がいいと思います。

初めてけんすうさんにDMしたときも、自分が取材された記事を送ったんですよね。

けんすう:ですよね、読みました。

「elu」というクリエイター向けのデジタルデータ販売サービスをやっているんですけど、それを伸ばすための取り組みを一緒にやってくれる人をTwitterで募集したときに、佐々木さんがDMを送ってくれたんですよね。

たくさんの人からDMが届いたんですが、その中でまともに自己紹介を書けていた人は実は半分くらいしかいませんでした。

やりたいです!興味あります!という一言だけとか、そもそもクリエイターでもない人からの連絡とかがどんどん来ちゃうので、相手から見て何者かわかる状態になっているだけで差がついちゃうんです。

チワワ:大学の後輩とかにも、大人はこっちがただの学生であっても、案外ちゃんと肩書きを見てくれるから、ちゃんと自分のことを説明する文章は書けたほうがいいよ、とよく話しています。

社会人って忙しいから、時間が余っている学生側が自分のことを伝える工夫をして、相手にこちらのことを調べさせるコストをかけさせないようにしないと、チャンスが減っちゃうんですよね。

けんすう:こういう話って、佐々木さんからすれば基礎レベルのことだと思うんですけど、案外できていない人がたくさんいると思うんです。

佐々木さんから見て、自分のクリエイティブで食べていける人と、そうじゃない人の一番の差って、どこにあると思いますか?

チワワ:自分にファンをつける工夫をしているかどうかじゃないでしょうか。

私は高校生の頃からライターをしていたのもあって、人よりは文章が書けたけど、当時の私のライターとしての価値は、高校生として高校生目線の記事を書けることが大きかったと思うんです。

その価値は歳を重ねるごとに減っていってしまうので、自分がライターとして生き残るための工夫をいろいろとしてきました。

特に大切にしていたのは、私の文章だから読みたいと思ってくれるようなファンを増やすことで、記事を書くときにも自分の話を盛り込んだり、文体も一目で私の文章だとわかるように書きました。

そうやって少しずつファンを増やしていったから、「佐々木チワワの記事は全部読む」という人を実際に見かけるようになって、編集部に仕事をもらうときも、ファンがいるから他の人よりPVを稼げるよと言ったり。

けんすう:すごい。普通、初心者のライターだったらライティングスキルを伸ばす方向に行くと思うんですけど、ファンを増やす方向に進んだんですね。

チワワ:むしろ、最近本を書くようになって編集者さんにしっかり文章を見てもらうまで、ライティングをちゃんと勉強したことがなかったです。

だから今、書くのにすごい時間がかかって苦労しているんですけど(笑)。

でも、もし書いて伝えるスキルだけあったとして、何を伝えられるのかという話になると思うんです。

書くスキルだけがあるというよりは、自分にしか伝えられない内容があることを優先したほうがいいんじゃないかと思っていて。

私の場合は15歳から歌舞伎町に通って大金も使って、アカデミックな視点で分析もできますというところですね。

それに、記事のタイトルとかってどこのメディアでも定型文になってきているから、ライティングスキルを伸ばしても自分だけにできることにはなりにくいと思うんですよね。

これからはプロセスを発信して「予算」を増やしたい

ーー先ほど、私的な文章を書く活動を通じてお金をもらえるようになりたいとお話しされてましたけど、例えばどんなことを想定しているんですか?

チワワ:ホストとのLINEのスクショとか売りたいんですよね。どういう会話をして、どういう流れで50万円使うことになったのか、みたいな(笑)。

ただそういう話って、ホストの営業方法を暴露することになっちゃうので、担当ホストの許可をとった上で、数量限定販売とかができるといいのかなと思っています。

あとは、文章や配信でもらった投げ銭を使ってホストに行き、それをまた記事にしてお金をもらう、みたいこともやりたいです。

けんすう:それ、これからのクリエイターの稼ぎ方として理想的だと思うんですよね。

今、クリエイターエコノミーという言葉が盛り上がっていて、ファンが直接課金できるようになり、クリエイターがよりお金を集めやすくなる流れが起きています。

この動きを僕は「予算革命」だと捉えていて、クリエイターがやりたい活動に直接課金の予算がつくことで、より面白いコンテンツを作れるようになるんじゃないかと。

普通のライターさんって、1記事あたり1万円で書いたとして、20本書いてやっと20万円なので、ホストに100万円も払えないし、ホストの記事を書くライターさんってなかなか成り立たないじゃないですか。

チワワ:本当にそうで、仕事をライター業に絞ってから、ホストクラブに行ってもシャンパンとか全然開けられなくなっちゃったんですよね(笑)。

けんすう:でも、ホストクラブで100万円使ったらどうなるのかみたいなコンテンツって、ちゃんと面白そうじゃないですか。

その点、ライターって取材をするプロセスの中でいろいろな副産物があるはずなので、本人にファンがついて副産物にお金を払いたいという人が増えると、今の予算じゃできないことができるようになっていくと思うんです。

ーー完成したコンテンツではなく制作途中のプロセスがお金になる、プロセスエコノミーですね。

けんすう:知り合いのジャーナリストで賞をもらったりするすごい人がいるんですけど、一つの事件をしっかり取材するのって、本当に時間とお金がかかるらしいんですよ。

半年かけて一つの記事を書いたりするのってなかなかできないから、重大な事件が取材されないままになっちゃっていたりすると言っていて。

チワワ:基本的にクリエイターって納品しないと収益にならないし、納品してからもお金が振り込まれるのが遅いから、予算を用意しにくいですよね。

ライターだと、企画が立ち上がり、取材をして記事を書き、校了してからようやく請求書を送って、そこから翌月振り込みだったりするので、数ヶ月くらいかかってしまうことも多いんです。

けれど、例えばホストクラブだと、その日のメンバー、その日の空気だから見れるドラマがあったりするんですよ。

そんなとき、「今この瞬間に50万円集められたらそれだけですごく面白い記事が書けるのに」と思ったりするんです。

一方で、私はプロセスエコノミーは好きだけど、売る人も買う人も気をつけないと、病む人が増えちゃう危険もある気がしていて。

ーーというと?

チワワ:プロセスにお金を払うのはその人のファンだからであって、作品ではなくクリエイターの人間性を消費している部分があるわけじゃないですか。

そうやって人間性で売っていたクリエイターがいるとして、もし作品の売り上げが落ちてしまうと、自分自身の価値が下がったように感じてしまうんじゃないかと。

けんすう:まさに、それはありそうです。鋭い指摘だと思います。

チワワ:だからクリエイター側としては、何を消費してほしくて、何を消費されたくないかを自分で考えていく必要が増えていきそうですよね。

「作品とクリエイターの人格は分けて捉えるべき」と言われたりしますけど、多くの人にとってはそれはどうしても結びついてしまいやすいものだから、コントロールしたほうが良さそうです。

その点、一部のお金を払ったファンだけが見れるコンテンツを公開できる場って、すごくいいなと思うんですよね。

けんすう:すごくよくわかります。

クリエイター側が人格を出しすぎると作品を好きなファンが引いちゃったりするし、逆に人間性も含めてファンがつくようなクリエイターが勝てなくなっちゃうのも違います。

クリエイターが限られた人に向けて気持ちよく人間性を出せる場って、すごく大事になっていくと思います。


運営:アル株式会社

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